二章 真夏の夜の夢①
「それは大変だったねぇ~」
放課後、孝二はいつもの中庭のベンチに腰掛け、火の付いていないタバコをくわえていた。隣には優が片手で携帯電話を操作しながら、孝二の話を聞いている。
「んで、その無差別的高性能っぽい殺気発射装置さんはいいとして、妹さんのほうはどんなの? かわいい?」
「おまえにとってそれしか興味ないんだな」
「当然。男に興味無し。男の喘ぎ声なんて気持ち悪いだけだし」
「…………」
皮肉に言ったつもりが、何とも思ってないようだ。
「そういえば知ってる?」
優が誰かにメールを打ちながら、問う。
「何が?」
「今日新しく教師が来たんだって」
打ち終わったらしく、パタンと携帯を畳む。
「新しく来たのは体育とカウンセラーの先生二人だって。ちなみにどっちも男。片方は美形らしいけど僕は興味無し。あ~あ、綺麗な女教師が来てくれたら燃えるのになぁ……」
「何がだ」
孝二の声に、優は胡散臭い笑みを浮かべ、
「分かっているくせに~、カマトトぶっちゃって~」
「おまえ一回留置所行ってこい」
「うわ、ひどっ。それが長年付き合ってる友人に言うセリフ? 轟最近僕に冷たく当たってない?」
「だったら、手当たり次第に女と寝るのはやめろ。ただ遊ぶだけならまだしも……さすがに軽蔑する」
孝二の遠慮無い言葉を聞き、優は笑みを浮かべる。その笑みは先程までの胡散臭い笑みとは微かに違っていたが、孝二は気が付かなかった。
でもさ、と優が口を開くが、孝二は聞く耳を持たず、発言する。
「前から言おうと思ってたけどさ、はっきり言って遊びで寝てるんだろ? ただ、愛情よりも体の欲望優先。飽きたら別の女に彼氏がいようがお構いなしに手を出す」
「…………」
優は押し黙っている。孝二は自分の中の、今まで溜まっていた何かを吐き出すように言う。
「くだらない生き方だよ。一種のゲームとでも思っているのか? おまえはどう思おうが、女も人間だ。商売でやっている奴じゃない限り、体だけ犯されたじゃ、満足いくわけ無いだろ」
「でも、体だけの付き合いを求めてくる女性もいるけどね」
「…………」
孝二が不快の色を顔に浮かべ、優を見る。隣に座る優は先程と同じ笑みを浮かべていた。
「轟、何か嫌なことでもあった?」
「…………」
のんきな声で尋ねる優。その声と笑みを見るとどういう訳か、先程まであった不快感と苛立ちが一瞬にして消え失せた。
「…………」
孝二は、優から目をそらし、軽く息を吐く。
「僕ならいつでも相談に乗るよ」
優はいつもの、のんびりとした感じに言った。なんだか先程まで指摘していた自分が恥ずかしくなった。
――何言ってるんだろ、俺は。馬鹿みたいに何も知らない奴が、熱く語って……。
「いや、悪かったな。愚痴みたいなこと言っちまって」
と言い、自己嫌悪。脳内で自己批判を開始。
「別に気にしてないよ~。本当のことだし。それに、」
いいこと分かったし~、と優は、機嫌良く言う。
いいこと? と孝二は眉をひそめる。
「何だよ」
「それは~」
優は再び口元に胡散臭い笑みを浮かべる。
「轟が千里ちゃんを本気で愛しているってこと~」