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序章 天国と地獄①

 人間誰しも過去に戻りたいと思うときがあるだろう。何か大きな失敗を犯してしまったときや、命の危険に晒されたときなど。

 今、彼はそう思っていた。とにかく、ただひたすらにそう思っていた。

 日は完全に沈み、薄い雲と重なり、ぼやけた光を発する月が、地上を見下ろしている。

 夜とはいえ人の数は多く、あちらこちらで談笑や、店が流す音楽などがあふれ、まだまだ都市が活動していることを証明している。人口の光の中、人々はそれぞれの夜を満喫していた。

 そんな中、彼は絶体絶命の危機に瀕していた。

 今までの人生で、一度も体感したこともなく、そしてこれからも一生無縁のものだと思っていた。そう信じたかった。

 彼は考える。

 ――どうすれば良い……?

 ――どうすれば俺は助かる……?

 彼をこんなにも悩ませている原因、それは――

「なぁ、今俺達、金がなくて困っているんだよなぁ……」

「ほら、よく言うじゃん。人間困っているときは、お互い助け合うって」

「だからさぁ~~、君も人なら、そういう心を持っているよねぇ~~~」

 こいつらだ。

 彼を取り囲んでいるその三人は、別に金がなく、明日をも知れぬわが命、と言うわけではない。

 ただ単に遊ぶ金が欲しいだけの集団――そう、一言で言うところのヤンキー、不良だ。

 そして、彼は今、その不良集団に絡まれている最中である。

 ――くそ、何でこんなことに……。

 彼は、考える。どうしてこうなったのかを……。

 …………………………わ、分かるかぁぁぁぁぁ!! だって俺は何もしてないんだぞ! コンビニに夜食買いに行こうとしていただけなのに……! 何で……何でこんな連中に絡まれないといけないんだぁぁぁ!

 彼は、心の中で必死に叫んだ。

 ちなみに、ここまでの経緯はこうである。

 彼が通っている高校で三日後、中間テストがある。そのため、夜遅くまでテスト勉強をしていた。それで少々小腹がすいたので、コンビニまで足を運んでいたのだ。

 ――あぁ、やっぱり外に出ず、冷蔵庫の中の、ちょっとピンク色になっていた食パンを食べていれば良かったんだ。ちくしょう、おれの馬鹿、アホ、ボケ、間抜け。

 そもそも外に出る気はなかったのだが、自分は何故か、薄い雲が重なって、ぼやけた感じの光を発する月が好きなのだ。

 ソレで何故か機嫌が良くなり、なんとなく外に出て、近道の路地裏を歩いていたのだが……。

 月にむらくも花に風とはよく言ったもの。

 その言葉どおり、彼は不良に絡まれたのだ。

 ――ど、どうしよう……とりあえず落ち着かないと……でも落ち着いたところでどうすんだよ……でも、反乱狂になるよりはいいのかな? …………あぁぁぁぁ、もう! 誰でもいいから助けてくれえぇぇ!!

 彼は必死に祈った。もしこれで助かることが出来るなら、今度から神様を本気で信じようと思うぐらい本気に祈った。

 その時、その男は現れた。


「君達、ひょっとしてこの状況は、俗に言うカツアゲってやつなのかなぁ……」


「あぁ?」

 不良達は声のもとに顔を向ける。

「誰だ、てめえは?」

 不良の一人は、その男を睨みながら言った。

 路地の入り口の人影。そこには、やたらと自信満々な笑みを口元に浮かべた、一人の青年がいた。

 年はおそらく二十代前半ぐらいだろう。

 髪を適当に二つに纏め、白いカッターシャツとかなり色落ちしているジーパンを着ており、その上から、足元を覆うほど長いベージュのコートを纏っている。

 不良のドスの効いた声にも動じず、悠然と立つその姿は何かを感じずにはいられない、まさに、威風堂々といった感じだ。

 その男の登場に彼は心の中で歓喜した。

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