一章 ためいき⑥
「んじゃあね~轟~~」
優は立ち上がり、軽く手を振りながら、去っていった。
「おぉ~」
優に背中に返事を返し、軽く深呼吸。
「さて、俺も行くか」
孝二はそう呟くと、くわえていたタバコを吐き捨て、立ち上がる。
校舎の中に入り、階段を上がっていく。
いつもと変わらない日常。
授業を適当に過ごし、優と適当に馬鹿話をして、午後は自分の時間を過ごして、また明日。
世の中の流れや常識に縛られるのは嫌だという奴もいるかもしれないが、俺はこの流れに従って生きる日常が好きだ。
――自由って言葉は響きが良く聞こえる言葉だけど、恐い言葉でもあるよね。
以前そう教えてくれた人がいた。
誰だったかは思い出せないが、その通りだと思う。
何かに縛られていないと、その人はその人ということすらも理解することが出来ない。
まず人は名前に縛られる。そして学ぶことで、言語に理論に支配されていく。そしてまず学という流れにその身を置く。そして、そして、そして…………数えだしたらキリが無い。社会の流れに反発する者も、結局娯楽を求め、その流れにその身を置いている。いや、一つにくくりすぎだな。その縛られた中に自由があるんだろ。人それぞれの自由……。でもそれじゃ自由という言葉自体が矛盾しているような気がする。自由って何にも縛られていない状態を言うんじゃないのか? でも確か辞書では、自由とは自分の思い通りにできることって書いてあったけど、これってどうなんだろ? それが世間で良いほうに働けばそれは自由? 悪いほうで働けばそれは違反? もしかして自由は無い? ただの慰みの言葉? ならもし真の自由があるとすればそれはなにか……。
あらゆる事柄からの開放。
すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから。すべてから……………。
それは何……?
それは………………
死……。
「…………」
孝二は軽く息を吐き、今までの無駄思考を停止させる。
「変な癖だな……、治さねえといけないな」
何かあるたびに、変なことを考えて没頭してしまう。
孝二は再び息を吐き、教室に入り、自分の席につく。
まだ友人との会話を楽しむ者。
携帯をいじる者。
なにかの勉強をしている者。
様々な音や風景を感じつつ、ゆっくりと深呼吸。
そういえばため息は一つするごとに、幸せが一つ逃げると言うが、今日俺は、一体いくつの幸せを逃がしてしまったんだろう。
数えるのもめんどくさいので、とりあえずため息。もういっちょ、幸せを逃がしてみることにした。なんとなく。