霧の中で、事件は起きる。サスペンスでなくても。
ピロリン!
深い霧の中、ギルドメッセージが届いたことを告げる音。
ツバキ(Tsubaki0802):英華の墓というダンジョンを見つけました
このまま攻略しますが、もしオーバーソウルがいたら
引き返した方がいいですか?
「ツバキからか」
俺は端末を操作する。
タイガ(Tiger):そっちに任せる。
もしセーフティーエリアが一か所もないなら、
一度戻って素材だけ置いてからオーバーソウルに挑んでくれ
ツバキ(Tsubaki0802):わかりました
アレン(Allen0327):結構広そうなダンジョンなので、
帰還が遅れるかも知れません
リエータ(Natsumatsuri):こっちもダンジョンを見つけたよ!
4人まで挑めるらしいから、ここは挑まずにおいておくね
4人まで挑めるってことは、難易度が高いってことだし
タイガ(Tiger):あぁ、頼む。ところで……
誰かディアナと連絡取れるか?
ポラリス(Hokkyokusei):ディアナが、どうかしたの?
タイガ(Tiger):それが、ついさっきの事なんだが……
・
・
・
時は、少し遡る。
「{パラライズソード}!」
黒い霧を纏った長剣で両断。
「ギギイィ~~~!」
それに対し剣を振り下ろしてくる赤い骸骨の剣士、ブラッドボーン。
しかし体が痺れているので攻撃を読むのはたやすい。
「{サンダーボルト}!」
一方ディアナは、カボチャのような敵と戦っている。
そのカボチャのような敵は魔法を構える。あの魔法は……
「{プロミネンス}だね。{パワーシールド}!」
落ち着いて防ぐ。
「{秘剣・オオイカズチ}!」
そしてカボチャを切り裂く。
「{ソニックブレード}!」
直後にソニックブレードで、横並びになっていた2体を一閃。
2体とも消滅した。
それほどHPは多くないようだ。
Get!【ブラッドボーンの盾欠片】
Get!【ホロウカボチャのヘタ】
素材的にも、なかなか潤ってきたが……行けども行けども霧だらけ。
その割には敵のエンカウント率が高く、来た方向もわからなくなってしまった。
「ん~、やばたんピーナッツ」
「どういう意味だよそれ……まぁ確かにまずいな」
回復アイテムが少なくなってきた。
このまま抜けたところで、進行ルート上なら帰還できずどうしようもない。
いっそフレンドワープやホームワープでどこかに……と思ったが、
ダンジョンと同じ扱いらしく、それも使えない。
さらに敵が現れる。
【デスレイヴン レベル38】
【ダークワーム レベル45】
【ウィザード レベル35】
このエリアの特徴として、複数体出てくることが多い。
ダークワームはレベルが高いが、1体のみ。
ウィザードはひたすら魔法で攻撃してくる。
魔法に弱い俺にはやや面倒な相手だ。
だが、ダークワーム以外はどの敵もHPが低いので、短期決戦を仕掛けられる。
しかしこれほどまでに戦闘が続くと……
「ぜぇっ……ぜぇっ……」
「タイちゃん……やっぱ体力ない……」
とりあえず休める場所に行きたい。そう思っていた時だった。
ピロリン!
何かの通知……?だが、俺には何も来ていない。
「……」
ディアナだ。ディアナは端末を見た後……
「……!?」
目を見開く。
「どうした、ディアナ」
「!?」
するとディアナは、俺から背を向けると、
「お、おい!?」
俺を置いて、どこかへ駆け出した。
・
・
・
ポラリス(Hokkyokusei):とにかく、ディアナを探さないと
タイガ1人じゃさすがにまずそうだ
エル(Eryuryuryu):ダメです。
メールを送っても反応がないです……
アレン(Allen0327):同じく、こちらも何も届けられません
ツバキ(Tsubaki0802):心配ですね……どうします?
私たちもそちらに行きましょうか?
「……」
本当は藁にもすがりたい気分だった。
だが……
――勝負にならないからです。タイガさんの実力では、きっと……
「……」
タイガ(Tiger):大丈夫だ。お前たちは自分のとこの探索を頼む
ツバキ(Tsubaki0802):わかりました。
厳しくなったらいつでも呼んでください
出来る限り早めに向かうんで
タイガ(Tiger):わかった。悪いないつも
「さて……ディアナ~!どこにいるんだ~!?」
声を上げるが、当然返事はない。
「……」
敵の気配が強くなってくる。
いよいよまずいところだ。
俺は何か情報がないか、端末を確認して……
「……?」
違和感。
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714 名無しの冒険者
廃城地帯の敵強すぎやろ……これ開発者テストプレイしたんか?
敵のレベル一番低くて55とか初心者置いてけぼりやで
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……違う。
今まで戦闘してきたが……レベル55の敵など1体も出てきていない。
1番低くて55と書いてあるが、1番高くてもダークワームの45だ。
どういうことだ?
……いや、考えた結果、導き出された結果はひとつ。
ディアナは、この書き込みを信じて……
俺をはめようとして、ここに連れてくるよう仕向けた。
だが、俺をはめてどうなる?
俺をはめて何になる?
考えられるのは、俺をはめて、奥の手である『世界竜の逆鱗』を使わせること。
それを使わせることによって、今後のイベントで俺がその奥の手を使っても、
ある程度は対応できるようにする。
……考えすぎか?
となるとディアナは……敵?
