序章 天国と地獄②
――た、助かった……あぁ、神様ありがとう……今まで、人間に作られた存在の癖に、何創造主振ってんだ、この野郎……とか思っちゃってて、すいません。これからは多分改心します。……四十%ぐらいの確立で。……もし、今度の期末テストで全教科満点取れたら八十%ぐらいにしよう。お願いね、神様。
コートの男の登場に、安堵感を感じ、調子のいいことを考え始める。
そんな中、コートの男は言った。
「君達、いくらお金がないからと言って、人から取っていいって訳じゃないんだよ?」
不良達を諭すように、コートの男は言う。
「悪く生きてもそこには何もない。人間は常に清く、正しく生きなきゃ。うん」
――いいぞ、もっと言ってやれ!
心の中でコートの男を応援する。声を出して言うと、怖いから。
「はぁ? てめえ何様のつもり?」
「調子乗ってんじゃねぇぞ、こら」
案の定、男の言葉に不良達は口々に文句を言う。
「てか、寒いってか、臭いってか、よくそんな良い子振ったこと、平気で言えるよな」
――こんな素晴らしい人に向かって、なんてことを言うんだ! 心清らかで、かなり腕の立つ(勝手に決定済み。だって不良相手に一人で挑むんだから、それなりに腕に覚えがあるでしょう……だよね? じゃないと困るよ…………………………マジで)んだぞ! お前らなんか秒殺……いや、もう光殺だ!
彼の頭の中では、目の前のコートの男が不良達をボコボコにする図が出来上がっていた。
「良い子ぶる……か……」
コートの男は、先程の不良の言葉を呟いていた。
そして、不良達に顔を向けると、言った。
「それじゃあさあ、君達は何で悪い子ぶっているの?」
「…………………………はぁ?」
辺りに沈黙が訪れた。
「だからさぁ、君達は何で悪い子ぶっているの?」
再び沈黙。
「…………お前、何言ってんの……?」
沈黙を破り、不良は言う。
コートの男は続ける。
「だってさぁ、そうでしょ? 僕が良い事をして、周りから良い子と思われたい欲望を、良い子ぶるって言うなら、君達が悪い事をして、周りから悪い子と思われたい欲望は、悪い子ぶるって言えるよね? それで一つ分からないんだけど、何で悪い子ぶるの? 良い子ぶるのは分かるよ。そうすれば周りは慕ってくれるし、色々便利だからね。でも悪い子ぶるのは、分かんないなぁ。そんなことしても周りから変に目を付けられるだけだし疲れるだけだと思うんだけど」
「……頭大丈夫か……?」
不良の言葉に、コートの男は言う。
「大丈夫、大丈夫。この前、精神鑑定したばっかりだし、仕事も上手くいってるし。それにしても、さっき会ったばっかりの僕の心配をしてくれるなんて、君達優しいねぇ」
「…………」
――あ、あの~……精神鑑定ってなんですか……?
彼の頭の中に、一つの不安が生まれた。
――ひょっとして、この人、腕に自身があるんじゃなくて、ただ頭がおかしいだけなんじゃ………………いや、まさかそんな訳ないよなぁ…………だよね……?
誰に同意を求めているのか、分からないことを考え始める。
「おい、てめえ! さっきから訳の分からねえ事ばっかり言いやがって! 喧嘩売ってんのか!」
遂に不良の一人がぶちギレ、コートの男に摑みかかる。
コートの男は、別に抵抗をするでもなく、襟を摑みあげられる。それでも、口元の笑みは変わらない。
「ぶっ殺すぞ、こらぁ!」
不良が叫ぶ。
その不良の様子に、コートの男は、軽く息を吐きながら、言う。
「う~~ん……殺されるのは嫌だなぁ……そういえば、殺すとぶっ殺すってどう違うのかなぁ……悩むなぁ……」