三章 ピンクなアミーゴ②
「しばらくすると、忘れられるんですが……。いつも、ある拍子に思い出してしまうんです。その拍子というのが――」
孝二は、ためらいがちに手を持ち上げ、自分の頭に巻かれた包帯をさする。
「この――包帯なんです。いや、包帯というより――額です。額を隠してないとダメなんです」
孝二の手が震え始め、額に爪を立てる。
「額を、何かで覆ってないと――見えてしまうんです! あの時の光景が! 思い出すなんてものじゃない。ありありと――目の前に浮かび上がるんです! 痛い、痛い! 血が、血がぁ――」
気付いたとき、コートの男が、孝二の両肩に手を置いていた。
「――ゆっくりと、大きく。呼吸をするんだ」
コートの男の顔が微笑む。孝二は言われたとおりに、深呼吸をする。先ほどまでの取り乱し方が嘘のように消えていく。
「落ち着いたかい?」
コートの男は、そう言うと、最初に座っていたソファーに腰掛けた。
「あ、すみません……。取り乱しちゃって」
「……君は――」
孝二の言葉を遮るように、コートの男は言葉を紡ぐ。
「どうやら、あまり外を見ていないみたいだね」
「え?」
コートの男は言葉を続ける。
「内側、内面。自分、過去。ふむ、過大評価も過小評価もせず、冷静に見ているね。普通はおぼろげなんだけど、しっかりと見えている。君の性格が合っているんだね」
「……?」
「君は夜空を見上げることはあるかい? 星は好きかい?」
「え、星――ですか?」
突然の質問に、孝二は戸惑う。
「いや、あんまりないと思いますけど……。何か関係あるんですか?」
「あるよ。今日は晴れているから、今夜星空を見上げてみるといいよ。ただ見るだけじゃない。心の眼で見るんだ」
「心の――眼?」
コートの男は立ち上がり、孝二のもとへ詰め寄る。
「ゆっくりと深呼吸するんだよ。一つ一つ。丁寧に」
そう言って、孝二の額へと手を伸ばす。
「怖がらなくてもいいよ。きっと――もうこれは必要ないと思うから」
「え――?」
コートの男の手が、孝二の額に触れる。
「想像力はあるほうかい? いいかい? 自分の額に――イメージだよ? 第三の眼があると思うんだ」
「第三の……眼」
孝二はイメージしやすいように目を閉じる。
「その眼はね、あらゆるものを見ることが出来るんだ。人も物も――過去も未来も」
イメージだよと、コートの男は再度呟く。