五章 歪んだ日常⑬
「あらかた片付いたかな?」
校舎裏の開けた場所。そこに結香とペディがいた。
「緋川の奴が仕組んだとはいえ、本当に一ヵ所に奴隷が集まっているとはねぇ」
「そうですね。しかし、操られているとはいえ、教え子に手を上げるというのはあまりいい気持ちではありませんね」
ピンクの塊――ペディが気絶した生徒たちの塊を見ながら言った。
彼らは作戦で指示された通り、主に奴隷として操られている生徒の排除を行っていた。
「しかし、驚いたね、今回の作戦。あの子にすべてを任せようなんて」
「確かに。私は彼とあまり会話をしていませんから、彼がどういった子なのかが、まだよく分かっていません」
「やっぱり不安?」
「当たり前です」
ペディは結香に顔を向け、言葉を続ける。
「刻印を甘く見てはいけません。あの巨大な力は巧みに人の心の中に侵食してきます。今までが大丈夫だったから、今後も大丈夫なんて保証はないのです。私は今までに、刻印によって心を歪められてしまった人間を何人も見てきました。それがかつて共に戦った友でもありました」
ペディのまっすぐな意見に、結香は憂鬱そうに煙を吐き出す。
「あの子はそうじゃないと信じたいね。現に私はあの子の中を見た。純粋な良い子だったよ。そう簡単に心を歪められるとは思わない。そう感じたから合格としたんだよ」
「私もそう信じたいです。ですが、刻印は使いこなせるようになってからが一番危険です」
ペディは夕焼けに染まった空を眺め、ポツリと呟いた。
「あの子が――緋川隊長の二の舞にはならないといいんですが」
「…………」
その言葉に結香は目を伏せ、静かに煙を吐き出す。
「……信じたいね」
その言葉はとても小さく、ペディには聞こえなかった。