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意気消沈

 さて、どうしたものか。

 まさかこんな日が来るなんて。

 あのライが。

 いつも頼り甲斐があって。

 懐も深くて。

 イケメンで。

 優しいお兄さん。

 歳は一緒だけど。

 憧れさえ抱いていた人。

 ライが……。

 

「俺の性欲が強すぎたせいで、ショウ姉がいなくなったんだ。どこでも盛ってた俺のせいで」


 こんな事言ってるなんて。


「ダメなんだ、ショウ姉を見ると熱に浮かされたみたいになっちゃって。たまらないんだ」


 胸をおさえて切ない顔してるけど、性欲我慢してる顔なんだよな~……。

 実際問題、ライにこんなん言われたら、惚れそうだけどね。


「好きな人に対して性欲強いのは男として当然だと思うけど」


 俺は好きな人がいないから、性欲がないのかもな。

 いや、ないわけじゃない! 他の男たちよりはない……んだろうな。


「オリ! ありがとう!」


 いや、お礼を言ってもらうつもりじゃなくて。


「ライのやり方は悪かったかもしれないけど」


「俺は上手いよ?」


 何言ってんの?


「そのやり方じゃない」


「あはは」


 あれ? なんか殴りたくなってきた。


「ライの性欲云々は置いておいて、恥ずかしい場面を見られたら確かに消えたいとは思うけど、だからといって、いなくなる事はなかなかないだろ」


「現にショウ姉はいなくなった。俺の事がダメになったんだ」


「なんでそう思うんだ? 付き合ってたなら合意の上だろ」


「無理して付き合ってくれてたのかもしれない。ショウ姉は優しいから。俺がショウ姉に拒絶されたら死ぬって知ってたから」


 え?


「死ぬの?」


「うん」


「死ぬくらいの気持ち?」


「ううん。本当に命が終わる方の死ぬ」


「なんで?」


「知らないけど、そうなるのだけは分かってる」


「なんだよそれ」


「俺もそう思う」


 真顔やめて。


「ショウさんにも言ったのか?」


「言った」


「脅しじゃないか」


「うん、脅した。でも本当に死ぬから嘘じゃない」


 おいおい。これは確かにヤベー奴だ。目がキマってる。


「それで付き合ってもらって嬉しいのか?」


「嬉しくないけど嬉しい」


 え~……。


「って当時は思ってたんだ。今よりも頭がおかしかったからね」


 目がいつものライに戻り、微笑んだ。


「だから昨日は突然、ショウ姉がいたから、頭おかしい俺が出ちゃった」


 ウィンクも出ちゃったね。


「『出ちゃった』じゃないだろ」


「そうだね。変われたと思ったけど、人ってそんなにすぐ変わらないな」


「とりあえずライが死んでなくて良かったよ」


「えー、死なないよー」


「拒絶されたら死ぬんじゃないのか?」


「拒絶されたら死ぬよ」


 あれ? この間拒絶されてなかったっけ?


「やっぱり、昨日見てたんだオリ」


「え? 何を?」


 やばいやばい。


「ははは、もうとぼけなくていいのに~」


「いや、本当に何の事か分からない」


 俺はとぼけた時はとぼけ切る男!


「まぁ、見てないっていうなら言っちゃうけど」


「おお……」


「俺、ついショウ姉にキスしちゃって。深めのヤツ」


 あー……俺、今絶対顔赤いわ。


「おお……」


「口では拒絶されたけど、口の中では拒絶されなかったから、まだ死ぬまでには至らないかなって」


 にこにこしながら何言ってんの?

 上手い事言ったつもりか?

 さっきまで照れてたライはどこ行った。

 唇を触るんじゃない!


