「月」の輝きは、宵闇に昇りて満ちる。 1
久々の投稿。
この長編、多少展開は完成していますが、投稿間隔は開く……かも知れません。
……ポタポタと、鍾乳石から水滴が落ちる。
その効果音のはるか遠くで、足音が聞こえる。
密林地帯の洞窟の中に、俺とポラリスはいた。
……ある程度は入り組んでいるので、他の場所よりかは見つかりづらいはず。
「まずいことになったな……」
「まったくだね。間違えた正義を掲げた人間ほど、怖い人はいないよ」
ここにいるのは俺とポラリス。
エルとアレンとリエータは、別の場所にいる。
そして……ディアナはログインしていない。
・
・
・
事の発端は、今日の朝。
「あれ、ナツキ?」
台所にやって来た俺は、ナツキがいないことに気付いた。
朝食用のサラダだけが置いてあり、
お兄ちゃん!とりあえず話は向こうでするから、
先にこれ食べて!
食事を終えた後、すぐにログインする。
すると……
「やぁ、タイガさん」
「ん?」
面識のない男たちが、俺を取り囲む。
「君、大変だったね。あの女にはめられかけて」
「……あの女?」
「ディアナだよ。あなた、彼女にはめられそうになったんでしょ?」
中には女のプレイヤーもいる。
「あぁ、あれか。あれは」
「俺たちはあいつとエミリーをとっつかまえて、運営に突き出してやろうと考えててな」
「……おい、話が見えないぞ」
と、俺が言っても男たちは聞く耳を持たない。
「ねぇタイガさん。ディアナの居場所教えてくれない?
アーチャーさん……いや、名も無きアーチャーに聞いても知らないって言うし」
「言えるわけねぇだろ。そもそもログインしてるかどうかも」
その時だった。
「ごはぁ!?」
「!?」
突然俺の後ろに立っていた男の後頭部で、爆発が起きた。
『タイガ君!』
「!?リエータ!?」
レッドドラグーンを使っているリエータに、俺は手を伸ばした。
そのまま町の上を飛ぶリエータ。眼下には……
「な、なんだよ……これ……」
そこには、大勢のプレイヤーが町を徘徊していた。
無論、徘徊といっても、武具屋やスキル屋を利用しようとしているとか……
そんな生易しい者ではない。
殺気。
ツバキの時と同じような、殺気を感じる。
「リエータ」
『ごめんお兄ちゃん、ひとつひとつ説明してる暇はないんだ。
とりあえず、掲示板を見てくれる?』
「掲示板?」
そこに書かれていたのは、
「……?!」
昨日の騒動により、WOOの運営が炎上している様だった。
さらに、それだけではなく……
―――――――――――――――――――――――――――
【悲報】WOOさん、やらかす。
212 名無しの冒険者
てかディアナまだログインしてないのか?
・・・
217 名無しの冒険者
それを聞きだしたいがためにギルメン狙ってんだけど
どいつもこいつもちょこまかちょこまか逃げやがる
218 名無しの冒険者
とりあえず今日中に誰も捕まらないなら運営突き出すけど
それでいいよな?
・・・
222 名無しの冒険者
いいと思う
クロウがどんだけひどい目に遭ったか思い知らせないとな
―――――――――――――――――――――――――――
「……おい、これ……」
『うん……多分偽クロウの仕業だと思う。で、ディアナ……
上弦先生はこれより前の書き込みを見て……』
「俺たちを守るために、自分だけ罪被る気かあいつは」
こくりとうなずくリエータドラゴン。
……まるで同じじゃないか。
この間のツバキの時と……まるで同じじゃないか。
……ん?待てよ。
まるで同じ……?
