プロテクトとは何か?俺たちに課せられたマナーそのものさ。
しばらく手持ち無沙汰な状態でギルドホームで待っていると……
「あれ、タイガ?戻ってたんだ」
まずポラリス。
「戻りました」
「結構……広かった……ですね……」
「大丈夫か……?エル……」
海洋地帯に行っていた3人も戻ってきた。
エルが肩で息をしている。相当過酷だったのだろうか……
「……」
「ん?どうしました?タイガさん」
「ツバキ……その……」
ツバキは未だに水着の姿だった。てかスタイルいいなおい。
じゃ、なくて……
「き、着替えろ!恥ずかしくないのか!?」
「あ……ごめんなさい!」
ツバキは大急ぎで2階に上がっていった。
「覗いちゃダメですからね~~~!」
と、大声を残して。
いや、気にはなるが覗かない。
「ま、女の子1人じゃ不安だし、あたしも行ってくるね」
リエータも2階への階段に足を乗せる。
「特にタイガ君は、何だかむっつりそうだし」
「な、ば、バカ野郎!」
俺は顔を真っ赤にして否定。
くそ……にやっとしてる顔が時に腹立たしい……
「ということはツバキさん……水着装備のままダンジョン攻略してたんですね……」
「わ、わたしには真似できません……」
世にいう英華の墓はどんなダンジョンだったのか、気になるところではある。
……前に。
「いや、気付かなかったのか二人とも!?」
「「はい。まったく」」
どんだけ鈍感なんだ……?
「ところで、タイガ、ディアナがいないんだけど……」
「あぁ、それはツバキの着替えが終わったら話すよ。
ちょっと厄介なことになってきてな……」
「厄介なこと……?」
ツバキの着替えが終わり、1階に全員が集まった。
いや、全員……ではない。ディアナがいないわけだが。
「とりあえずタイガ、さっきの話の続きをお願い」
「あぁ」
……俺は今日起こったことを事細やかに話した。
廃城地帯に、ディアナと一緒に向かった後の話。
『黒き悪魔たち』のエミリーに会い、共にディアナを探したこと。
エミリーとディアナが、クロウにはめられかけたこと。
そして……ディアナとエミリーがクロウとは別の『クロウ』に、
まんまとはめられてしまっている、という事。
「……」
考えるアレン。
「今の話を聞くだけだと、{黒き悪魔たち}のクロウ以外に、
クロウがいる、だなんて思えないんですが……」
「多分、一番は、オーバーソウル戦でもないのにクロウが逃げなかったことだよね。
自爆することを本当にわかってるなら、逃げていたはずだし」
こくりとうなずく。
「それに、もしあたしがクロウなら、メールを使うなんてことはしないよ。
だって、メールだってバレる時はバレるしね。端末を別の誰かに見られた時とか」
「それに、シルバーが言ってた言葉もそうだ」
・
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・
「名前の変更?リエータ、キミは名前を変えたいんだね?」
「あ~、いや、そうじゃなくて、名前の変更自体が出来るのかどうか。
それを聞きたいだけです」
「名前の変更はギルド名の変更と同じく、全プレイヤーが1度だけ出来るよッ!
なぜか最近、名前の変更依頼が結構多くてね。今名前を変更するとなると、
結構な日を要してしまうけどねッ!」
最近変更依頼が多い?
