四章 戦士と奴隷⑤
「あの時、あの女をおとなしくさせてやったのは、この私だ。少し力が強すぎて、入院させるはめになってしまったが――」
気付けば、孝二は真の襟首をつかみ上げていた。
「……何のマネだ、貴様」
「手前か。千里をあんな目に合わせたのは」
真の眼が細められる。孝二の憎しみのこもった眼をまっすぐに見返す。
「この馬鹿が。憎む相手を間違えているということが分からんのか? 確かにあの女を病院送りにしたのは、この私だ。だが、そもそもあの女がお前に襲い掛かってきたのは、別の能力者のせいだ」
「別の――能力者……?」
孝二の手が緩む。真は孝二の手を払いのけ、あごで座れとうながす。
「刻印の能力者がこの学校にいる。それもくだらんことに使っている。だから私達『CWA』はこの学校に来たのだ。その刻印の回収と能力者の粛清のためにな」
「…………」
孝二は黙ったままベンチに座りなおす。
「最初の質問に戻ろう。何故この話を貴様にしたか。貴様が合格したからだ。刻印の能力を与えられても、その能力に溺れず、悪事に使わなかったからな。まぁ、貴様の場合は単に、使いこなせなかっただけのような気がするがな」
「……悪かったな」
「だが、変態女が大丈夫と言っているからな。奴の能力の前に隠し事は出来ん。つまりお前は能力に溺れることはない、信頼できる奴だということだ」
孝二は自分の額を撫でる。
「なぁ、俺の能力は何なんだ?」
「敬語を使えと何度言ったら……まぁ、いい。諦めた」
真は大きく息を吐くと、言葉を続けた。
「ナンバー17。刻印の名は『星』。能力は、現在過去未来、全てを見通すことの出来る第三の眼を得る。それは自分や他人にとどまらず、そこらの動物から足元の石ころまで全てだ。その全てを見ることが出来る」
「全て……」
「先に言っておくが――」
真は孝二の額に指を向ける。
「その『眼』で私を見たら殺すぞ」
「なんか変な趣味でもあるのか」
「殺すぞ」
「……はいはい、分かりましたよ」
孝二はそう返しながら、自分の額に手をやる。