四章 戦士と奴隷⑪
放課後の中庭。
時刻は五時を回ったが、けだるい暑さは収まる気配を見せない。
――ある超能力を持った男に操られている。
孝二は先ほどの鍵山の言葉を反芻していた。
――どういう意味だ?
――放課後、時間ある? もしこの情報を知りたいなら、放課後にまたここに来なよ。
鍵山はそう言って去って行った。
そして今に至る。孝二はベンチに腰掛け、鍵山を待っていた。
「遅いな……。もう一時間は経つぞ」
そう言って、煙草の箱を取り出し――そして残りの本数を見て、苦々しい顔で唸ったあと、それを再びポケットにしまう。先ほどから何度もこの行動を繰り返していた。目を閉じ、苛立たしげにため息を吐く。
「いやぁ、ごめんよ。ちょっと遅れちゃった」
どこか鼻につく声。目を開けて振り返ると、鍵山がこちらに歩いてきていた。うすら笑いを口元に張り付けている。
「大事な準備があってね。これから大事なことがあってね」
「言い訳はいい。とりあえずお前が言いかけた情報だけ教えてくれ」
孝二は立ち上がり、鍵山の前に立つ。
「……せっかちだねぇ」
鍵山はくすくすと笑い、腕を組む。
「そうだねぇ。君って超能力を信じる?」
孝二は質問に答えず、鍵山を静かに見続ける。
「……あぁ、君って無愛想だね。彼女は君のどこがいいんだか」
「それが関係あるのか?」
「あぁ、関係あるさ」
鍵山が右腕を掲げ、パチンと指を鳴らす。
「?」
その行為に孝二は眉をひそめる。だがその疑問は一瞬にして消え失せることになる。
「……何のつもりだ?」
孝二はゆっくりと後ずさりながら、鍵山に尋ねる。だが後ろを確認して、それが無駄な行為であることを悟る。
「これから大事なことがあるんだ」
鍵山は口元を大きく歪め、肩を揺らして笑っている。
「だからさ――その前に君を始末しておこうと思ってね」
その言葉に呼応するように鳴り響く無数の足音。
孝二はいつの間にか、無数の学生の集団に取り囲まれていた。鍵山の左右には屈強な男子学生が二人ずつ控えている。