二章 真夏の夜の夢③
舞が喧嘩腰の真を諫める。
その二人を見て、優はにっこりと顔に笑みを貼り付け、口を開く。
「やあ、初めましてかな? 君達が噂の転校生だね。どうぞよろしくさん」
優の言葉に真の眉はますますつりあがる。
「そんなことは聞いていない。とっとと失せろと俺は言っている。俺は舞と二人きりという素晴らしすぎるシチュエーションを楽しんでいる最中ということが貴様には分からないのか?」
「?」
突然の真の発言に優は、は? と呆けた声を出す。
「まったく、ここは人気が無いと聞いたから来たというのに……」
「……?」
真のとんでもない発言。その言葉に優は、微笑みそのままに右手を差し出す。
真は、その右手を訝しげに見る。
「何だ? 私は貴様と友人関係を築くつもりは毛頭無いぞ」
「いや、さぁ……」
優は言った。
「なんか君とはかなり気が合いそうだなぁ~と」
「ふざけるな」
優の言葉を真はぴしゃりと打ち捨てる。
「貴様のような馬鹿と付き合っていると無駄に知的指数が下がりそうだ」
真はそう言うと、隣の舞の肩に手を回し、さっさと行くぞ、と小さく言い捨て、去って行った。去り際に舞が、
「ねぇ、ところで孝二君、見なかった?」
と尋ねてきた。
「いや、見ないねぇ~」
優はのんびりと質問に答えた。
その答えに舞は、そう、と小さく呟き、そのまま真と共に視界から遠ざかり、曲がったところで見えなくなった。
「……ふう……」
優は疲れを吐き出すように重く息を吐く。そして視線を隅の目立たない場所にひっそりと生えているしなびた木に向ける。
「轟~、もう出てきてもいいよ~」
優がそう言うと、その木の陰から、孝二が姿を現す。
「もういないか?」
「いないよ~。だから恐がらずに出ておいで~」
「その言い方やめろ」
口では文句を言いつつも、とりあえず安堵、そして心の中で優に感謝する。
先程、七神兄妹が見えた瞬間にこの木の陰に隠れていたのだ。優が的確に判断してくれて助かった。
「ふう……」
息を吐きながら、孝二はベンチに倒れこむように体重を乗せる。
「あぁ……やっぱり怒ってたかなぁ……」
先程の舞の表情を思い出す。怒っていた……と言うより、悲しんでた、と言うほうが正しいか。むしろ怒っていたのは兄の方だし。
「轟~、何があったの~?」
やはり予想していた通り、優が先程のことを尋ねてきた。
答えるのもかなり億劫なのだが、適当にはぐらかしても、しつこく聞いてくるだろうから、ため息を吐きつつ、答える。
「あぁ、実はさっきの転校生の妹――名前は舞って言うんだが……実はその子に放課後学校を案内するって約束してたんだ。それで――」
「なるほど、轟のことだからすっかり忘れちゃったんだね。かわいそ~」
「……まあ、そうなんだけどさ」
「あとあれでしょ? ついさっきそれ思い出したんでしょ?」
「……なんで分かるんだよ」
「轟~、僕達何年の付き合いだと思っているの~」
「三年」
「うおっ、速攻即答。気持ちいいけど何か物足りない」
「なんだよ、それ……」
「だって今の轟の答え方って、漫才師で言うと、ボケたらツッコミがなんでやねん! って感じだったよ」
「……よく分からん」
「そう、じゃあ北条時宗に例えてみよう」
「突然そっちに飛んだ理由が俺は知りたい」