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運命の人(3)

「おはよ~」


「ライ君、おはようございます。もうお腹は痛くないですか?」


「ん~、まだちょっと痛いかな」


「お大事にして下さいね」


「ありがとう~」


 ライがクリスの頭を撫でる。


 普通だ。

 あまりにも普通だ。

 いつものライだ。


 俺は牛乳を飲みながら、ライの方を見ないようにしていた。


「おはよ~、オリ」


「お、おお! おはよう」


 ライと目を合わす。


 そ、逸らしたい。

 

 視線を逸らしたい思いと、ちゃんと目を合わせなければ、という思いで目が泳ぐ。


「あはは! オリ、目泳ぎすぎ」


「そ、そうか?」


 バレバレだ。


(誰でも分かりますよ)


「お! おお~、ツキ! おはよう!」


 救世主!


「ツキちゃん、おはよ~」


「おはよ」


「オリもツキちゃんも昨日はごめんね~。変な所見せちゃって」


「いやいや、お腹が痛ければ誰でもああなるよ」


 これはさすがに無理があったか。


「どこから見てた~?」


 ん?


「昨日見たよね?」


 ライがいつものようにニコニコしている。

 いつもと同じ笑顔なのに怖い。


「見たっていうと、何を?」


 秘技! とぼける発動!

 俺はとぼけきってやるぜ!!


「とぼけなくてもいいよ~」


 俺がよくない。

 昨日の話は絶対にしたくない。聞きたくない。


「とぼけてないよ? 何かあったのか?」


「ん~、本当に見てない?」


「なんだよ、そんな風に言われると逆に気になるな」


「そっか、ごめ~ん。なんでもないよ」


 ほっ。引いてくれた。良かった~。


「で、オリは何でショウ姉と仲良いの?」


 違う方から攻めてきたー。


「仲良くはないよ、ギルドの案件で知り合っただけだから」


「ギルド?」


「ショウさん冒険者だろ」


「ショウ姉、冒険者なんてやってるのか?!」


「何だ、知らなかったのか?」


「くそっ! こんなに近くにいたのか!」


 ドンッ! と、ライがテーブルを叩く。


 ひぇっ。


「あ、ごめんごめ~ん」


 この差たるや。


「で、案件で一緒になったんだ?」


「今週行ってた割りのいい案件だよ。熊食べただろ。そこで一緒になっただけだから、仲良いとかじゃないよ」


「なのに、シェアハウスに連れ込んだんだ?」


 言い方。


「連れ込んだって、人聞き悪すぎ」


「あ、ごめんごめ~ん」


 本当に悪いと思ってる?


「打ち上げでご飯食べに行こうってなったんだけど、クリス達とご飯食べなきゃだから、やめようって言ってたら、ツキだけ戻るとか言い出して、危うく二人でご飯食べに行く事になりそうだったから、皆がいる方がいいと思って、シェアハウスに誘っただけだよ」


「は? 二人だけでご飯行きそうになった? デートのつもり?」


「違うって、回避してるんだからそんなんじゃないって分かるだろ」


「あ、ごめんごめ~ん」


 それはもういいよ。


「ショウ姉に問題があるな」


 ライが遠い目をして呟いた。


 大丈夫か? これは本当にライなのか?


 ベシッ!


「痛っ」


「ライ! 朝っぱらから何て話しをしてるのよ!」


「叩くことないだろ~」


「叩かずにいられるわけないでしょ!」


 リリー様~。


「最近やっと落ち着いてきたかと思ってたのに。何も変わってなかったわね!」


「……」


 リリーを無視するライ。


 ベシッ!


