見返りは大きいほうがいい。きっと、絶対。
改めてリエータの体を見てみる。
トッププレイヤーと言われるだけあって、均整の取れた見事な体。
それになんだ、この恐れ多くなりそうな威圧感……というか、
ピコン!
「!?」
それより、何かスキルを覚えたようだ。
立ち向かう心 自動スキル
【自分よりレベルが10以上高い相手に挑む際、腕力と知力を20あげる。
レベル2で30、レベルMAXで40増加。
10以上レベルの高い敵に勝利することで取得。
レベル2には累計3回、レベルMAXには累計6回取得条件を満たす】
「お、ボクもだ」
「ね、みんなで倒してよかったでしょ?」
……話を戻す。
「な、なぁ……リエータ」
「ん?」
「その、目のやり場に困るんだが……」
アーマーを冠しているとはいえ、ほぼビキニだ。
彼女いない歴=年齢の俺にとっては若干、いや、かなり目のやり場に困る。
「ん?どういうことかな?」
首をかしげながら、こちらの顔を覗き込んでくる。
いやがうえにも、胸に目が……!?
「や、やめろぉ!」
「何やってんの……?」
大声をあげる俺に、ポラリスのツッコミ。
レベルを確認すると、15まで上がっていた。
レベル差があったとはいえ、ここまで上がるのか……
更に宝箱もある。
「あれ、まさか……{証}なんじゃ?」
「証……レアなモンスターを倒した時に出るあれか?」
「うん。きっとそうだと思う」
宝箱を開ける。
中身は……
「……!?なんだ、これ……!?」
三つ首の蛇がねじれたような意匠がつけられた長剣。
そして巨大な蛇が巻き付いたような意匠の鎧。
詳しく見てみる。
邪剣アジ・ダハーカ
【世界を滅ぼすほどの激情を持つ三つ首の大蛇の力を封じ込めた長剣。
腕力と器用さが20上がる。超覚醒可能】
魔鎧テュポーン
【世界そのもの、と言えるほど強大な蛇の力を封じ込めた鎧。
体力と精神が20上がる。超覚醒可能】
「おぉ~、かっこいい」
ポラリスが感嘆の声をあげる。
「これ……どうする?」
「とりあえず長剣は、タイガが装備したほうがいいと思う」
鎧を見つめるポラリス。
「あたしはいいよ。もうユニーク装備なら手に入ってるし」
「ボクもいいかな。だってマフラーや弓は鎧に合わないだろうし」
「リエータはともかくポラリスはもったいなさすぎないかその理由!」
となると……
「……いいのか?」
必然的に、俺になってしまう。
ポラリスのホーリーシールドがなければ、俺は決して勝てなかった相手だ。
リエータの力もそうだ。
「……」
「ほら、着けなよ。タイガ君」
「うん。ボクもそれでいいと思う」
……いや、俺が着けても、宝の持ち腐れになるだけだ。
理由?簡単だ。
「ぬおっ!」
ガシャ~ン!
「タイガ君!?」
俺のようなヒョロヒョロ体系には、こんな重い装備は扱えない……
「あ~……そもそも論だったね」
とりあえず剣と鎧はどうするかは後で決めるとして、俺たちは町に戻ることにした。
「改めて、ポラリス君は知ってると思うけど自己紹介。
あたしはリエータ。炎属性得意のランサー。よろしくね」
剣と鎧の入った宝箱は、リエータに持ってもらっている。
……トッププレイヤーを雑用に使う新人プレイヤーがいるらしい。
「俺はタイガ。長剣使いの闇属性、よろしくな」
「タイガ……いい名前だよね。そのままの名前なの?」
「え?……あぁ」
純粋な目を向けるリエータ。……かわいい。
……て、何言ってるんだ俺。
「それにしても……リエータがいて助かったよ。
あのままボクとタイガだけだったら、さすがに死んでた」
そう、ポラリスの言うとおりだ。
現にポラリスは相当満身創痍だった。
俺もHPこそ1だったが、ポラリスの方が疲弊しているはずだ。
「ま、たまたま通りがかっただけなんだけどね。北の洞窟にも行こうかなって思ったんだけど、
最高質の黒鉄あんまり手に入らなさそうだしさ」
黒鉄が手に入らなさそう……
これもダークリゾルブの仕業なのだろうか。
「……悪いな。ポラリス」
「え?」
「俺、お前のために何もしてやれなくてよ。そもそも俺が皮の鎧作りたいなんて言わなかったら」
「あ~、いいよ別に。トビウサギの耳とかのお礼」
ポラリスは柔らかな笑みを浮かべる。
その笑顔がまた、申し訳なさを掻き立てる。
「……」
するとリエータは宝箱を床に置くと、
「うおっ!」
ねこだまし。そして再び宝箱を持ち上げる。
「ただ1回の失敗……いや、失敗にもなってないことが何なの?
