四章 戦士と奴隷⑬
「ふふふ、ははははははは! 素晴らしい光景だ。貴族の前に無能な奴隷は、ただそれに従う。そして下等な家畜は無様に這いつくばる。これが世界の常! そしてこれが俺に与えられた力! 最高だ。はは、最高だ!!」
鍵山は腕を掲げ、学生たちの行動を止めさせる。
ゆっくりと立ち上がり、その中心に横たわる孝二のもとへ歩いて行く。
「生きてるか?」
そう言って、立ち止まり、目の前の孝二を見下ろす。
孝二はまるでボロ雑巾のようにそこに打ち捨てられていた。全身が砂まみれになっており、頭からは血を流していた。顔のいたるところが青く変色しており、左腕の関節があらぬ方向に曲がっていた。
「……も、く」
「まだ、意識あるんだ。しぶといね、君」
鍵山はその場に屈み、孝二の言葉を聞く。
「何だって? 最後の言葉ぐらい聞いてやるよ」
孝二は視線だけを鍵山に向け、喉の奥から絞り出すように言葉を続ける。
「目的……は、何……だ……?」
「目的。目的ね」
鍵山は大きなため息を吐き、質問に答える。
「目的は簡単。君を始末することだ。他にも大事なことがあるんだけど、まずは君を始末しておこうと思ってね。今日出来ることを明日に伸ばすなって諺があるだろ? 効率よく、効率よく」
「……?」
「まぁ、あれだよ」
鍵山は孝二の耳元に口を近づけ、小さな声で言葉を吐き出した。
「千里ちゃんのことは俺に任せて、安心して死ねってことだよ」
「!!」
孝二は右手をのばし、鍵山のズボンの裾をつかむ。
「い、今、何て言ったんだ……! 何を……考えている……!」
その反応を楽しむかのように、鍵山は口元の笑みを大きく歪める。
「かわいそうだねぇ。君はかわいそうだ。哀れで、何の力も持たない、ただ這いつくばることしか出来ない家畜。君に僕の言葉を理解できるのかい? 貴族の言葉がね」
鍵山は大きく息を吐き、自らの右手を掲げる。
「俺には超能力があるんだ。能力の名は『皇帝』。この力はどんな奴だろうと従順な奴隷にすることが出来る。手前の友人だろうが、恋人だろうがな」
「っ! まさか……」
「その通り」
鍵山は目を細め、さらに口元を大きく歪める。
「俺は千里ちゃんを操って、お前を殺すよう指示したんだよ」