四章 戦士と奴隷⑦
「僕からそのネタを取ったら、僕じゃなくなっちゃうよ」
優はそう言いながら、孝二の隣に座り込む。
「あれ、轟、頭の包帯取ったの? 結構似合ってたのに」
「似合ってたって……別にファッションじゃねぇんだから」
「違うの? 僕はてっきり轟なりの自己表現か何かと」
「どんな自己表現だ」
「いやぁ、今は色んな自己表現があるからね。この前なんか、街中をメイド服着たおっさんが歩いてたよ。あれはさすがに怖かったな~」
「それ自己表現と少し違わないか……?」
「いやいや、違わないよ。あのおっさんの中では、その服がもっとも自分を語り、自分を現す服だったんだよ~」
「絶対自分を見失っているだろ」
その時、突然優のポケットから電子音が鳴り響く。
「あれ、もう誰だよ~」
優は携帯を取り出しながら、ぐちぐちと文句をたれる。
「さっきの女じゃないのか?」
「えっと、あれ、店長だ」
優は通話ボタンを押し、会話を始める。
「もしもし~。うんうん。それでどうしたんですか~? え? それで――」
優の顔に驚いたような顔が浮かんだ。
「あ……はい、分かりました」
「どうしたんだ?」
「……いや」
優は通話を切り、携帯をポケットにしまう。
「うん、なんか、トラブル」
「?」
「ま、まぁ、轟には関係ないから気にしなくてOKだよ」
「……そうだな」
無意識にぶっきらぼうな答えが口をつく。
「ごめん。轟、ちょっと急用が出来ちゃった。また明日ね」
優はそう言うなり、立ち上がる。
「……何だよ、いきなり」
「もう、そんな事後の女の子みたいな寂しそうな顔しないでよ」
「誰がだ!」
「そうそう、それでこそ轟だよ」
じゃあね~と優は手を振り、その場から去っていった。
「…………」
孝二は大きく息を吐き、ベンチに横になった。