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乾燥したガラクタ  作者: デラシネ
希望とか愛とか夢とか
12/28

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ターニングポイントはやって来ます。

誰にでも必ずやって来ます。


病気や怪我、近しい人の死、挫折、ある人は部屋から一歩踏み出すだけでもターニングポイントになるでしょう。

いつの間にか開演時間が近づく。


「じゃあ行きましょうか」

ミズタニがそう言うと、2階にある関係者席に案内される。


大概こういう席は客席から丸見えなのだが、今日の箱も例に漏れずそうだった。





なんだか、客がチラチラこっちを見ている気がする。

ミズタニを見ているのかと思ったが、違和感がある。


「注目されてますね」


「何なんです?一体?」


「後でゆっくり話しますよ」


「・・・・・後で?」





そうこうしているとライブが始まる。





やはり、凄い。

ハスキーなようで甘ったるい、しかし何者も連想させない、この声は神からのギフトに相違なかった。

そこにいるすべての人が吸い込まれてゆく。


タカハシに芽生えた感情も少しずつ大きくなるが、まだ気付けないほどだ。


アンコールを終えると、夢から覚めたような気分になった。




「さて、行きますか」


「何処へです?」


「決まってるでしょう。ハルのところですよ」


「・・・・・・なんで?」






またもやスタッフルームで待たされている。

まあ、仕方がない。自分と違って責任ある立場の社会人なのだ。




まず入って来たのはミズタニだ。


「お待たせしてすみません」


「いえ、とんでもない」


口ではそう言ったが、内心帰りたかった。

さっきの観客の態度も気になる。




「ナツさん、今の状況わかってないでしょう?」


「状況って?」


笑顔のままだが、いつもとは空気が違う。





「Twitter・・・・・やってないんですよね」


「友達いないんで」


ミズタニがまた笑う。失礼なんだろうが、なぜか悪い気はしない。




「ナツさんね、ファンの間で、ちょっとだけ有名になってるんですよ」


「・・・・・・言ってる意味がわかりません」


「ほら、Twitterで探しちゃったでしょ?ナツさんのこと。タトゥーのことも書いて」


だから、Twitterやってないんだけど。


「ちょっと聞いたことはあります」





「ファンに絡まれるかもしれませんよ」


「・・・・・・・何故です?」


「ハルが直接お礼言ったじゃないですか?」

「その時のことが、なんというか、歪曲して広がりまして」

「目立つじゃないですか、ナツさん」


「それだけですか?杞憂ですよ」


「うーん、実はそれが本題じゃなくて」

「ハルがね、どうやら・・・・」

ミズタニが口ごもるのは初めてだった。


「気になってるみたいなんですよ。ナツさんのこと」


「そんなわけないでしょう」


「あるんです。見ててわかりませんか?」


「わかりませんよ」

と言ったその時、初めてステージ上のハルと目が合ったことを思い出した。


「あ・・・・・」


「でしょう?最近変わったんですよ」


「もう来るなってことですよね?」

無感情な声だったが、気分はこの上なく沈んでいた。資格試験に落ちた時より圧倒的に深く沈んだ。


「いや、逆です」


「・・・・・・あの、さっぱり意味がわからないんですが」


「言ったはずですよ、アーティストの意向は尊重するって」


「この前の新曲、良かったでしょう?ナツさんと知り合ってから凄く良い状態なんです。ライブも劇的に良くなりました」

「できるだけハルと話して欲しい。もちろんプライベートでは無理だし、連絡も私を通じて行います」

「それに、他のお客さんが気にしてるのは本当なんです。今日も関係者席にいたわけだし・・・・」


「何かされたら訴えますよ。なんでコソコソしなきゃならないんですか」


「そうくると思いましたよ。ただね、ハルのことも考えて欲しいんです」

「ここだけの話なんですが・・・・・」


いつもの笑顔はない。


「彼女、家族と上手くいってないんですよ。学校でも浮いてるんです」




「嘘ですね」

間髪入れずに答えた。

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