五章 歪んだ日常⑫
「はは……」
孝二は木刀を握る手を強く握りしめ、その感触を確かめる。目の前には無様におびえる鍵山。周りには意識を失った屈強な男達。
「はは……当たらない。何もかもが見える。全てが分かる! はははははは!! 鍵山ぁ、羨ましいだろぅ?」
孝二は口元を歪め、肩を揺らす。
孝二は笑っていた。
「た、助けて……」
鍵山はもう孝二の目の前だ。体を震わせながら、孝二を見つめている。
「あぁ? 今、なんつった?」
木刀が振り下ろされ、鍵山の額を割る。
「何て言ったんだ? もう一度教えてくれよ」
鍵山は声にならないほどの悲鳴を上げ、その場をのたうちまわる。孝二はそんな鍵山の様子を見て、ますます口元を強く歪める。
「おい、言えよ。言えって言ってるだろうが!!」
孝二は鍵山に向って蹴りを放ち、さらに間髪入れず木刀で殴打する。
殴るたびに響く、鍵山の汚らしい悲鳴。それがますます孝二を楽しませた。
「はは! 汚いんだよ屑が! 屑が屑が屑が!」
足で鍵山の首根っこを押さえ、動きを止める。鍵山は失神寸前の顔だった。孝二は木刀を持つ右手を大きく掲げ、その顔を見下ろす。
「思い切り振りおろせば――」
――頭蓋も砕けるか?
脳髄が飛び散る様を頭に思い浮かべ、孝二の顔に一瞬恍惚的な表情が浮かぶ。
そして孝二は木刀を振り下ろした。