自分で考えておいて、妙な違和感を覚えた。
『とりあえず、みんな密林地帯の洞窟の奥にいる。そこに行くね』
「わかった。頼む」
そして、洞窟の前に着地し、竜神降臨を解除する。
「大丈夫か?」
「うん……大分、慣れてはきたけど……」
と、その時……
「……」
キョロキョロと、左右を見回すリエータ。
「どうした?」
「……ごめん、タイガ君。先行ってて」
「……?わかった」
・
・
・
少したって、奥からツバキが駆け寄ってきた。
「どうだった?」
「ダメです。ギルドホームも他のプレイヤーに制圧されています。
もしホームワープで戻ったら、それこそ相手の思うつぼだと……」
「そうか……ありがとう。……ところで、リエータは?」
「いえ、見ていません。タイガさんの言うとおり、敵プレイヤーに捕まったのかも……」
すでにリエータと別れ、20分ほど経過している。
しかしここまで音沙汰なしとなると、最悪の事態を考えないといけない……のだろうか。
しかも、先ほどから呼びかけてはいるが、エルとアレンもつながらない。
一体どうしてしまったのだろうか……そう考えていた時だった。
「……?」
エルからのメール……?
内容は、こうだった。
TO:タイガ(Tiger)
Sabject:
たす
「……たす?」
横からのぞき込むポラリス。
「これ、助けてって打とうとしたのでは!?」
と、慌てるツバキ。
「お、おい、そう言えばエルとアレンは……」
「わからない。ボクとツバキで別方向に逃げたから……!」
「私もポラリスさんも、エルさんもアレンさんも、ログインした直後に見知らぬ人たちに襲われて……
ギルドホームに逃げたら、そこも何人かに制圧されていて……」
バカな。
俺はもう一度掲示板の書き込みを見た。
【悲報】WOOさん、やらかす。
このスレが立ったのは、そもそも今日の明け方だ。
つまり、多くのプレイヤーが、俺たちより早く、朝になる前に……
俺たちのホームの制圧、そして俺たちの待ち伏せをしていた……という事なのか。
と、その時。再び俺の端末にメールが届き……
「!?」
その内容に絶句した。
……送られてきたのは、リエータの端末からだった。
だが……
TO:タイガ(Tiger)
Sabject:偉大なる犯罪ギルドのリーダー タイガ様へ
見るがいい
お前の仲間である奴らの無様な姿を
写真が送られてきており、そこに映されていたのは、ロープで縛られた……
リエータ、エル、アレンの3人。
「リエータ!?エルも、アレンも!?」
「待ってくれ、続きがある」
この3人を返してほしければ、ディアナをお前たちのギルドホームに連れてくるように
期限は今日の夕方までだ
夕方までに連れてこなければ……
こいつらがどうなるか、保証は出来ない
運営に連絡など考えないほうがいい。こいつらがどうなってもいいのなら、話は別だが
「そんな、どうして……!?」
「……」
交換条件……だろうか。
だが、ここでディアナを連れてくる。それこそこいつらの思うつぼだ。
どうする。そう思っていた時だった。
「おい!ここにいたぞ!」
「!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「……」
部屋の中で、『彼女』は寝転がっていた。
寝転がると言っても、寝転がる事ができる場所は少ない。
うずたかく積まれたゴミの山は、今にも崩れ落ちそうになっている。
「……」
無気力。
まったく動く気が起きない。
結果的に、自分ではクロウを止められなかった。
結果的に、自分は何も変えることが出来なかった。
結果的に……自分はまた一人になってしまった……
「……」
……いや、元通り戻っただけ。なんだろう。
彼女は特に何もすることはなく、寝転がるだけだった。
部屋の中は空調の音だけが聞こえるのみ。
机の上に置いてあるコミケ用の漫画の原本も、もはや必要としないものだ。
これを取りに来る人は……もういないのだから。
と思いつつ、目を閉じようとした時、呼び鈴の声に気だるい疲労感が残る体を起こす。
「宅配便でーす」
「……はい」
扉を開けると……
「!?タイ……!?」
目の前に、タイガがいた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
時はさかのぼって、1時間ほど前。
……洞窟の中にプレイヤーが殺到する。
その数、20人はいるだろうか。
「タイガさん……」
不安そうなツバキ。
「ねぇ、答えて。キミたちの目的は何?」
「ディアナ。それだけだ。すでにエミリーは捕まえてある」
「エミリーも……!?」
・ ・ ・ ・ ・
「……って、誰?」
「「いや、覚えとけよ(といてくださいよ)!」」
俺とツバキ、2人で息の合ったツッコミ。
「……なるほど、差し詰め偽クロウを使って、今回の事件をディアナとエミリー……
そして本物のクロウに罪を押し付ける気なんだな。小物が考えそうな策だ」
「少し違うな。これは{あの人}の華麗なる復讐劇の始まりに過ぎない」
「復讐?」
「あぁ、お前たち{もつ煮込み}に対してのな!」
この際名前はどうでもいいが、ゾッとした。
「待ってください!私の兄がやったことに対する復讐ですか!?
