三章 ピンクなアミーゴ⑥
「暑い……」
中庭のベンチ。孝二は、火の付いてない煙草をくわえて、そこに座っていた。ちなみに孝二のクラスは今、授業中だ。サボったのだ。
いつものことだが、さすがに中庭に人気はない。
「…………」
孝二は額をさすりながら、ぼーっと空を眺めていた。
――想像力はあるほうかい? いいかい? 自分の額に――イメージだよ? 第三の眼があると思うんだ。
――その眼はね、あらゆるものを見ることが出来るんだ。人も物も――過去も未来も。
「過去も――未来も……」
孝二は目を閉じる。
――未来。未来か……。外。自分の外。
孝二は、自分の額の眼が開いていくようなイメージをする。
――未来。未来。先。人生の先。
「あなたが轟孝二君ですね?」
「ん?」
突然名前を呼ばれて、孝二は思考を中止して、目をあける。
目の前に、巨大なピンクの物体が現れた。
「ピンクー!?」
「ピンクではありません。人間です」
そのピンクの物体は喋った。
「ピンクが喋った!?」
「ピンクが喋ったわけではありません。人間が喋ったのです」
ピンクの物体はさらに喋る。
よくよく観察すると、それは確かに人間だった。
「……!!」
孝二は目を見開いたまま、固まっていた。
その物体はピンクだ。人間と分かった今でも、それを言葉で表せと言われたら、ピンクしか言葉が無い。
体は大柄。何故かぴっちぴっちのピンクのボディスーツを着ている。身長は百八十近くあるだろう。そして、まるで相撲取りのような真ん丸な体形をしている。顔に、ふちがピンク色の、星型のサングラスをつけており、ピンク色のちょび髭を生やしている。そして最も目を引くのが、髪型だ。アフロ。しかもかなりでかい。無論それもピンク。
「いけませんね。あなた体育をサボりましたね。今からでもいいから、参加しなさい」
そのピンクが喋るたびに、お腹とアフロがゆさゆさと揺れる。
「……あの、あなた誰ですか?」
「おお、自己紹介が遅れましたね」
ピンクは、両手を腰に当て、胸を張って答えた。
「私は、新しくこの学校の体育教師としてやってきた者です。名前はペディキュア・ペープと申します。アメリカ人です」
「ぺ、ぺ、ぺで……くあ……」
「ペディキュア・ペープです。ペディ先生とお呼びください」
ピンク、ペディはそう名乗った。
「ぺ、ペディ先生ですか!?」
「そうです。ではこんなものくわえていないで、一緒に体育で汗を流しましょう」
ペディはそう言って、孝二のくわえている煙草を取り上げた。
「健全な魂は健全な肉体に宿るのです。さぁ、レッツランニング!」
ペディはそう言うなり、その場で行進を始める。お腹とアフロがゆさゆさと揺れる。
「あ、あのすみません、先生!」
「何でしょうか? 体操服を忘れたのですか? それなら、この私と同じボディスーツを――」
「違いますっ!! ちょっと気分が悪いので、保健室に行ってきます! 授業は休みます!」
孝二は早口でそう言うなり、逃げるようにその場から立ち去ろうとする。
「むむ、気分が悪い? それはいけませんね。実は私、最近ペディーズブードキャンプなるものを考案しましてね。インフルエンザも気合で吹き飛ばせが、モットーなのですよ。どうでしょう。お試しになっては――」
ペディの言葉を最後まで聞かず、孝二はその場から全力でダッシュした。背後から「素晴らしい踏み込みです!」と声が飛んでくる。
「……何なんだ、あのピンクは」
あれに関わるとやばい。孝二はそう直感した。