強いからやばいのか、やばいから強いのか。おそらく両方。
「ポラリス!」
俺がポラリスに駆け寄ると……
「う……ぼ、ボクは、大丈夫……!」
ポラリスのHPは、30を下回っていた。
「1撃で……!」
エキドナを見上げると、どす黒い血のような色をした蛇のような、竜のような見た目で、
顔の部分は骸骨のような、ゾンビのような、醜い見た目をしていた。
「タイガ……キミだけでも逃げて……ウェアウルフの皮、入手したんでしょ……?」
「バカ言うな!そんなことできるわけ……」
「ギガアアアアアア!」
そこへエキドナが突進。
「ぐっ……{ホーリーシールド}!」
光の盾が受け止め、衝撃波を受け流す。
「グアアアアア!」
「くっダメか……レベル2でも、反射ダメージ自体が少ない……!
突進は無属性攻撃だから、発動自体はするみたいだけど……うぐっ」
右脇腹を抑えるポラリス。
「大丈夫か……!?」
「へ、平気……{サンライトキュア}!」
まばゆい光に包まれ、ポラリスのHPが回復する。
サンライトキュア 光 消費SP:18
【暖かな光で、HPを大きく回復する。クールタイム:1分】
「はぁ……はぁ……」
光魔法は高燃費。このまま受け続けていては、こちらの不利は火を見るよりも明らかだ。
「いったん逃げるぞ!{ダーク……」
「ダメ!」
「!?」
「エキドナは闇得意のモンスター。ダークフォッグは効果がないよ。
それにこれはおそらくオーバーソウルモンスター。強制戦闘と同じ扱いなはずだ。
そして……キミはボクに駆け寄ったから、もう戦闘に入ったのみなされて逃げられない」
~サファイア先生の ワールドオーダーオンライン講座~
このゲームには、幻と呼ばれる{オーバーソウルモンスター}と言う敵が存在します。
とにかく、めちゃくちゃ強いです!
また、このモンスターは強制戦闘と同じ扱いなので逃亡は出来ません。
もちろん倒すとそれなりの見返りはありますが……
生半可な実力では傷をつけることですらかなわないので、戦闘するかどうかは慎重に。
でも……登場しそうなときにはアナウンスが流れるはずなんですが……?
―――――――――――――――――――――――――――
「……」
逃げられないなら、やるしかない。
だが……勝てる見込みなどない。
「キシャアアアアアアアア!!」
「……!{アローストライ……」
しかしそれよりも速く、エキドナが突っ込んできた。
「うわっ!」
「ポラリス!」
突進をまともに食らってしまったポラリスは、ピンポン玉のように3度ほど跳ね、
……ようやく止まった。
「ぐっ効くわけねぇが……{シャドウガン}!」
撃つが、当然の如く無効化。
「だ、ダメだ……タイガ……!オーバーソウルは得意属性は無効化されるよ……!」
「やっぱりか……!てことは……{ダーククラック}!」
「グギアアアアアアアアア!!」
……こちらも当然効かない。
まるで「もっと打ち込んでみろ」と挑発するかのように、頭を高くして咆哮するエキドナ。
「くそっ!{スラッシュ}!」
当然、初期装備のスラッシュだ。
効き目など、あるはずがない。
「グギイ……」
失望したかのような鳴き声をあげ、エキドナは、
「!?」
ポラリスに向き直る。
「まずい……ポラリス!」
「ぐっ……{ホーリーシールド}!」
しかし、クールタイムは2分だったはずだ。
「……!」
当然、唱えることは出来ない。
すでに勝ちを確信したように、じりじりとポラリスににじりよる。
「{アロー……ストライク}!」
弓を放つが、この巨体だ。
「{スターゲイザー}!」
光が満ちるが、ダメージは、ほとんど入らない。
「ぐうう……!」
すでに意識を保つのがやっとなほどの傷を負っている。
その上、闇雲にスキルを使ってしまったため、SPも枯渇し始めている。
「……」
考えろ。
どうやってポラリスを助け出す……!?
