五章 歪んだ日常③
「えっと……俺は、その……千里ちゃんのことが好きだったんだよ」
――俺が千里に刺された日だ。
映像がその時の鍵山に固定されるよう、イメージを送る。うまく鍵山の目線で固定され、そこからその日の日常が流れていく。
「それで……彼氏がいることは分かっていたけど……諦めきれなくて……思い切って告白することにしたんだ」
『ねぇ、俺と付き合ってくれない?』
鍵山の声が自分の中から発せられたような奇妙な感覚だ。映像は鍵山の言ったとおりに進行している。
「でも、彼女は彼氏がいるからダメだって。それでちょっとムカついて彼氏を殺してやるって思っちゃったんだ」
『ごめんなさい。私付き合っている人がいるの』
どこかの教室だろうか。目の前で千里が頭を下げていた。鍵山の記憶と分かっていても、その他人行儀な態度に軽いショックを覚えた。
「それで、この刻印の力で彼女を奴隷にして、君を刺すように――」
『いや、放して!』
目の前にいる千里に鍵山の手が伸び、千里の肩を乱暴につかむ。
『何であんな奴が良くて、俺がダメなんだ!!』
鍵山の怒声。恐怖に歪んだ千里の表情がこちらに向けられる。鍵山の手が千里の襟首をつかみ上げ、激しく揺らす。
『俺のほうが金も持っているし、頭も良い! あんな何の取り柄もない不良のどこがいいんだ!』
千里の足がもつれ、倒れ込む。それに釣られるように鍵山自身も倒れ込んだ。
『……俺のほうが千里ちゃんを幸せにしてやれる』
千里に馬乗りになった状態で、鍵山は静かにそう告げる。
千里は恐怖と怒りが混じった眼でこちらをまっすぐに睨んでいた。
『孝二は私に自分勝手な押し付けなんかしない』
鍵山の口から小さな悲鳴が漏れ、その場に倒れ込んだ。千里は鍵山を押しのけ、急いで立ち上がった。
『ちくしょう……。このアマ……』
鍵山はそう呟いて、股間を抑えている。どうやらそこに一発蹴りをくらったらしい。