恐怖とは、目に見えない魔物である。
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管理室に向かうと、すでに騒ぎを聞きつけていたのか……
4人の管理者が集まっていた。
「さて、話は聞いているよ。キミ、自分が何をしたのかわかっているかね?」
「……」
何も話さないクロウ。
「クロウさん……」
「無言という事はぁ、罪を認めるって事でいいですかぁ?」
「……」
うつむいたまま、何も話さない。
と、そこへ……
「……」「……」
「!?」
カインとシルビアも来ていた。
「カインさん、シルビアさん……!?どうしてここに」
「呼ばれてきたんや、サファイアに」
「わたくしは、坊ちゃまが向かう場所についてくるのみです」
その背後には、多くの『黒き悪魔たち』の姿も。
「ど、どうして……?」
「……それを聞きたいのはワシや」
クロウに接近し、両肩を掴む。
「お前、なんちゅう事をしてくれてんねや。
人の善意に漬け込んで、そんなけったいな真似するとか……
お前仮にも、ギルドのメンバーやないか!
同じギルドのメンバーの奴らにまで迷惑かけてどないすんねや!」
「か、カインさん……僕の話も」
「お言葉ですが、クロウさん。{犯罪者}の言葉をお聞きになるほど……
坊ちゃまは聡明ではありません故」
シルビアが念押しすると……
「そうだそうだ!ふざけるな!」
「お前のせいだぞ!お前の!」
「俺たちの事どうなってもいいのかよ!」
一斉に『黒き悪魔たち』のメンバーが騒ぎ出す。
声の洪水が、そのままこちらにまで押し寄せる。
「静かにしろ!」
パールが一喝しても、その騒音はやまない。
「……」
不安になるエミリー。
……『犯罪者』。
人をだまして、諸共に倒そうとした。
確かにそれは悪い事ではある。
でも、犯罪……?
そんなに重い事なんだろうか?
確かに拉致されたのは事実……だけど……
……そう言った迷いが、あっという間に吹き飛ぶ事態になった。
「そもそもクロウ、今回が初めてじゃないだろ!」
「え?」
「お前、この間も{友人からそこに強いアイテムがあるって聞いた}って言って、
雪山地帯の敵が強い洞窟に俺たちを連れて行かせて、ボコボコにさせやがって!」
……ディアナの時と、同じ手口だ。
「そうだそうだ!俺もそうだぞ!」
そこにいるギルドメンバーが、続々と言葉を発してくる。
クロウのせいで、クロウのせいで、クロウのせいで、クロウのせいで、
クロウのせいで、クロウのせいで、クロウのせいで、クロウのせいで、
口々に言う言葉に、ディアナは戦慄した。
このギルドメンバーほぼ全員が、クロウに騙され何らかの被害を受けている……?
「……お前、ホンマか?」
「……」
「一応聞いといたるわ。お前、ホンマにこいつらを騙したんか?」
するとクロウは……
「どうせ、何を言っても信じてもらえないんです。この後の処遇は、すべて受けます」
「……」
じっとクロウを見るカイン。
「……ふん」
そしてエミリーの元へ向かって……
「帰るぞエミリー」
「えっ……でも……」
「ええから、帰るぞ。こんな奴の言い訳なんざ聞いてもしゃあないわ」
怒りで肩で風を切りながら、カインが歩いていく。
「……」
エミリーは、クロウを少し見た後……
「……」
物悲しそうな顔をしながら、去っていった。
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「で、その後、クロウへの処分なんだけど、とりあえず保留になったよ。
ま、他の人じゃなく、ギルドメンバーに対することだから……
処分も軽ーい奴になるかも知れないけどね」
ここまで活き活きと話すディアナだったが……
「……」
俺はその様子が、何だか哀れに見えた。
「でも、本当よかったわ~。{黒き悪魔たち}まで助けられ……
ん?どったの~?みんな、HMKみたいな顔して」
「まずHMKがどういう意味かわからねぇけど……」
「多分{鳩が豆鉄砲を食ったよう}だと思う」
ポラリス、たまにわかるんだよな……でもどうしてだろうか?
「……ディアナ、喜んでるとこ悪いけど……落ち着いて聞いてくれ」
「ん?」
俺は、クロウの、やり方にしてはあまりにお粗末すぎるやり方を、
クロウの行動の違和感と、
そして、偽クロウの存在を明かした。
「……」
信じられない様子のディアナ。
その証拠に……
「ないない!でもあれだけの人が一斉に言ってんだよ~?
IKDOだよIKDO。みんながみんな、クロウをはめてるなんて思えないし……
みんながみんな偽クロウに騙されてるってことになるよそれだと」
そう言われれば、確かにそうだが……
「と~に~か~く~、遅くなってごめんね。みんな、待たせちゃった」
「は、はい……」
何とも言えない微妙な雰囲気になってしまった。
それを律するように、リエータがパチンと一度手をたたく。
「まぁ、気になることは多々あるけどさ、今はひとまず忘れよう?
