四章 戦士と奴隷⑨
一瞬、箱に戻そうかと思ったが、結局そのまま放り捨てることにした。
地面を転がる煙草。孝二の足元には、今までに吐き捨てた煙草が大量に転がっている。これを見るたびに、嫌でも自分の未練がましさを再認識してしまう。
「…………」
煙草の箱を見る。残りの本数は三本だった。
――これで最後にするか、また新しいのを買うか。
そんなことを考えながらポケットに煙草をしまう。そろそろ昼休みが終わるころだ。
「戻るか」
そう呟き、そこから立ち上がろうとしたとき――
「君が――轟孝二君だよね?」
「あ?」
突然声をかけられた。孝二は振り返り、声の主を視界に定める。
そこにいたのは一人の男子学生だった。短く刈りあげた髪とやたらにやせ細った体。開いているのか分からない、糸のように細い眼がこちらをとらえていた。
「……誰?」
孝二は眉をひそめ、そう言った。その反応を楽しむかのように目の前の男は言葉を吐き出していく。
「やだなぁ。そんなに怖い顔しなくてもいいじゃないか」
男は口元をにやにやと歪め、言葉を続ける。
「俺の名前は鍵山亮って言うんだ。よろしく。実はね、君に話しかけたのは、ちょっと聞かせたい話があってさ」
男――鍵山はこちらの態度も気にせず、ひょうひょうとした態度だ。そんな男の態度に、孝二は無意識に不快感を感じていた。
「ほら、君、付き合っている女の子がいるじゃん。三組の――」
「千里がどうした?」
「ほら、怒らないでよ。実はそのことで君に聞かせたいことがあってね」
「…………」
孝二は不快な表情そのままに話を聞く。
「今、彼女入院しちゃってるじゃん。あれ、何でか知ってる?」
「……あぁ、それぐらい知ってる」
言葉尻がぶっきらぼうになっていた。完全に孝二は鍵山のことを嫌っていた。
「それじゃあさぁ――」
孝二はうんざりしたようにため息を吐く。もう鍵山の声を聞きたくもなかった。
「何を話したいんだ。早くしてくれ」
「はいはい、分かっているよ」
鍵山は口元を一層歪ませ、はっきりとした口調でこう言った。
「これは知ってた? 彼女、ある超能力を持った男に操られているんだよ」