「ライ、ちょっとお願いがある」


「何?」


「俺は童貞だ。今回の件は俺には刺激が強すぎる。もうちょっと言動を和らげてくれ」


「一応、配慮して和らげてたけど……」


 それは気づかなかったよ。


「色々聞いて事情は分かった。で、結局のところショウさんがいなくなった理由はなんなんだろうな」


「分からないから、リリーと一緒にショウ姉を探してたんだ。もちろん俺はショウ姉と会って愛し合いたいからだけど、探す人手は多い方がいいから」


「そうなの?!」


「そういえば、俺がオリに伝えたい事は大体言えたからリリー呼んで来ようかな」


「その前に確認。今も、ショウさんと付き合ってた事はリリーに言わない方がいいんだな」


「うん。そこは内緒にしてて」


「分かった」


 ◇


「遅い!」


「ごめ~ん」


「話し方!」


「分かったよ」


「オリは何を聞いたの?」


「ライがショウさんを好きな事とショウさんを見ると正気じゃいられない事かな」


「合ってるわね」


「この期に及んで嘘を言うわけないだろ」


「ショウ姉を襲った事も?」


「リリー、それは誤解だって分かったから」


「オリは信じるの?」


「一応納得できる理由を教えて貰った」


「襲う事に納得できる事ってあるの?!」


「ライが言った事が、実際本当かどうかは分からないけど、まぁ……聞いた限り、大人の世界ではあったりする事だった」


「ちょっとオリまでどうかしたの?!」


 どうかしたのと来たかぁ。


「あのさ……リリー、ちょっとキツイこと言っていい?」


「何?!」


「リリーが言う事もめちゃくちゃ分かるんだけど、それはリリーから見てだよな」


「それが何?!」


「世の中には人には言えない事情ってものがあって、実際は何が正しいかなんて当事者にしか分からない」


「それで?!」


「リリーが絶対じゃないって事だよ」


「私、見たんだよ?!」


「うん、分かるよ。でも見ただけじゃ分からない事もあるだろ」


「それって何?!」


「なんだろうね? 伝えるのが難しい問題だからすぐ出ないけど。とりあえず俺が今、リリーの事どう思ってるか分かる?」


「分かんない」


「だよな。俺はさ、リリーは正義感が強いなって思う反面、ショウさんが『襲われたと思ってる』リリーが、被害者のショウさんに対する配慮がないなって思ってる」


「え?」


「普通さ、自分が襲われた事って知られたくないだろ」


「……」


「ライを批難したいからだろうけど」


「それは……」


「もしかしたら、リリーは俺を信用して? 普通じゃ言わない事を俺に言ってくれたのかもしれないけど、ショウさんが無理矢理襲われたって事は言うべきじゃないと思う。ましてやライから聞いた話が本当だとしたら、ショウさんはライとの事を誰にも言わないでってリリーに言ったんだろ?」


「……うん」


「それをリリーは直接ショウさんから聞いたんだろ?」


「……うん」


「じゃあ、それは間違いなくショウさんの気持ちだろ」


「……うん」


「そして、ショウさんはライを批難してくれってリリーに言ってないんだろ?」


「……うん」


 リリーが唇をきつく結ぶ。

 今にも泣きそうだ。


「オリ……」


 俺が庇ったと思って、ライが嬉しそうな目をする。


「一応言っておくと、ライもだからな。俺が何のこといってるか分かるよな」


「うん……ごめん」


「ショウさんに言えよ。って……どっか行っちゃったから言えないか……」


 二人とも意気消沈してしまった。


 う〜ん、完全に言い過ぎた。

 もっと良い言い方があっただろ俺。

 いつだって上手くできないな……。


「ごめん、俺も何を偉そうに話してるんだかって感じだよな……しっかり全部聞いておいてさ」


 はは……と乾いた笑いをするしかできない。


 そう、俺も気づくの遅すぎなんだよな。

 つい、俺の知らない世界の話しに聞き入ってしまったけど、これはAVの話しじゃなくて、相手のいる話だったんだから。友達なら諫めるべきだった。

 どうするのが正解なんだろう……分かんないや。


「とりあえず、ショウさん探しについて教えてくれる?」


 分からないけど俺も探すの手伝ってみようかな。

「ではまた次回」

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