とりあえず、スキルのかけらの話からね」
「え?スキルのかけら?何何~?」
再び和気あいあいとした雰囲気になるギルドホームの中。
「……」
……なんだ、なんだ?
この胸騒ぎというか、なんというか……
「ほら、タイガ君も!」
「え?」
リエータの言葉でびくりと肩が動く。
「聞いてなかったの~?じゃんけんで決めるよ!
このスキルのかけらの使用者!」
「……あ、あぁ」
じゃんけんか。なるほど。
それなら多少は公平性があるな。
……『あの人』以外は。
「とりあえずじゃんけんで一番数が少なかった人が脱落ってことで。
例えば、あたしだけがパー、それ以外の人たちがグーかチョキをだしたら、
あたしだけが脱落。いいかな?」
「わかりました」
「じゃあ、いくよ。じゃ~んけ~ん」
結果的に勝ったのは、ポラリスだった。
人の考えを読むのが得意なポラリスがいる時点で、俺たち詰んでるんだよな。
「つ、次もし見つけたら、ボクは遠慮するから……」
やめろ、ここで遠慮しないでくれ。
特に俺に。
最初に他3人がチョキとパーで分かれる中、1人だけグーを出して、
速攻で落ちた俺に。
昔からじゃんけん弱かったからなぁ。
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ログアウトし、2人で夕食。
「……」
「……」
珍しく、食事中にスマートフォンを使うナツキ。
「どうした?ナツキ」
「あ……うん。ちょっと気になったことがあって……」
「気になったこと?」
「ディアナちゃん……言ってたよね」
――ないない!でもあれだけの人が一斉に言ってんだよ~?
――IKDOだよIKDO。みんながみんな、クロウをはめてるなんて思えないし……
――みんながみんな偽クロウに騙されてるってことになるよそれだと
「……あぁ。やっぱりお前もそう思うか」
確かに、みんながみんな偽クロウに騙されているとは考えにくい。
……『考えにくい』が、『絶対にありえない』ことではない。
「じゃあ、なんであの時場を取り繕ったんだ?」
「多分、あの時のディアナちゃんには何を言っても無駄だと思うの。
あれほどうまくいったんだから、自分の行動に自信を持っちゃってる。
……それが、偽クロウの作戦だと知らずに」
あり得る。
人間にとって、1番の恐怖とは、積み上げられた幸せが、一気に崩壊することだ。
それを狙って、偽クロウは行動している……?
「で、何を調べてるんだ?」
「掲示板見てるんだ。今は特に変わりはないけど……
もしここに、きっかけが出来ちゃったら、また大変なことになるよ」
「……」
きっかけ……
前のツバキの事件の時もそうだ。
あの時のレックスの動画のように、何らかのきっかけが出来てしまったら……
……その、悪い予感は、
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【悲報】WOOさん、やらかす。
1 名無しの冒険者
昨日捕まったクロウって奴、結局濡れ衣だったらしいな
2 名無しの冒険者
kwsk
3 名無しの冒険者
クロウという人物を、偽の情報を漏洩させ混乱を招いた罪で捕縛
↓
クロウから供述を聞くことなく、処分保留のままアバターの身柄を拘束
↓
結果、クロウ、シロであることが発覚
↓
クロウの所属していた『黒き悪魔たち』のギルドに
何らかの処分を下した後で釈放したため、批判殺到
4 名無しの冒険者
おいおいやらかしたな運営
前の例のギルドの時といい、やっぱり無能じゃねぇか
・・・
8 名無しの冒険者
いや、一番無能なのは……
クロウをはめようとしたディアナとエミリーって奴じゃね?
9 名無しの冒険者
どーゆーこと?
10 名無しの冒険者
本当ははめられたほうはクロウなのに、あの二人で
協力してクロウをはめようとしたんだよ
そこにもう1人タイガもいたんだけど、タイガは
エミリーについてきただけだから、一歩間違えれば
あいつもはめられてたかも知れん
・・・
103 名無しの冒険者
で、どうしたよあの二人
104 名無しの冒険者
さぁ?アーチャー氏?
ディアナどうしてる~?
105 名も無きアーチャー
そんなこと言えるわけないでしょ
そもそもディアナがはめようとしてたって証拠はないよ
・・・
111 名無しの冒険者
は?アーチャー氏ディアナをかばうんかい
112 名も無きアーチャー
少し頭を冷やして考えればわかるはずだよ
まぁ、何言っても無駄そうだけどさ
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……翌日、最悪の形で現実となった。
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「……」
そしてディアナの……上弦のスマホには……
TO:ディアナ(DianaTaiken)
Subject:
お前に味方なんていないんだよ
わかったか?
わかったならもうこのゲームに現れるな
目障りだ
……送り主は、クロウのアドレスだ……
「……」
彼女の腕は、ぶるぶると震えていた。
まるで、かつての、気弱だった自分のように。
偽クロウの正体とは、
そして、偽クロウの目的とは?
次回から長編に入ります。




