五章 歪んだ日常 21
「また頭に包帯を巻くことになるとはな」
孝二は自分の頭に巻かれた包帯を指でいじりながらそう呟いた。
「でも孝二君にはそれが似合ってるよ」
隣に座る舞が満面の笑みでそう答えた。
「それ褒め言葉になってないから」
そう言って、孝二はため息を吐いた。
今、孝二達がいるところは保健室だ。入口近くのパイプ椅子に座っている真がコーヒーを飲んでいる。
「今回の貴様は見直したぞ。一瞬力に溺れそうになっていたが、よくあそこから持ち直したな」
「あ、あぁ……」
孝二は目を伏せ、自分の右手を見る。同じように包帯を巻かれたその右手を見つめながら孝二は淡々と言葉を紡ぐ。
「自分でもびっくりだよ。あの時、俺は本気であいつを殺そうとしていた」
「よくあることだよ~」
孝二の隣に座る舞が、無邪気な声で続ける。
「刻印の力を持った瞬間は誰でも調子にのっちゃう時があるのよ。大切なのはそれを乗り越えられた時なんだから、あんまり気にしちゃダメ~。お兄ちゃんだって刻印の力を貰ったばっかりの時は暴走しちゃったんだから」
「へぇ」
孝二はそう相槌を打ちながら、真に視線を向ける。真は全力で顔をそらした。
「……まぁ、それはいいとして、今後俺はどうすればいいんだ?」
「一緒にCWAとして頑張りましょ!」
「いや、えと……そうなるのか?」
舞の言葉に孝二は再び真に顔を向ける。真はこちらを横目でちらりと見やると、静かに言った。
「かつて言っただろう。そこは貴様の自由意志だ。CWAに入ると言うなら歓迎する。入らないと言うなら、その刻印だけ回収させてもらうだけだ」
「……そうか」
孝二はゆっくりと深呼吸をし、自分の額に眠る力を思う。