あんまり自分を責めちゃダメだよ。
だって、VRMMOって……ゲームってそういうものだもん。ね?雨宮大河君」
「「!?」」
俺とポラリスは同時に驚いた。
「な、な、ななななななななな、何のことだ……?」
「え?キミの本名、雨宮大河君でしょ?あたし知ってるよ。
メガネをかけて、タイガって言ったらその人しかいないし」
「い、いや」
言い訳をする前に、ポラリスが飛び込んできた。
「プロゲーマーの雨宮大河さん!?」
「……」
「ですよね!?そうですよね!」
……あぁ、最悪だ。
せめてゲームの中では、自分の正体はばらしたくなかったのに……
「……」
いや、今更この純粋な目を見せられて「いえ違います」なんて言えない。
……とりわけ、爛々とした目を向けるポラリスには言えるわけがない……
「あ、あぁ、まぁ……そこまで有名とは思って」
「やっぱりだぁ~!」
飛びつくポラリス。
「ば、バカ!男が抱きつくんじゃない!」
「ボク、あなたのゲームスタイルが本当大好きで……
プロなのに本当に楽しそうにゲームをしてて……
その、本当……えっと……」
語彙力、著しく低下。
「ま、まぁ、嬉しいな、ありがとう……」
「嬉しいのはボクの方です!」
純粋に喜ぶポラリス。……何だかこっちまで嬉しくなってくるな。
「……」
それにしてもリエータ……パッと見ただけで俺の正体に勘付くか……?
メガネをかけている「たいがさん」なんて、俺だけじゃないはずなのに。
町に入る前……
「なぁ、俺の本名は……」
「大丈夫です。誰にも言いません」
「あたしも。ほかの人の本名を大勢にさらすのは違反行為だしね」
「ありがとう。あと、ポラリス。俺とは今まで通りため口で話してくれ。
急にかしこまられると困る」
そういうと、ポラリスは緊張した様子で、
「う、うん。任されましてござる」
「敬語にもなってないぞ」
町に着いた後先にログアウトするというリエータと別れ、俺たちは武具屋へ。
そろそろログアウトしないとナツキがうるさいのだが、確認しておきたいことがあった。
立ち向かう心以外にもスキルを覚えていたということだ。
スラッシュのレベルが2に上がりました
クールタイムが減少しました
技の威力が上昇しました
グラビティダウンのレベルが2に上がりました
クールタイムが減少しました
重力低下の効果時間が伸びました
シャドウガンのレベルが3に上がりました
{シャドウレーザー}に強化が可能です
強化をする場合は、スキルの巻物を購入し、使用してください
まずはスキルのレベルアップ。
レベル差が違うとレベルアップも早いようだ。
そしてスキル。
マグナムブレード 剣系統 消費SP:20
【剣を振ると同時に衝撃波を飛ばし、離れた敵に攻撃する。
長剣はレベル3で{ソニックブレード}に、
大剣はレベル3で{天地一閃}に強化可能。クールタイム:1分】
ネクロウィスプ 闇 消費SP:20
【闇の力を封じ込めた球体を敵に向かって投げ飛ばす。ダメージと同時に、
相手にスキルを使えなくして攻撃力を上げる{激昂}状態にする。クールタイム:50秒】
ブラックソウル 闇 消費SP:30
【闇の力を体に取り込み、一定時間体力を回復させ続ける。
光属性得意の相手に使うと一定時間ダメージを与え続けてしまう。クールタイム:1分】
身喰らう闇 自動スキル
【闇属性得意のみ得ることのできるスキル。
攻撃を耐えられれば受けたダメージの半分回復できる。
1度の戦闘で、最大HP分の5倍闇属性ダメージを受けると取得可能。
レベル2で3分の2、レベルMAXで4分の3に回復量が増える。
レベルアップするには再度、取得条件を満たす必要がある】
結構覚えたな……そろそろステータスも割り振らないと。
とりあえずスキルは見喰らう闇は不要だ。
節約の心得も、回復手段を得ることが出来たので必要ないだろう。
そこへポラリスがやってきた。
「どうだった?」
「うん。ディグさんがしばらく預かってくれるって」
長剣はそのまま使うとして、鎧は使い方を考えておく必要があった。
「すいません。ディグさん」
「何。プレイヤーの成長を見守るのがわしの役目じゃからの。
装備したい時はいつでも言っとくれ」
時計を見る。
「……やべぇ」
現実は19:30。いつもの食事時間より1時間半も遅刻だ。
「うわ、本当。もうこんな時間」
「とりあえず今日は疲れたし、俺はもう潜らねぇわ。ポラリス、また明日な」
と、何気なく挨拶を交わすが……
「あ、明日から3日間ログインできないよ」
「……え?」
「あれ?知らないの?」
「このゲーム、明日から大規模なアップデートでメンテナンスに入るんだよ?」
なるほど。だからエキドナが出てくるってバグも納得……
出来るわけないだろ!
