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一章 ためいき②

 その声を聞くと、優と呼ばれた男は、軽く右手を上げ、白い歯を見せながら胡散臭い笑みを浮かべる。

 一言で言うと、見た目はその名の通り、優男だ。多少の幼さを残したまま、大きくした感じ。日の光を反射する赤い髪の毛は、元からの色で、染めたわけではないらしい。

 顔は綺麗に整っており、十人中、九人が声をかけそうな美形顔だ。

「やっぱりここにいたんだねぇ、轟~」

 そう言って、彼の隣に腰を下ろす。

「それにしてもいつもここにいるよね、轟は。ここ蚊が多いじゃん」

「俺は蚊が寄ってこない体質だからな」

 そして眉をひそめ、

「てか、名字で呼ぶな!」

 不快さを全く隠す様子も無く、言った。

 先程から優が言っている轟とは、あだ名ではなく、また某芸人のことでもない。

 そう、正真正銘の本名である。

「名前で呼べ、名前で」

 不機嫌そうに顔をしかめ、彼は言う。

 実質彼はこの名字があまり好きではない。

 どこが嫌いかと言うのは……言うまでも無いだろう。おかしい、ただそれだけ。

 親父は、自分の名字に誇りを持てだの、先代から受け継いだ大切なものだの言っているが、俺自身こんな名字受け継ぎたいと思ったことは一度も無い。

 もし結婚した時は、絶対に相手の嫁の名字にすると堅く決心している。

「えぇ~でもね~」と優は不満そうに唇を尖らせ、

「なんか轟のほうがシックリ来るって言うかさぁ~、孝二って名前、なんかこう……」

「地味だってか? ほっとけ」

 彼、孝二は、ふん、と鼻を鳴らす。

「いやいや違うんだよ。え~となんて言うか……轟は孝二って感じじゃなくて、なんか轟き~って感じなんだよね~」

「どうゆう感じだよ」

 孝二は、呆れたようにため息を吐く。

「て、言うか、あのさ……」再びため息を吐きながら、孝二は言う。


「今日は何人?」


 唐突の問い。

 その問いに、優はまたも胡散臭い笑みを浮かべ、口を開く。

「十一人」

「…………」

 ため息。

「いや~、しつこくてねぇ~。でも体は無傷だよ~」

 なおも同じ笑みを浮かべ、のんびりと話す。

 その優の制服はところどころに、何か鋭利な刃物で切られたような後があった。

「でもナイフならまだしも刀剣って反則だよね? 死ぬって! て感じだったよ~。しかもそれ本物なんだよ、全部。それでその刀を持った奴が五人いたんだけどさぁ、そいつらなかなかの腕前でけっこう危なくてさぁ~」

「…………」

 優の言葉を右から左に受け流し、軽く息を吐く。

 今、優が話しているのは、小学生がやるような喧嘩自慢だ。内容は小学レベルではないが……というか喧嘩にレベルってあるのだろうか?

 そんなことを考え、ちょっとした暇つぶしで、頭の中で適当に俺流論文を書き上げていると、優の制服から電子音が響く。今流行っているらしいアーティストの曲だった。

「お、美華ちゃんからだ」

 優はそう呟くと、ポケットから、シールやらストラップが大量に付着した携帯を取り出し、カチカチと操作する。

「えっと、今日は、先約があるから、無理、っと」

 それから何度かボタンを押し、終わったらしく、ふう、と息を吐きながら携帯をたたむ。

 するとまたしても電子音。再び優は携帯を操作し始める。

「もう、しつこいなぁ……沙紀ちゃん」

「別のやつかよ」

 孝二はため息を吐き、呟く。

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