「もうひとつ聞きたいことがあるんですけど」
今度は俺が聞く。
「おぉ~!タイガじゃないかッ!どうしたんだね?」
「この連絡用の端末って、プロテクトとかはかからないんですか?」
「プロテクト?」
「例えば、顔認証とか、指紋認証とか」
シルバーは少し考えた後……
「実はつけようとも思ったんじゃが、それだと正規ユーザーの迷惑になりそうでね。
特にフレンドワープ、ホームワープ、これらのスキル。
そしてログアウト、すぐ使えなくなるのは中々不便になりそうだと思って」
「じゃあ極端な話なんですけど、別の誰かがその人の端末を入手してしまったら……」
「あぁ、それは大丈夫。スキルや装備は、その人に置き換わることになっておるからねッ
スキルのすり替えや装備のすり替えは出来ないようになっておるよ?」
なるほど。
「ありがとうございました!」
リエータはお礼を言うと、通信を切断した。
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・
「……つまり、どういうことですか?」
「簡単な話だ。本物のクロウが{何らかの方法で端末を奪われて}……
偽物のクロウが、その端末からメールなどを送信してる。
そしてその偽クロウの発言を信じてしまったディアナとエミリーは、
何の罪もないクロウを貶めてしまったんだよ。
そう……偽クロウが今、高笑いをしている中でな」
ギルドホームの中に、戦慄が走った。
大胆ながらも、恐ろしい犯行だ。
仲間意識に漬け込んだ、恐ろしい犯行だ。
「な、なら、すぐにディアナさんに話さないと……!」
「それも考えたんだ、エル。でも……」
――どういうことだよ。無理って
――それが『黒き悪魔たち』を名乗る人たちが、一斉にやってきて……
カイっちゃんやビアっちゃんも来て、もう今管理室はパニック状態だよ……
とりあえず、全部終わったら話すから、ギルドホームで待ってて
俺のメールのやり取りを見せると、納得した様子。
「じゃあ、ディアナが戻るまで、何もわからないってことだね。
先に色々済ませちゃおうか」
「そうだな。探索の結果とかも聞きたいし」
まずリエータが話し始めた。
「火山地帯は、洞窟が無数にあったよ。どの洞窟も出てくる敵が結構強くて……
でも、素材は結構集まったよ。ほら」
大量の素材を提示した。
【ロックザウルスの牙】×5【ロックザウルスの尻尾】×2
【マグマオックスの皮】×3【マグマオックスの角】×1
【ボルケーノヒッポの皮】×4【ボルケーノヒッポの舌】×2
【マグマギガスの巨腕】×1
【鳴動する炎鉱石】×12【煌めく炎石】×4
「こ、これ、全部二人で集めたのか……!?」
「まぁね。ボクも新しく覚えたアーマーピアサーが使いやすくてよかった。
……でも、リエータ、二度とマグマギガス相手なんてダメだからね」
「えへへ、ごめんポラリス君」
……マグマギガス……ギガスとは巨人って意味だ。
――デカいだけの敵かと思ったらレベル88とか出て「は!?」ってなったわ
……え、まさか。
「お前、レベル88の奴と戦ったのか!?」
「あ~、そんな奴もいたね。でもあたしが戦ったマグマギガスはレベル72だったよ」
『レベル72だったよ』とか、笑顔で言えるようなレベル差じゃない!
「そのマグマギガスのおかげで、リエータが不屈の闘志使っちゃったから戻ってきたんだよね」
「だ、だからごめん……もう無茶しないから」
あ、絶対するわこれ。
反射的にそう思った俺だった。
「次に海洋地帯の状況を教えてくれ。確かダンジョンを見つけたって言ってたよな」
「はい。そのダンジョンの中は結構広くて、歩くだけで疲れそうでした。
登場する敵も結構強くて、特にレベル60の冥府武者という敵が強かったですね」
「た、たまたま1体しかいなかったから何とか倒せましたけど……
ツバキさんがいなかったら、きっとわたしの頭と体は泣き別れです……」
何気に怖いこと言うな……
「ダンジョンの中は無数の部屋に分かれていました。
そこの中にも敵がいて、戦闘回数がかさんで大変でしたね」
「エーテル結晶があってよかったです。闇属性を使う敵も多かったので、
ダメージを受けたら大変でしたけど……
でも、水中での戦闘以外なら、特に困ることはありませんでした。
そして全部の部屋を回り切ったのですが、オーバーソウルはいませんでしたね。
……代わり……と言ってはなんですが」
ツバキはあるアイテムを取り出した。
二つとも、まったく同じ説明文だ。
????