「!?」
俺は道具入れの中に、あるものを見つけた。
それは{クモの巣}だった。
「……」
一か八か。俺は剣を納刀し……
「焦るな、俺……!」
クモの巣の片方を、その剣に巻き付け、もう片方のクモの巣で右手と剣を繋ぐ。
「ポラ……リス!」
「!?」
そしてそれを渾身の力を込めて伸ばした。
「鞘の部分をつかめ!」
「わかった!」
「グギャアアアアア!」
エキドナがかみ砕こうと、口を大きく開ける。
「{グラビティダウン}!」
瞬間、ポラリスの体が浮いて…
「う、うわぁ!」
直後にエキドナが、地面をかみ砕いた。
間一髪で、ポラリスを引き寄せることができた。
グラビティダウンは手に触れているものの重力を軽くできる。
つまり、手にしたものと、引き寄せられるものを一直線に繋げることで……
広範囲に影響を与えられる。
「大丈夫か!?」
「う、うん……ありがとう」
「ギガアアアアアア!!」
しかし、状況が好転したわけではない。
「残りのSPは?」
「30……ホーリーシールドはあと1度しか使えないよ……!」
「くそっ……どうすりゃいいんだ……!」
「グオオオアアアアア!」
すると、エキドナは力を溜め始めた。
「{瘴気ブレス}……!?闇属性の技だ!」
ホーリーシールドは闇属性は反射不可能だ。
つまりほぼ、詰みの状態だ。
……詰み?冗談じゃない。
俺のために迷惑をかけたポラリスに、何の恩返しも出来ないまま負けるのか?
ゲームオーバーは死ぬわけではない。でもそれでいいのか?
結局、予期しなかった事態とはいえ、俺は世話になった人に……
何も出来ないまま、俺はその人が黙ってやられるのを待つ……
いや、勝てない相手でも、それは絶対に拒む。
「何やってるのタイガ!」
「何って……お前を守るんだよ!」
正直、スキルも何もないのに、ポラリスの前に立つことに意味はない。
でも、何もせずにポラリスがやられることよりはマシだ。
「やるなら……俺からやれ!クソ蛇野郎!」
「グギアアアアアアアアア!」
そして瘴気ブレスを、口の中から放出して…
……ピコン!
チュド~~~ン!!
砂煙が晴れていく。
「た、タイガ……タイガ!」
ポラリスの叫びがこだまする。
エキドナは、「俺」を倒したと思い込み、ポラリスに視線を向ける。
「う……!{ホーリー……」
ピンポーン!
「!?」
メールの音だ。
TO:タイガ(Tiger)
Subject:
合図したらホーリーシールド頼む
「……!?」
そしてエキドナは大きく首をあげた。
それを見た俺は、左手の人差し指を立てた。
「{ホーリーシールド}!」
同時にポラリスのすぐ横に並んだ俺は……
「ギガアアアアアア!」
ポラリスと横に密着することで、二人分の反射ダメージをたたき出した。
2倍の衝撃が、エキドナに襲いかかる。
「悪いな。命令してばかりでよ」
「べ、別に構わないけど……でも、なんで?」
「なんで……まぁ、順を追って説明する時間はなさそうだ」
・
・
・
……ピコン!
「!?」
瘴気ブレスが命中する前、俺はあるスキルを覚えていた。
闇属性の加護 自動スキル
【闇属性による致命的なダメージを受けた際、1日1度だけ、HP1のまま踏みとどまる。
自分よりレベルが20以上離れた闇属性得意相手と戦闘で取得。
他の加護スキルと併用不可、また光属性得意の場合取得できない】
「なっこれ……!」
こんなタイミングで入手。運がいいのか悪いのか。
だが……これは試してみるしかない。
「……!」
俺はなるべく、ポラリスへの軌道を阻むように両手を広げて立ちはだかった。
チュド~~~ン!!
……結論から言うと、本当にHP1で踏みとどまった。
だが……
「……」
軽く失神できるレベルで激痛。
「……」
本当は「痛い痛い」と暴れまわれるくらいには痛かった。
だが、ここで声をあげては、ポラリスの身も危うい。
そこで俺は、メールをポラリスに対して打った。
砂煙で醜いが、何とかメールを打ち、
「ギガアアアアアア!!」
エキドナが突進するタイミングで……
「{グラビティダウン}」
・
・
・
「で、今に至るってわけだ」
「ちょっと待って、グラビティダウンって、触れたものしか重力変化出来ないんでしょ?
