五章 歪んだ日常⑦
『殺すのは君だ! このナイフでね! ずったずったにしてやりなよ! 君がそこまで愛する彼を君自身の手でな!!』
途端、鍵山の触れる額が光を放つ。
――嫌だ。
突如脳内に流れる千里の声。鍵山の手を伝うように映像が動き、千里の視界が映り込む。
――体が……動かない!
目の前の鍵山が肩を揺らして笑っている。その顔は醜く歪んでいた。
『さぁ……』
鍵山がその手に持つナイフを差し出してくる。
『これで奴を――』
千里の右腕が動く。
――どうなっているの……!?
ナイフをしっかりと受け取り、千里の口が動く。
『――はい』
――何で! 声が勝手に!
左右で千里を抑えつけていた男達が離れる。千里はゆっくりと自分の携帯電話を取り出し、番号を呼び出す。相手は『轟孝二』と表示されている。
孝二は目を見開く。この日、この時間の千里からの電話。
映像の時間を二十分ほど飛ばし、映った光景。
記憶に残る公園。
「ぐっ!!」
孝二は無意識に拳を握りしめる。動悸がどんどん激しくなっていく。だが、眼は閉じようとはしない。閉じてはいけない。そんな考えが孝二の中にあった。
『千里?』
聞きなれた――だが、どこかいつもより少し違和感のある声。
『どうしたんだ? 突然呼び出して』
目の前に立つ一人の男。