一章 ためいき③
「いったいお前、何人の女とメールしてんだよ……? この前も十人ぐらいと遊んでなかったか?」
その問いに、優は「う~ん」とうなり、
「数えたこと無いけど、同級生の女子は、ほぼ全員のメールアドレス持ってるよ~」
「…………」
「なにその軽蔑的な眼。そんな眼で見られると、なんか新しい趣味に目覚めそう」
「目覚めるな」
孝二は再びため息を吐く。
「まぁ、別におまえが女子とどうしようが、俺に止める気は無いけど……」
ため息。
「せめて、彼氏持ちのやつには手を出すなよ……」
その言葉に、優は心外とばかりに腹を立てる。
「誤解を招くような言い方しないでよ。あれは僕が手を出したんじゃなくて、向こうから体を捧げてきたんだよ? なのに僕だけ非難されるって納得いかない~」
「おい……体捧げてきたって、おまえまさか……」
その問いに、優は孝二から眼をそらす。
「…………」
「あ~、轟の言いたいことは、よく分かるよ。でも、なんて言うか……つい欲望が暴走しちゃったんだよ~。……だからそんなゴミを見るような眼で見ないでよ~」
「ゴミじゃない。けだものだ」
「うぅ~ひどい……。まだ前の獣のほうがいいよ~」
「同じだろ。漢字は同じ字だし」
孝二はまたもため息を吐く。
いったいこれで何人目だ。いまさら言うのもなんだが、こいつの女癖の悪さは呆れてくる。
優は、なおも反論する。
「何となく違う感じがするの! だいたい轟だって千里ちゃんとそんなことがあったりしないの?」
「いや、それは……」
孝二は顔をうつむかせぼそぼそと呟く。ちなみに千里とは孝二の恋人の名だ。
「ん~~? なんか怪しいなぁ~。僕の知らない間にもう行くとこまで行っちゃった?」
「馬鹿! 行くか!」
顔を真っ赤にしつつ、優の頭をはたくが、あっさりかわされる。
「ふふ~ん、轟もまだまだだね~。そんな攻撃じゃ僕は倒せないよ~。ところで――」
優は口元に、女子の前では絶対に見せない下卑た笑みを浮かべる。
「千里ちゃんとはどこまで行ってんの~? すっごい気になる~」
とりあえず殴る。
だが、かわされる。
「…………」
「動きがまだまだだよ~。この距離では体を動かすと攻撃がばれちゃうから、もう少し腕の――」
「あー、はいはい」
優の格闘論はとりあえず無視。
「轟~、ちゃんと聞いてよ~」
「五月の蝿並みに五月蝿い。はっきり言って何度も同じことを言うなよ」
「それはね、僕が轟に何を求めてるかを詳しく知ってもらうため。『重ねて学ぶは天なる才を生む』って、僕が尊敬する人も言ってるし」
「学びじゃなくて、ただしつこいだけだろ。だいたい誰の言葉だよ、それ」
「僕」
「…………」
「そしてこうも言っている。『欲望は人を形成する上で最も大切なもの。だから女の子に手を出しても仕方が無い』って」
「前半ともかく後半アウト。名言っぽくしてもダメ」
「え~、どうして~? 正論じゃん」
「もし神がいるとしたら、おまえ即行処罰対象。……あとおまえ女の彼氏にも同じこと言っただろ?」
その問いに優は、
「うん」
と大きくうなずいた。