……それはない。と、きっぱり否定できる。
もしディアナが敵なら、第三回イベントや、その前に、
俺に協力する意味がないからだ。
「……」
とにかくディアナを探さなければ。そう思っていた時だった。
「!?」
そこに倒れている女性を発見。
ロングコートを着た、黒い髪を後ろでまとめている少女。
……確か名前は、エミリーだ。
駆け寄る。近くにホロウカボチャもいたが……
「{シャドウレーザー}!」
シャドウレーザーで1撃。
……1撃。多分多少HPが減っていたのだろう。
「……おい、しっかりしろ!」
「ん……うぅ……」
目を覚ますエミリー。しかしその視点はまだ、どこかうつろになっている。
「どうした?何があったんだ?」
「……あ、あれ?ここは……」
すると……
「!?」
俺に抱きかかえられたエミリーは、いきなり顔を真っ赤にし……
「触んないでよ~!」
ドガッ
「ごめんなさい……本っ当……ごめんなさい」
「いいってことよ」
殴られた右の頬を気にしながら、エミリーに話をする。
「こんなところで何やってたんだ?えっと……確か……
リエータの友人のエミリー」
「……」
すると、エミリーは……
「!?」
なんと、大粒の涙を流し始めた。
「ど、どうした!?やっぱ抱きかかえるのはやばかったか!?」
「……ち、違うんです……!リエータとギルドメンバーの人以外に、
初めてあたしの名前覚えられたから……!」
「……えぇ……それでそこまで泣く……?」
とは言ってはいけない気がしたから、ぐっと喉の奥に追いやった。
「あ~、わからないけどわかった。で、お前はなんでここに?」
「ええっと……」
と、その時……
「ウオオオォォォ!」
【ワーウルフ レベル42】
「と、今は話してる暇はなさそうだ……戦えるか?」
「は、はい!」
俺は静かに武器を構える。
「ワオォ~~~!」
しかしスキルを使うよりも先に、ワーウルフが跳びかかる。
「{慈愛の光盾}!」
両手を突き出すエミリー。俺はまともにワーウルフに引き裂かれるが……
「……?」
ダメージを受けた分の4分の3ほどが、回復している。
「{贖罪の一閃}!」
カウンターのように長剣を振りぬき、ワーウルフを吹っ飛ばす。
「大丈夫ですか!?タイガさん!」
「お、おぉ、悪い……{ダーククラック}!」
地面から無数の手が生え、ワーウルフを拘束する。
「{ソニックブレード}!」
そして衝撃波。ワーウルフは消滅した。
「助かったよ。エミリー。やっぱりリエータの友達なだけあって、お前も強いんだな」
「……」
――助かったよ。エミリー。エミリー……エミリー(やまびこ
「……」
何故か顔を真っ赤にする。
あれ~?やっぱ『黒き悪魔たち』って面倒な人しかいないんですか~?
改めてステータスを見てみる。
エミリー レベル55
得意武器:大剣 得意属性:光 サブ属性:雷
職業:グラディエーター(15/15)
HP:400+50
SP:305
腕力:21+60(+20) 知力:51+10(+10) 器用さ:21+40
素早さ:11+10 体力:121+40(+30) 精神:101+10(+20)
武器:魔剣ディオメデス(超覚醒済)
【赤き魔獣を退けた証の、戦いの神の名を冠した大剣。
腕力と体力が30あがり、超覚醒により素早さが30上がり、
超覚醒スキル『鏖殺の覇気』を発動可能】
サブ武器:首刈りの剣
【首を刈ることに特化したという変わった形状の長剣。
威力は低いが、攻撃時、たまに相手を即死させる】
防具:バトルコート
【戦いを好むものが、戦闘用に作り出したとされるロングコート。
腕力が20上がり、相手の攻撃で怯みにくくなる。
ただし弱点を突かれると、確率でスタンする】
腕:なし
アクセサリ1:虹サンゴの指輪
【サンゴの中でも特に希少な、虹色に煌めくサンゴで作られた指輪。
受けるダメージを10%減らし、たまに20%減らす】
アクセサリ2:知恵の輪
【かつて伝説の軍師が、愛する人に手渡したとされる最古のパズル。
器用さが30上がる】
ギルドスキル【神竜の逆鱗】【神竜の破天角】
グラディエーター
【大剣と光得意。サブ武器として、長剣を装備できる上級職。
味方の身を守る攻撃や、カウンタースキルを覚える】
はっきり言おう。硬い。
それに、素早さが低い以外は無駄のないステータス。
トッププレイヤーの親友はトッププレイヤー、という事だろうか。
「……って、悪い。ステータス見ちまった」
「も~。リエータが言ってたとおりですね。
まぁ、スキルを見られなかったら構いませんけど……」
と、今はそんな話をしている場合ではない。
「お前はなんでここに来たんだ?」
「あ、さっき話の途中でしたもんね。あたしはここに、調査に来たんです。
でも、その途中ではぐれちゃって……
……そう言えば、はぐれる前、急に眠くなったんですよね。
眠らないように、何とか我慢したんですけど……」
……急に、眠くなった……?
「誰と一緒にここに来たか、教えてくれるか!?」
俺はその言葉を聞いて、あることを確信した。
「えっ?えっと……」
「クロウさんと一緒だったんです」
慈愛の光盾 光 消費SP:50
【グラディエーター専用スキル。癒しの盾を生み出し、
ダメージを減らしつつ、受けたダメージを耐えられればある程度回復させる。
自身には使用不可能。クールタイム:2分】
贖罪の一閃 大剣(光) 消費SP:35
【グラディエーター専用スキル。自身もしくは味方が受けたダメージを上乗せし、
相手に強力に反撃する。広範囲による攻撃で複数人がダメージを受けた場合、
そのダメージの平均値を上乗せする。クールタイム:2分】
メイン盾、エミリー。
彼女がここに取り残された理由とは……?




