五章 歪んだ日常⑮
「やっと……治まったな」
空を見上げる。もう日は傾き、暗くなり始めていた。おぼろげな月がこちらを見下ろしている。
「……今日は星が綺麗なんだっけ?」
目を細め、空の月を見返す。
「千里……」
――千里に会いたい。
孝二は目をつむり大きく息を吐き出す。額の血を拭い、目をあける。
――鍵山の奴はどうしようか?
そう考えながら、視線を前に戻す。
「あ?」
血の染みがついた木刀の転がる風景。何故か鍵山の姿が見当たらない。
「鍵山の奴がいな――」
背後からの足音。
振り返ると、屈強な男が手に持つ凶器をこちらに振り下ろそうとしていた。
「!!」
――鍵山の奴、意識を取り戻したのか!?
振り下ろされる凶器に、思わず目を閉じ、身をすくめる。その瞬間――
「大したガキだ。少し見直したぞ」
「え?」
聞きなれた声。そしてそれに重なるように耳に響く、チリチリとざわつく雑音。
「次は手加減を間違えんぞ」
バチン、と何かがはじけたような音が響く。孝二が目を開けると、目の前の男はその場に倒れ伏せていた。
「ふん。緋川の奴はこうなることを見越していたのか」
背後からの声に振り返ると、長髪の男がこちらに近づいてきていた。
「真!」
「真様だ、アホが」
真はそう言いながら、座りこんだ孝二の前に仁王立ちする。その全身からはチリチリと稲光を発していた。