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笑顔は人を幸せにします。
笑顔が溢れる世界になってほしいのです。
「ナツって呼んでもいいですか?」
何を聞かれるのかと思えばそんなことか。
「え、別にいいですけど」
「じゃあわたしのこともハルで!」
「・・・・・・・どうしても?」
「わたしの性格、わかってますよね?」
「・・・・ハル」
「じゃあ次」
「次?」
「敬語、やめてほしい」
「・・・・・・・わかったよ」
「ナツのさ、他の曲も聴きたいな」
「いいですけど。あ、いや、いいけど・・・・」
・・・・・・しばらく無言になる。
「あのさ、ハル」
神妙な面持ちで言った。ハルが仰け反る。
「な、なんでしょうか。あ、何?」
「ハルって太陽みたいなんだよ」
「・・・・・何の話?」
構わずに続ける。
「眩しすぎてさ、目が眩んじゃったんだ。直視できなくなってた」
「僕は結構、酷い人生を歩んでいて・・・・・・」
タカハシは初めて他人に自分の半生を話した。これでこの気持ちに蹴りがつくだろう。
「わたしさ・・・・」
今度はハルが話し始める。
「人前で怒ったことなかったんだよ。あの時まで」
「みんなポカンとしてたでしょ?そりゃそうだよ、いきなり大声で怒鳴りつけるんだもん」
「怒ってもいいんだとか、泣いてもいいんだとか」
「受け止めてくれるじゃん。いつも。今も」
「そしたら曲もたくさんできるようになって・・・・・一回できなくなったけど」
「えーっと、なんか上手く言えないや。ごめん」
「ナツにどんな過去があっても、ナツはナツだし」
「つまらない話だよ」
何故これほどハルと惹かれ合うのか、なんとなくわかった気がする。
タカハシの正の感情は失われていた。
それとは真逆だ。ハルは負の感情を失っていたのだ。
互いに足りないものを補い合う。
欠けたままでは生きられないものが埋まってゆく。
歯車のように噛み合い、絵の具が新しい色を見せるように溶け合い、乾いた大地と雨のように混ざった。
タカハシもハルも、絶え間なく変化している。
失っていた感情が湖のように満ちてゆく。
「あのさ」
流石に、女性に言わせる訳にはいかないだろう。
「む・・・・・」
ハルが変な声を出す。
「一緒に居て欲しい」
ぶっきらぼうだが真っ赤な顔で言った。
ハルの顔も朱色が差し、硬直している。こんな表情は見たことがない。
「む・・・・うん・・・・」
「あの・・・・よろしくお願いします・・・・・」
「こちらこそ、よろしく」
一礼して顔を上げる。
その顔を見たハルが驚いて言った。
「って、笑った?」
「え?ああ・・・・」
いつも無表情だと自覚はしているが、ハルの前で笑ったことがなかったのか・・・・。
それ以前の問題か。ハルの前に限らず、ずっと笑っていなかった。
「ナツが笑うか・・・・・雨じゃ済まないね」
「・・・・・・それ、今言う?」
(この瞬間も歌になりそうだ)
2人で同じことを考えながら笑い転げる。
疲れ果てたガラクタは、長い旅路の果てに笑顔を取り戻し、太陽は涙を取り戻した。
終わりじゃありません。
もう少しだけ続きます。