「だから痛いって」


「無視すんじゃないわよ」


「リリーが朝からうるさいよ~」


「誰のせいよ。いいから、さっさと朝ご飯用意してくれる?」


「はいは~い」


 通常営業に戻った。


「ごめんねオリ。ライはショウ姉の事となると頭がおかしくなっちゃって」


「聞こえてるよ~」


「いやいや、ちょっと驚いたけど」


 ちょっとじゃないけど。


「ライにも色々あるんだな」


「そうなんだよ~。ごめんね~」


「また夜にでも話すね」


 話さなくていいです。


 ◇◇


「ライとショウ姉はいとこ同志なの」


 いとこ同士?! いとこ同士であんな……


「あーっ! 誰かに似てるなって思ってたんだよ! ライか! あー! ライだ!」


 鼻に入ったご飯が取れたかのうようにスッキリした気分だ。

 

「あの二人似てるわよね」


 うん、うん。二人とも良い顔してるしな。


「私達の4つ上でね」


 リリー達が16歳だから、ショウさんは20歳か。


「ライは昔から異常なまでにショウ姉の事が好きで……」


 異常て。


「ライが生まれた時、たまたまショウ姉がそこにいたらしいんだけど」


 姉弟が出産の時に立ち会って、その子供も一緒にいるパターンのやつね。


「赤ちゃんの時だから絶対記憶なんてあるわけないのに、あいつ『俺は生まれた瞬間ショウ姉に一目惚れした! 俺の運命の人はショウ姉だ!』とか物心ついた頃から訳わからない事言ってたらしくて」


 赤ちゃんの時に一目惚れなんてあるわけないだろ。

 目が見えないんだから。


「そんな大袈裟に言うくらい、ショウさんの事が好きって事か」


「そうなの」


「子供の頃は親戚一同、微笑ましく見てたんだけど、成長するとちょっと笑えない時が増えたというか」


 笑えないって、どの程度だ?


「それで、このままじゃ良くないんじゃないかって思った大人達が、二人に距離を取らせようとしてね」


「距離?」


「一緒に遊ばせないようにとか、それくらいなんだけど」


「なるほど」


「それで、ライは頭が良いっていうか、狡猾っていうか」


 言い方。


「ショウ姉への気持ちを表に出すとショウ姉と離されるって察してから、今みたいなうさんくさい奴になったの」


「全然うさんくさくないだろ」


「うさんくさいわよ」


「そうか?」


「気づかれない辺りが狡猾なのよ。大人達は見事に騙されたわね。あとオリも」


「さっきから言い方ひどいな」


「……確かに。ちょっと久しぶりだったから、頭沸騰してた。ライはね、ショウ姉さえ絡まなければ……うん、オリが知ってるとおりいい奴よ。話し方がうさんくさいだけで」


 リリーだっていつも普通に話してたけど、うさんくさいと思ってたのか。分かんないもんだね。


「あくまでショウ姉に関わらなければ。よ。ショウ姉がいなくなるまで、大人達の前ではなんとも思ってませ~んって顔して、裏ではショウ姉に猛アタックして、ショウ姉に寄って来る子達を蹴散らして」


「まぁ、好きならしょうがないんじゃないか?」


 いとこ同士なら、セーフだろうし。


「好きなら、襲っていいの?」


「え?」


「あいつ、ショウ姉の事無理矢理」


「え?」


 何? 無理矢理?


「はい、そこまで~」


 俺とリリーの目の前をライの手が遮る。


 ライが来た。


「ちょっと、リリー。適当な事言うのやめてくれる~?」


「だって本当の事でしょ」


「お前は何にも知らないだろ~」


「でも襲ったのは事実でしょ」


「事実じゃないよ~。勝手にねつ造すんな~」


「その話し方やめてくれる?! ホントに気持ち悪いんだけど!」


「この話し方じゃないと、俺キレちゃうから~」


 確かに、笑ってるのにキレそうなのが伝わってくる。


「勝手にキレればいいでしょ! 受けてたつわよ」


「ちょ、やめろよ」


 せめて俺がいなくなってからにして。


「オリは黙ってて!」


 じゃあ、部屋戻っていいかな?


 抜き足差し足で部屋に戻ろうとする。


「オリには聞きたい事あるからここにいて~」


 俺を見る事なく、留まるように言ってくるライ。


 勘弁してくれ。

 ツキは一体どこ行ったんだよ!

 俺を助けんかい!

「ではまた次回」

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