五章 歪んだ日常⑲
「それで……人材を確保した後、あなたは一体何をやるつもりなんですか?」
杉山竜の言葉に、緋川は笑みをますます強めた。
「残念だけど、君にはまだ教えてあげられない。その時が来るまでね」
緋川は静かにそう言ったあと、視線を鍵山に向けた。
「さぁ、鍵山君」
突然名前を呼ばれ、鍵山は肩を震わせる。
「君は色んなことをやってくれたね。杉山竜君。彼はどんなことをしたんだい?」
鍵山の背後で、杉山竜がメモ帳を取り出す。そして淡々とした声で言葉を吐き出していった。
「暴行傷害五十二件。強姦二件。脅迫、恐喝は数え切れませんね」
「そうかい」
そう言う緋川の顔は相変わらず微笑んでいたが、その眼は笑っていなかった。
「何か言い訳はあるかい? 鍵山君」
「な、あ……」
鍵山は周りの空気が鋭くなっていくのを感じていた。
「あ、あれは……あんたが……」
鍵山の口から出た言葉はそれだけだった。その言葉で緋川の眼はますます細められる。
「僕が? 僕が何か言ったかな? 僕は能力の使い方を説明して、好きに使えと君に言った。それだけだ。誰も犯罪に使えとは言ってない」
「なっ!?」
「所詮、君はそんなところか。さぁ、杉山竜君。君は彼をどうしたい?」
緋川は視線を鍵山の背後に向ける。
「……そうですね」
杉山竜はメモ帳をしまいながら、淡々と答える。
「CWA法に照らし合わせれば、禁固20年ってところですかね」
「だが、彼は未成年だ」
「……えぇ、ですから最大でも5年、ということになりますね」
「そうなるね。それじゃあ――」
緋川の口元が歪む。それはまるで悪魔の頬笑みのようだった。
「建前はそれだけでいい。君の本音を聞こうか?」
緋川の言葉に、杉山竜は一瞬顔を強張らせる。そしてその冷たい視線を鍵山に向けると静かに言い放った。
「殺してやりたいです」