【使用用途不明。何かにはめられそうな素材。売ったり捨てることは出来ない】
「これって……!?」
「タイガさんのあの時と同じ、多分超覚醒素材だと思います……」
「船底の当たりにいる、{オクタクルス}という敵を倒して入手しました。
レベルは60とやや高かったんですが……」
『高かったんですが』その時点で、大体誰がどうしたかがわかった。
全員のレベルを確認すると、
タイガ:レベル40(10/15)
ポラリス:レベル45(12/15)
リエータ:レベル54(14/15)
エル:レベル34(6/15)
アレン:レベル36(7/15)
ツバキ:レベル36(7/15)
ディアナ:レベル40(10/15)
エルが少し遅れてしまっているが、誤差の範囲内だ。
リエータがレベル54で職業レベルが14。あと1あがればマスターできるだろう。
俺もいつの間にか、レベルが40になっている。
ダークナイトのレベルが10になりました
スキル【デッドエンド】を取得しました
デッドエンド 闇 SP:50
【ダークナイト専用スキル。相手を闇に捕らえ、爆発させ大ダメージを与える。
威力はすさまじく高いが、捕えることに失敗すると、
爆発を使用者が受けてしまう。クールタイム:2分】
久々の純粋な闇スキルだ。
しかも威力がすさまじく高い。ときた。
これはなかなかに面白そうなスキル。
問題は何を外すかだが……消去法でデストレイルか。
そして能力値も振る。
タイガ レベル40
得意武器:長剣 得意属性:闇 サブ属性:水
職業:ダークナイト(10/15)
HP:280+50
SP:255+50
腕力:50+30(+20) 知力:80+20 器用さ:40+30(+10)
素早さ:51 体力:28+30(+20) 精神:10+30(+10)
武器:邪剣アジ・ダハーカ【腕力器用さ+20】
サブ武器1:シェルスピア(槍)
サブ武器2:飛刃オーキュペテー
防具:魔鎧テュポーン(超覚醒済)【体力と精神+20 SP+50 世界竜の逆鱗】
盾:クリスタルの盾
アクセサリ1:砂塵のお守り【知力+10目潰し無効】
アクセサリ2:なし
ギルドスキル【神竜の逆鱗】【神竜の破天角】
……そう言えば、俺のアクセサリがひとつ装備できていない。
装備するとしたら、腕力やHPを上げる物がいいか。
「あ、そうそう。さっき火山地帯でこれも見つけたんだけど」
ポラリスが何かを取り出した。
「スキルのかけらって奴なんだけど、スキル屋に持っていったら、
これを使うことで誰かのスキル枠をひとつ開けられるんだって」
「なるほどな、でも誰に使うんだ?」
「それが問題なんだよね……ボクはタイガでいいと思うんだけど」
黙って首を横に振る。
「見つけたのはそっちだから、ポラリスかリエータが使えばいいだろ?」
「相変わらず自分以外が第一なんだね、タイガ君」
「独りよがりなリーダーなんて嫌だからな」
「じゃあこれも、ディアナちゃんが帰ってからね」
それからさらに30分後……
「あっ!」
ディアナが帰ってきた。
「お帰り、ディアナ」
ポラリスが迎えるが……
「……」
ディアナは、何もしゃべらない。
「何かあったのか……?」
「……タイちゃん」
「ん?」
「やったよ~!ウチ!」
ディアナは、ものすごく晴れやかな笑みを浮かべていた。
「クロウ、{黒き悪魔たち}のみんなもどうやら辟易してたみたいでさ、
告発出来たことで、{黒き悪魔たち}も助けられたみたいだし、本当によかったよ!
で、その時にあった話……」
笑顔のまま報告するディアナ。
「……」
その笑顔が……何だか俺たちにはむなしく見えた。
「なぁ、ディアナ。とりあえず報告してくれ。
そこで何があったかって言うのを」
「うん!」
屈託のない笑みで語りだしたディアナ。
その笑みが曇るまで、それほど時間はかからないだろう。
そう思いながら、俺もとりあえず話を聞くことにした。
全員が気付いている中で、語りだすディアナ。
彼女の……そしてクロウの身に何が起きたのか?