でもどうやって……」
「簡単だ。縮こまって膝抱えてたら、俺自身に触れてるだろ?」
我ながら間違った使い方だと思う。
「……そ、そっか……」
しかし……
「グギアアアアアアアアア!!」
エキドナの体力はまだまだ多い。
しかも世にいう死んだふりを決めたせいか、怒り狂っているようだ……
「……」「……」
今度こそ終わりだろうか。
俺とポラリスは、あきらめに近いような顔を浮かべた。
「グオオオアアアアア!」
再び力を溜め始めたエキドナ。
……その時だ。
「{プロミネンス}!」
突然炎が落ち、エキドナの体の一部が焼けた。
「!?」
辺りを肉が焼けた匂いが支配する。
刹那、目の前に、何かが降ってくる。
「……う、嘘……でしょ?」
ポラリスが唖然としている。
「……」
焔色のツインテール。
右手に銀色の、薙刀に近い形状の槍。
そして体つきがよくわかる……世に言うビキニアーマー。
腰にひらひらとした、布のようなものを着けている。
「……」
「彼女」はこちらに少し一瞥した後、エキドナに向かって駆け出した。
「お、おい!?」
俺は止めようとするが……
「大丈夫……だよ。きっと」
「キシャアアアアアアアア!!」
尻尾を振り回すエキドナ。
しかし少女には、かすりもしていない。
「{スティンガー}!」
素早い動きでエキドナの腹を刺し貫く。
そしてその動きでわかる。
動きにまるで、無駄がないと。
「グアアアアア!!」
「!?ふっ!」
体を振り、突き刺さった槍ごと振り落とそうとするが、それすらかなわない。
少女は体を大きく振り、反動を利用して、槍を引き抜きざまに高く跳ぶ。
上空にいる少女に、瘴気ブレスを溜め始める。
「……メガネのキミと、ポラリス君!」
「え!?」
メガネのキミ……確認しなくても俺の事だ。
「同時に行くよ!攻撃して!」
「な、どういう……!?」
「いいからやってみよう!」
俺の長剣と、ポラリスの弓の攻撃が刺さる。
「グギィ!?」
直後に……
「{メテオドロップ}!」
赤い閃光が空から落ちてきた。
投げられた槍は、正確無比にエキドナの顔を刺し穿つ。
「ギオオオオ……!」
「はぁ〜!せいっ!」
トドメと言わんばかりに、エキドナに突き刺さった槍の柄を少女が蹴り込み……
シュ~~~ン……
エキドナは、跡形もなく消えていった。
地面に下りてくる少女。それと同時に、少女の得物も落ちてきて、
バシッと、言わんばかりに、少女はそれを手にした。
「……ふぅ」
息をつく少女。
「……イベント以来だね。ポラリス君」
「……う、うん」
まだ唖然としているポラリス。
「……?」
その様子が釈然としない俺は、彼女のステータスを見てみた。
リエータ レベル46
得意武器:槍 得意属性:炎
HP:260
SP:250
腕力:85+30 知力:55+30 器用さ:30+20 素早さ:55+30 体力:61 精神:34+20
武器:竜槍スヴァローグ
【幻の銀竜を討伐した証の槍。腕力が15、知力が15上がる。超覚醒可能】
防具:ベロボーグメイル
【伝説の神の力が宿ると言われる、露出度の高い鎧。
器用さが20、素早さが10上がる。超覚醒可能】
腕:(装備不可)
アクセサリ1:山紫水明の指輪
【覗き込むと美しい情景が浮かぶと言われる、神秘的な宝石を使った指輪。
腕力が15、知力が15上がる代わりに、睡眠に弱くなる】
アクセサリ2:星屑のパレオ
【白い星を集めたパレオ。素早さ、精神が20上がる】
「……リエータ?」
――でもリエータってやべー槍使いがいるからな
――確かビギニングイベント優勝してたんだよな
――あれしかもゲームやったことない初心者らしいぞ
……掲示板の書き込みを思い出した。
「まさか……あの!?」
「タイガがどう思ってるかわかんないけど、きっと{あの}だと思う」
俺はトッププレイヤーに生で出会えた幸運に、大いに感謝した。
――――――――――――――――――――――――――
プロミネンス 炎 消費SP:25
【炎属性の上級スキル。たまに相手を火だるま状態にし、
一定時間ダメージを与え続ける。クールタイム:50秒】
スティンガー 槍 消費SP:25
【槍の上級スキル。相手の防御をある程度無視して押し通る。クールタイム:50秒】
メテオドロップ 槍(炎)消費SP:40
【槍と炎の上級複合スキル。炎を纏った槍を投擲し、相手を穿つ。
攻撃力が非常に高いが、相当な素早さがないと当てられない。クールタイム:2分】
前回イベント1位のトッププレイヤー、リエータ登場。
しかしタイガは運が良すぎる気が自分でもしています。