だったら私だけが罪を負うべきです!タイガさんたちは関係ありません!」
前に出るツバキ。だが……
「うるさい!あのお方はタイガとリエータ以外に興味は持ってないんだよ!」
「俺と……リエータ!?」
「そうだ!あの方が受けた痛みを……お前らも知るべきなんだ!」
20人ほどいたプレイヤーが、一気に駆け出す。
「よくわかんねぇけど……やる気なら仕方ないな。{グラビティドーム}!」
巨大な重力波の結界を作り出す。
跳びかかってきたプレイヤーたちは、一斉に地面へと口づけをする。
「くそ、怯むな……!ん?」
目の前に起きていたことに気を取られすぎて、裏にツバキが回っていることに気が付かない。
「な……!?」
「{烈風脚}!」
軽く男を蹴り飛ばすと、接近し、そのままハイキックで蹴り飛ばす。
「{アローレイン}!」
そのまま地面に伏せっている相手には、ポラリスのアローレイン。
文字通り冷たい雨のように、倒れている者たちに無情に降り注ぐ。
「タイガさん!ポラリスさん!」
ツバキの声。目の前を見ると……
「!?」
そこにいたのは、インナーの姿になっているエルの姿が。
気絶させられているようで、首元には槍が突きつけられている……
……槍?
「お前……カイン!?」
そう、その男は、カインだった。
「やれやれ、やっぱザコばっかじゃ、役に立たんのう」
「『黒き悪魔たち』の……でも、どうしてこんなことを?」
「どうして?さあなぁ。当ててみ?」
それでも構えるツバキ。
「ツバキ、これが見えんのか?お前が駆け寄った瞬間、こいつはこうやぞ?」
槍をわざとらしく、動かそうとするカイン。
「!?」
「VRと言っても、痛いやろうなぁ。やられるとなったら。
こんな場所でやられるのは痛いやろうなぁ。で、街におる奴にもっかい捕まったら……」
「なんて卑怯な……」
あまり刺激するな、と手をツバキの顔の前に出す。
「お前の目的は……やっぱりディアナか」
「当たり前じゃ。ワシらをこんな目に遭わした奴らを許すと思うか?
結果的にワシらは、ギルド資金と前回のイベント記録没収じゃ。
そんなもん、恨みを晴らさでおくべきかってやっちゃ」
「……」
なんだ……この違和感……?
「わかったんやったら、ディアナをはよ連れてこんかい。どんな方法を使ってでもな。
さもないと……こいつもせやけど、あとの二人がどうなっても知らんぞ?」
「タイガ」「タイガさん……」
2人とも不安そうな顔をする……
「もっとも、お前らに出来ればの話やけどな。ディアナを呼び出すことなんざ出来るわけ」
「わかった」
・ ・ ・ ・ ・
「……マジでか」
「?」
その小声を、ポラリスは聞き逃していないようだった。
「ディアナの身柄を、お前に引き渡す。……それでいいんだな?」
「あ、あ、あぁ……出来るもんならな!」
「でも、タイガさん……」
まだ不安そうなツバキに対して……
「あいつの事は任せろ」
俺はそれだけ言った。
そして今に至る。
「でも、どうしてここに……」
「……」
その瞬間、俺はフラっと倒れそうになった。
「ちょっタイガさん!?」
「あ、あの~……出来れば、お水もらえます……?」
「わ、わかりました!わかりましたからしっかり!」
あ~、やっぱりバスで来ればよかったな。
ディアナの言葉を借りれば、今は『テンサゲ』だろう……
という事でディアナ長編、月の輝き編スタートです。
「ディアナ」の名前の由来は、2話ほど後に。




