四章 戦士と奴隷⑩
「正義というのはね。すごく強いんだ」
放課後の保健室。
室内の真ん中に立つ、長いベージュのコートをまとった男。緋川翔。
「どんなに巨大であろうと。どんなに精強であろうと。正義は絶対に負けない力がある」
緋川は傍らに立つ、若き隊長に顔を向ける。
「杉山竜君。それが何故なのか。分かるかい?」
「人は歪むことを嫌うから――でしょうか?」
杉山竜は落ち着き払った態度で質問に答える。
「おそらく本能的に――物事を正常にしようとする思いがあるのでしょう。異常は様々な物を歪め、結果的にありとあらゆるものを巻き添えに崩壊してしまう。人はそれを本能的に感じて、避けているのだと思います」
「なるほど。君らしい答えだ」
緋川は顔を前に戻し、言葉を続ける。
「確かにその通りだ。世界のあらゆる事柄は循環している。悪とはその循環を断ち切ることだ。断ち切られた循環は異常をきたし、様々な問題を呼ぶ。やがては循環を断ち切った本人自身にもその問題は訪れるだろう。法律とはその異常を素早く修復させるための手段だということだ」
「長ったらしい説教は後にしろ。さっさと作戦を言え」
机の上に脚を組んで座っている真が口をはさんだ。
「もう、せっかちだね。部隊の士気を上げようと思って話しているんだから、最後まで話させてくれてもいいじゃないか」
「最後の言葉はこうだろう? 故に正義とは悪そのものが望む行いであるってな。いい加減聞き飽きたな」
「ひどいなぁ。結構一生懸命頑張って考えた言葉なのに」
緋川は肩をすくめて傍らの杉山竜の肩を叩く。
「そんな感じらしいから、今回の作戦発表を頼むよ」
「はい、分かりました」
杉山竜は微笑を浮かべて、室内のメンバーの顔を見渡す。
「舞。情報操作の準備は終わった?」
「完了してます!」
ノートパソコンを抱えた舞が、満面の笑みで答える。
「ペディさん。真。戦闘の準備はいい?」
「私は常に最高の状態で戦えるようトレーニングをしております」
「あぁ、いいぞ」
ぺディ、真、共に答える。
「結香さん。お酒はほどほどに」
「……何で私だけそんな言葉なのさ」
結香は不満そうに唇をとがらせながら、右手に持つビール缶を一気に仰いだ。
「では、行きましょう。今回の作戦は――」
杉山竜の口から作戦が発表される。
その作戦に一同は皆同じように目を見開き、驚愕していた。
「おい、それは本当か? 本気で言っているのか?」
真が立ち上がり、声を張り上げる。
「えぇ、本気です。真にはサポートに回ってもらいますが、他の方は主に雑用をこなしてもらいます」
メンバーは皆、信じられないと言った面持ちだ。
「心配しなくてもいいよ。真のサポートがあればこの作戦の成功は絶対だ」
一人、微笑む緋川は高らかに宣言した。
「今回の事件は轟孝二。彼が全て解決してくれる」