四章 戦士と奴隷⑥
「全て――か。トラウマの原因はこれか」
真はポケットから携帯灰皿を取り出すと、短くなった煙草をそこに放り込んだ。
「今のうちに能力に慣れておけ。いずれ組織の為に使う時が来る」
「え?」
「まぁ、そこは貴様の自由意志だがな」
真は立ち上がると、大きく背中をそらせる。
「詳しいことは緋川か変態女に聞け。出来れば放課後までにな」
「あ、あぁ」
真は孝二に顔を向けると、じゃあなと軽く手を振り、踵を返した。
去りゆく真の背中を、納得のいかないような顔で孝二は眺めていた。
「……結局モヤモヤは消えなかったな」
孝二はベンチにもたれかかり、大きくため息を吐く。
ふと向かいのベンチに顔を向けると、先程の男子生徒がすでに三センチほど浮いていた。
「何でこんな能力を与えられたんだか」
孝二は屋上に顔を向ける。そして両目をゆっくりと閉じる。
「――だから違うの。そうじゃなくて本当に急用が出来ちゃったんだよ。この埋め合わせは絶対にするからさ。うん、ごめんね。それじゃあ――」
孝二は目をあける。首をめぐらすと、携帯片手に誰かと話している優の姿があった。
「う~ん。何でこんな突然に用事が入っちゃうんだろうな~。誰かに呪われてるのかな。む、まさか男たちが今度はオカルトに頼って僕の命を狙っているんじゃ」
「相変わらずだな、優」
孝二は息を吐きながら優の名を呼ぶ。
「やっほ~轟~。もう聞いてよ~。今日は綾子ちゃんと朝までフィーバーの予定だったのに、バイトの店長がいきなりヘルプ頼む~だって。断りきれなかった僕も悪いけどさ~。僕の中のこの衝動はどうやって抑えればいいのさ~」
「たまにはいいだろ。てか、いい加減そのネタやめろよ」
孝二はそう言いながらも、内心この会話に安堵していた。刻印の話やらで、現実感を失いかけていたのだ。