運命の人
なんという事でしょう、黒装束に麦わら帽子を被っていたとんちんかんな人が、頭巾と口当てを取ったら、美しい人に早変わりしました。
「顔……」
「なんだ、さっきから顔顔と」
「いや、顔が美しくて驚いています」
「そうか? よくいる顔だろ」
いないよ。
「あれ? 確かに……言われてみれば誰かに似てる」
「だろ」
誰に似てるんだ? 喉まで出てるんだか思い出せない。
う~……思い出したい。
「あ!」
「どうした?」
「しまった! クリスとクウガがいるんだった」
「クリスとクウガ?」
「最近、小さい子供を預かってて。ご飯一緒に食べないと」
日中フェスに頼ってて、夜までってのは絶対ダメだろ。
「え……あ、そうか……じゃあ、打ち上げは無理……だな」
「すみません!」
「いや、急に誘った私が悪い」
ショウさんが目に見えしょぼんとする。
申し訳なさすぎる。
(行って来たらいいではないですか)
いや、ダメだろ。
(私がクリス達を見ておきますから、二人で行って来たらいいですよ)
はあぁぁ! おま! 何言ってんの? 無理無理無理無理。
(こんなチャンスなかなかないですよ)
チャンスて。
(女性と二人だけの食事なんて、今後できるかどうか)
いや、その前に二人だけなんて断られるだろ。
「オリ、私があの子たちと一緒に食事をするから、二人で行って来たら?」
しゃしゃしゃ、しゃべったーー!!
薄目で俺を見るツキ。
なんというレア。これは貴重な瞬間を見た。
「あー……そんなわけに行かないだろ。ねぇ、ショウさん……」
「いいのか?」
「え?」
「二人で行って来てもいいなら、打ち上げしたいのだが」
なんですって?
「オリ殿がいいなら行きたい」
え……もしかしてこの人、俺の事好きなのか?
(馬鹿は休み休み言ってください)
だって、今……。
(これだから童貞は。食事を一緒にしたいと言われたくらいで、そんな短絡的な事を思わないでください)
一瞬夢を見ていたようだ。
「長い事、誰かと食事をしてなかったから……」
「そうなんですか」
「オリ殿はなぜか話しやすいからな」
あれ? やっぱりこの人、俺の事好きなのか?
(目を覚ましてください)
起きてます。
「そうだ! 俺とツキはシェアハウスに住んでるんですけど、そこで打ち上げしませんか?」
「シェアハウス?」
「俺達含めて6人と子供2人が住んでるんですけど、皆いい奴らばっかりなんで、俺と二人より賑やかで楽しいと思いますよ」
ショウさんの顔が明るくなる。
「シェアハウスか。いいな!」
「じゃあ、そうしましょう。ツキの料理は上手いですよ!」
「それだと、割り勘にならないぞ……」
「じゃあ、飲み物とかデザートを買ってもらうってのでどうですか」
「ああ!」
う~ん。輝くばかりの笑顔だ。
「ツキもいいか?」
(せっかく何かが始まりそうだったのに)
うるせー。
「いいよな、ツキ」
コクリ。
「じゃあ、買い物行ってから行きますか!」
「ああ!」
◇
「また沢山買いましたね」
「8人もいるなら、これくらいいるだろ!」
クリスとクウガがいるから余るという事はないな。
「オリ兄ちゃん!!」「オリ兄様!」
「おお~、クリスにクウガ。今戻ったのか?」
二人が駆け寄ってくる。
「はい!」「うん!」
「残念ながら、今日も成果はありませんでした」
「そっか。フェスもありがとうな」
「そちらの方は?」
「ああ、紹介するよ。今週一緒の案件に入ってたショウさん。打ち上げをシェアハウスでしようと思って」
「そうですか」
「今日はサラはいるのか?」
静かに首を横にふる。
「じゃあ、熊尽くし一緒に食べようぜ」
今週はずっと熊尽くしだが、ツキが色々な料理にしてくれるので全く飽きない。
「ありがとうございます。私はまだ食べてないので楽しみです」
フェスがツキに微笑む。
コクリ。
頷きだけで『まかせろ』と伝えるんじゃない。
「綺麗な殿方だな」
ショウさんが小さい声で言う。
やっぱり、皆そう思うよな。
「このシェアハウス、顔面の良い人ばっかり集まるんですよね」
言ってから、普通顔も増えて来た事に気づいた。
普通顔は俺、ツキ、サラ。
良い顔はライ、リリー、フェス。
可愛い顔はクリス、クウガ。
子供はノーカウントとして割り合い的には同じだな。うん、サラのおかげでバランスが良くなった。
「それは凄いな」
いや、ショウさんも十分すぎる程、美しいです。
「「「ただいまー」」」
(食事の用意してきます)
おお、よろしくな。
「クリスとクウガは先風呂入って来いよ」
「はい」「あーい」
「ショウさん、食事これから用意するんで、そこのソファで座っててください」
「ありがとう」
「飲み物何にしますか?」
「そうだな。エールジンジャにしよう」
「了解です」
エールジンジャを用意する。
買ったばかりだから冷たい。
「ここがシェアハウスか……」
「こういう所初めてですか」
「ああ……」
ショウさんが興味深そうにキョロキョロしている。
「低ランク冒険者専用のシェアハウスです」
「そうか、冒険者になったらこういう所に住めるんだったな」
「ショウさんはどこに住んでるんですか?」
「ああ、私は街外れのボロ小屋に住んでるよ」
「え?」
「安くてな」
「ギルドに近くて安いから、こういうシェアハウスも良いですよ。一緒に住む人にもよりますが」
来たばかりの頃の、ライリリー争奪戦みたいな事が起きなければだけど。
「ボロ小屋でも住めば都だ……それに、人が多いところは……苦手でな」
なるほど、その気持ちも分かる。
「「ただいまー~!」」
お、ライとリリーも帰って来た。
「お帰り~」
ガチャンッ。
「?」
ショウさんのグラスが割れていた。
「大丈夫ですか?!」
慌ててショウさんを見ると、目を見開き固まっていた。
「ど、どうしました?」
ショウさんの視線の先にはライとリリー。
「嘘! ショウ姉っ?!」
リリーの知り合いか?
ライに目をやると、ライも目を見開き固まっていた。
「あれ? 二人とも知り――」
知り合いか? と聞こうとした瞬間、ショウさんが凄まじい勢いで走って出て行った。
「っっ!! ショウ姉っ!」
え? という間もなくライが走って追いかけて行く。
「なんっ……」
なんだ? 一体何がどうなってる?
「まずい……」
まずい?
「ライを止めないと! オリ! 追いかけるわよ!」
「え?! 何? ライを止める?」
「詳しい話は後でするから! いいからライを追いかけるの手伝って!」
「お、おう」
何が何やら全く分からない状況でライを追いかける事になった。
「ではまた次回」