「ま、まぁ、いい。とりあえず、またなポラリス」
「うん。またね」
俺は一足先にログアウトした。
「……(うっわぁ~緊張したぁ……!まさかこのゲームのトッププレイヤーのリエータと、
プロゲーマーの大河さんと同じ日に会えるなんて……明日死ぬかもなぁ、ボク……)」
――――――――――――――――――――――――――
「……まずいな……絶対怒ってるぞナツキ……」
ログアウトした俺は慌てて部屋を出ると、
「わっ!?」
隣の部屋から、ナツキが現れた。
「ナツキ……?」
「お、お兄ちゃん、ごめん。居眠りしちゃった……」
……割には、汗でびっしょりだ。
「……」
いや、助かったのは俺の方なんだが……
「仕方ねぇ。ラーメンでも食いに行くか」
「本当!?」
「どうせ今日も父さんも母さんも遅いんだろ?食いに行こうぜ」
「やった~!」
ルンルン気分で部屋に戻るナツキ。
……これからはちゃんと時間を決めないとな……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その日の、現実時間深夜。
すでにメンテナンスが始まろうとしている中……
「……」
ツバキだ。
ツバキはディグの武具屋にある宝箱に手を伸ばし……
「それをしたら今度こそ犯罪者じゃぞ?」
「!?」
……背後に、ディグがいた。
「今までお主の行為は散々不問に処してきた。じゃが、他人が入手した装備を盗む。
これは立派な規約違反じゃ。
どうせこれもお主の兄の差し金じゃろうが、お主はそれでよいのか?」
「……」
「ワシは信じておる。ツバキちゃん、お主はまだ、完全な悪ではないと」
「……無駄です」
落ち込んだような声を発するツバキ。
「私は兄の操り人形……あなたの言葉は届きません……」
「ツバキちゃん!」
ツバキは、窓から外に飛び出し、逃げていった。
「……」
―――――――――――――――――――――――――――
【悲報】WOOさん、致命的なバグ出現
1 名も無きアーチャー
北の洞窟のオーバーソウルのはずのエキドナが、高地にいきなり出てきた
ボク氏フレンドともども死にかけたよ…
2 名無しの冒険者
は!?
3 名無しの冒険者
サービス開始してまだほぼ1か月なのにもうそんなバグ見つかったんかい
4 名無しの冒険者
こっわ。WOO終了案件ちゃうんかこれ
・・・
13 名無しの冒険者
ごめん、逆に聞くわ。なんでアーチャー氏無事だった?
14 名も無きアーチャー
まぁ、それもいろいろあったんだよ。詳しくは説明しないけど
とりあえず長剣使いのタイガ、彼は将来有望だね
グラビティダウンの使い方うまかったから難を逃れられた
逃げることが出来ないのが本当つらかったけど
15 大剣大好きっ娘
やっぱウチ行ったほうがよかったねぇ
でも本当どうやって助かったん?
逃げることもできないんだったら
16 名も無きアーチャー
あー、あまり隠してもだから正直言うよ
たまたま近くを通りかかったって言うリエータに助けてもらった
17 名無しの冒険者
ファ!?
18 名無しの冒険者
ファ!?
・・・
48 名も無きアーチャー
みんな同じリアクション取りすぎね
でも本当リエータがいなければ死んでた
皮の鎧用のウェアウルフの皮、全部パーなとこだった
ちなみにレア武器防具はタイガに譲った。これから彼はもっと強くなるはず
明日からのメンテナンスでこんなバグなくなるといいけどねぇ
49 名無しの冒険者
そういや明日からメンテか
何が変わるんだろう
50 名無しの冒険者
エリア拡大は来そうだよな
砂漠地帯とか海岸地帯とか行きたい
51 名も無きアーチャー
多分メンテ明けと同時にイベントの告知も来そうだね
まぁ前回10位なボクは今回は目立ちすぎないようにしたいけど
52 名無しの冒険者
ファ!?前回10位って、アーチャー氏ポラリスじゃねぇか!
言うて結構な上級プレイヤーやんけ
53 名無しの冒険者
>>52
すまん、なんで気付いてなかったんだよ
54 名も無きアーチャー
とりあえず今はメンテが開けた後の仕様変更に備えないとね
メンテの状況がわかったらまとめてみるね
55 名無しの冒険者
お願いするであります(^^ゞ
56 名無しの冒険者
頼まれとくれい^^
名も無きアーチャー=ポラリス。
実は彼も早々に身バレしていたりします。