お嬢様の警護(終)
「へのへのもへじ殿とは、オリ殿の知り合いか?」
へ?
「変わった顔してるわね~」
「こら、失礼だぞ。ごめんなオリ君」
陽キャは案外しっかりしてるな。俺の名前まで覚えてくれてるし。
それにしても、へのへのもへじを知らないとは思ってたけど、似顔絵だと思ったのか。
「これ、人じゃありませんよ」
「なんと! どうみても人の顔だろう」
だとしたら『の』の目を持つ人可哀想だろ。
ああ、でも『の』の中を塗れば案外行けるか。つぶらな瞳感出るな。
「すみません、人でした。俺の故郷の知り合いです」
説明が面倒くさいから人にしとこう。
「ははは、オリ殿は忘れっぽいな」
「ははは、そうですね」
「オリ君は絵が上手いんだな。他にも描けるのか? 俺を描いてくれよ」
へのへのもへじで絵が上手いと言われる日が来るとは。
「そんな上手いって程じゃないけど」
素直に嬉しい。
「じゃあ、描いてみようかな」
陽キャさんと呼ぼう。心の中で。
(名前聞いたらいいじゃないですか)
いや、そんな雰囲気ないだろ。お嬢様が名乗ってないんだし。
それにしても最近よく似顔絵を描いたせいか、自分で言うのもなんだけど、上手くなったような気がするな。
(絵は描けば描くほど上達するといいますからね)
そういえば、この間ツキに俺を描いて貰ったのに、お返ししてなかったな。今度ツキを描いてやるからな。
(あのゴミの話はやめて下さい)
俺はゴミを部屋に飾る趣味はないぞ。
(捨ててくださいと言ったのに)
3割増しで可愛く描いてやるからな。
「よし! できたっと! じゃじゃ~ん!」
高級店で何やってんだと怒られそうだが、貸し切りらしいので堂々とお絵かきしている。
「うまっ!」「上手~!」「オリ殿! 凄いぞ!」「まぁ~……」
「「「…………」」」
俺、陽キャさん、弓姉が『今、お嬢様も反応したよな』とアイコンタクトする。
「凄いな~、オリ君。これ欲しいけど、試し書き用の紙だから貰っちゃダメだよな~」
「どうぞお持ち帰りください」
お店の人が微笑みながらOKしてくれる。
「いいんですか?!」
陽キャさんが喜ぶ。
喜んで貰えて描いた俺も嬉しい。
「えへへ、こんなん初めて描いて貰った~」
陽キャさんが似顔絵をじっと見てしみじみとしている。
「お客様はとても絵がお上手でいらっしゃいますね」
「え、そうですか?」
お店の人にまで褒められて、さらに嬉しい。
「これぼどまで絵がお上手な方はなかなかいらっしゃいませんよ」
「え~、褒め過ぎですよ~」
「そんな事はないぞ、オリ殿。胸を張って良い。私も今度描いて欲しいくらいだ」
すみません、勝手に何枚か描かせてもらってます。
「いやいや、ホントそこまでじゃないですって」
「ダメか……」
ショウさんがしょんぼりしてしまった。
「ダメとかじゃないですよ! 今度、今度会った時に描かせて貰います」
「本当か! じゃあ今度っ……」
そういえば、もう二度と会わないとか言われてるんだった。
「すまん、無理を言った。私はやはり描かなくて良い」
気まず~。
「オリさん、本日は終了となります」
え?
「迎えの馬車が用意してありますので、お帰りください」
ええ?!
お嬢様のお供に任務終了を告げられた。
俺だけでなく、陽キャさん、弓姉も突然の事に驚いている。ついでにお店の人も驚いてくれている。
こんな風に退場になるのか……
「あ、はい。じゃあ失礼します。今日はありがとうございました」
「ツキさんは残って頂いて大丈夫ですよ」
一緒に帰ろうとしたツキがお嬢様のお供の人に呼び止められる。
(残った方がいいですか?)
せっかくだから残った方がいいだろ。
(分かりました)
ショウさんもいる事だし、戻らずにお前らを見てるから。
(ストーカーですね)
違うよ。
(分かりました。では後で合流しましょう)
おう。
◇
「なぁにがダメだったのかな~」
絵を褒めてもらえて調子に乗ってたのが原因かな……
現在、皆は高級料理店でおいしい昼食をお召し上がり中だ。
俺はと言えば、高級料理店の屋上で寝ころびながら空を眺めて過ごしている。
アイテムボックスにたくあんぬがあったな……
「ぽりぽり……ぽりぽり……虚し……」
フェスが作ったたくあんぬはおいしいけどね。
「腹減った……俺もおいしいご飯が食べたいよ~」
(何か買ってきて食べればいいではないですか)
「この辺り、高級店ばっかりで買い食いできるような所ないんだよ」
草でも食ったろか。
(それはナイスアイデアですね)
もぐもぐ……ってバカヤロウ。
(あなたが言ったのではないですか)
そうですね。
(もうすぐデザートが出て終わりなので、もうしばらくしたら帰れますよ)
何食べた?
(帰ったら教えますよ)
あっそ。
(あ……)
どうした?
(弓姉が退場しました)
えー! ここまで来て?!
(どうせならデザートを食べたかったでしょうに……)
むしろ陽キャさんとお前はよく残ってるな。
(私を誰だと?)
ツキ・ソーイさんです。
(あ……)
どうした?
(私も退場になりました)
お前が誰だって?
(ツキ・ソーイと申します。クソダサネームで泣いた事もあります)
そりゃ悪かったね。
「では、ショウさんが終わるまで待ちますか」
「おわぁ!」
急に現れるなよ。
「上に上がるのを見られると厄介なので。こういう時、瞬間移動はいいですね」
こういう時以外でも瞬間移動はいいと思うぞ。
「お前と弓姉はなんで退場になったんだ?」
「そうですね……ショウさんと長く話していると退場になるようです」
お前、話さないだろーが。
「私からは話していませんが、ずっと話しかけられていたので頷いていたら退場になりました」
理不尽。
「弓姉は?」
「弓姉は、普通にショウさんに話しかけていたので退場になりました」
「陽キャさんは無事なんだ?」
「陽キャさんはずっとお嬢様に話しかけていましたから」
お~、本来目的を忘れてないな。
「最後まで任務遂行できなかったのは残念だったけど、当初の報酬は貰えるし、ショウさんとも会えたからまぁ良いか。なにより、お嬢様は無事だしな」
「友達ごっこ任務ですからね」
辛辣だね。
「帰るようですよ」
お! じゃあ、お前と弓姉用の馬車に乗せて貰って帰るか。
「ではまた次回」




