お嬢様の警護(3)
お前も被っとるんかーい!
(ベタベタなツッコミですね)
べたべたでもどろどろでも何でもいーわ。
(ねちょねちょでも?)
サイテー。
(何が最低なのですか?)
『ちゃ・ちゅ・ちょ』を取り入れた途端に卑猥になるからやめなさい。
(それはあなたの頭が卑猥なだけでは?)
そうかもしれませんね。
「じゃなくて!」
突然大きな声を出した俺に馬車内の面々がビクッとする。
「あ、すみません。何でもないです」
お前のせいで、変な奴になっちゃっただろ。
(安心して下さい、あなたは普通の人ですよ)
それはそれでなんか嫌な言い方だな。
(面倒くさい人ですね)
「じゃなくて! あ、また……すみません」
「オリ殿、どうした馬車酔いか?」
乗り物酔いで突然声出すって、どんな酔い方だよ。
「違います違います。こんな凄い馬車乗ったの初めてで、なんか緊張しちゃったみたいで。ツキが」
ツキが頭をぐりんっと回してこちらを見る。
こわぁ。ホラー映画に出て来る変な人みたい。
(異常行動でもしましょうか)
やめてやめて。
「ははは、内緒だったな。ごめんごめん」
白目むくなよ。
「ははは、二人は仲が良くていいな」
馬車の中では俺とショウさんが談笑している。ショウだけに。
(本当にぶっ飛ばしますよ)
すみませんでした。
それにしても俺とショウさん以外誰も話さないな……
それもそのはず、お嬢様はショウさんと色違いなだけで全く同じ服装をしていた。
帽子から布が垂れている所まで一緒だ。ちなみに色はピンク色。
馬車の中なんだから、二人とも帽子取れば? なんて事はもちろん言えない。
お嬢様は話さない。名前も言わない。無言でショウさんの隣にいる。そしてなぜか腕を組み寄り添っている。
初対面なのにパーソナルスペースゼロだな。友達設定だからアリなのか。俺は演技とはいえあんなにベッタリされるのは嫌だ。
それにしても……ショウさんの事、気に入ったのかな?
場所の座り位置は俺の右側にツキ、左側に陽キャ、そして正面にお嬢様、お嬢様の右側にショウさん、左側に弓の人が座っている。まさかのお嬢様と冒険者たちだけ空間。
「今日はどこ買い物に行くの~?」
弓の人が果敢にも友達に話しかけるっぽい感じでお嬢様に話しかける。
「…………」
無言だ。気まずい空気が流れる。
「着いてのお楽しみか~。どこかな~?」
上手い。無言に対する、最適解な気がする。知らんけど。
「お昼も食べるって聞いたけど、何だろうな~。楽しみだな~」
陽キャの人は皆に話しかけている。
「私は朝食を抜いてきたぞ」
ショウさんが気合を入れて昼食に臨んできた宣言をした。
「それ大丈夫なんですか?」
冒険者なのに、それで戦えるのか?
「オリ殿、私は大丈夫だ。毎日抜いてるからな」
それだと話し変わって来るぞ。
「ふふっ……」
お嬢様が笑った。
やるな、ショウさん。
「何か面白い事でもあったのか?」
おーい。
お嬢様がコクリと頷く。
「そうか、良かったな」
お嬢様がショウさんの腕をさらにギュッと握り、腕に頬ずりしている。
「はは! おかしな奴だな。さては甘えん坊だな」
この人凄いな。
お嬢様とショウさんのやりとりに、陽キャと弓の人があっけに取られている。
確かに二人の世界だ。ツキは通常営業だ。一言も話さない。
微妙な空気が流れたり、流れなかったりしていたら馬車が停まった。
「お嬢様、ゴールドオプリタディオンに到着いたしました」
何屋さんかな?
「凄い店名ね! 何を売ってる所なの?」
弓の人が素朴な疑問を聞いた。
「…………」
またしても無言。
「中に入ってのお楽しみか~。何が売ってるんだろ~?」
強い。強いよ弓のお姉さん! 俺なら膝抱えて泣いてるよ。
これからは弓姉と呼ぼう。心の中で。
「じゃあ、行こうぜー!!」
陽キャの人も元気で偉いぞ。
◇
「ふわぁ~、すごぉ~い。何ここ~」
弓姉が口を開けて驚いている。
「何これ、何これ? ペン? 紙?」
買い物場所『ゴールドオプリタディオン』は高級文房具店だった。
「凄いな」
この世界に文房具店、しかも高級店があるとは思わなかった。
「俺、結構文房具好きなんだよな」
何時間でもいられたりするタイプだ。
「ほう、オリ殿は文房具を嗜むのか」
「なかなか買えませんけど」
前の世界で気軽に買えた物がこちらの世界ではさすがに高い。しかもこの店みたいな高級文房具なんて夢のまた夢だ。
「確かにそう~。文房具を買うお金があるなら、武器防具を買っちゃうもん」
弓姉が話に入って来る。
そう、この店は冒険者に縁がなさすぎる店なのだ。そもそも普段の格好なら入店拒否だろう。
「こんな値段の文房具、誰が買うんだろうな」
陽キャが高そうなペンをジロジロ見ながら言う。
それは、こちらにあらせられるお嬢様でしょうが。
「お客さんいないもんね」
確かに俺達しかいない。
「本日は貸し切りとなっております」
お店の人がさらりと教えてくれる。
なにぃ?!
俺、陽キャ、弓姉が『やばいね』とアイコンタクトする。
俺、この二人とパーティーだったっけ?
なぜか息のあった反応をしていた。
ショウさん、ツキは気にもしていない。
だと思ったよ。
「じゃ、じゃあゆっくり見れるな~。お嬢様」
「ご自由に試し書きなどされてみて下さい」
「いいんですか?」
「もちろんでございます」
物腰の柔らかいお店の人が、気持ちの良い接客をしてくれる。
さすが、高級店。教育が行き届いている。とても店員さんとは言えない。
「え~、じゃあ、ちょっと書いちゃおっかな~」
高そうなペンだけど、本当に怒られないんだろうな。
お店の人をちらりと見たら、微笑んでくれた。
う~ん。ジェントルマン。
「試し書きといえばこれだろ」
さらさらと高級ペンで高級紙に試し書きをする。
(またくだらないものを)
誰も分かんないからいいだろ。
「オリ殿。これはなんだ?」
「へのへのもへじ」
その場にいた全員が頭に『?』を浮かべたのが分かった。
ではまた次回。




