勝敗を分けるのは、90%の実力と、10%の閃きである。
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援護班の飛行船内。
「ツバキと……リエータと……ディアナが……一撃で……!?」
「……!」
ゼウスのスキル、神の怒りにより、すさまじい火力が出る。
「これは……一体どうすれば……」
その時、飛行船内が激しく振動した。
「「「うわあっ!」」」
ピロリン!
【ゼウスの高揚度が 70%を超えました ゼウスの怒りに耐えるのは 限界が近いです
これ以上 攻撃班がやられてしまわないよう 援護を願います】
と、通達。
見ると、神の領域の上空が赤く染まっている。
しまった……鎮静剤を使っていなかった。
ゼウスの高揚度は、80%になっている。
つまり、鎮静剤を使っても、やられられるのはあと2回……
「……タイガさんは?タイガさんは無事なんですか?」
「……無事だ、おそらく冥府神の加護を……」
しかし、タイガのHPを見ると、大きく減少している。
「……?」
おかしい。
冥府神の加護はダメージ自体を無効化するはずだ。
なのにダメージは食らっている。のに無傷。
あれほど無傷だったあの3人はやられて、タイガだけは無事……?
「……!?」
ポラリスは、何かに気付いた。
「……ポラリスさん?」
「いや、多分……タイガも気付くはずだ」
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ゆっくりと目を開けると、ゼウスが降りてきた。
なんだ今のスキルは……?
『黒き悪魔たち』の時にも発動していたはずだが、これほど激しくなかったはず。
『鋼の心』のチャレンジは、その時移動中だったために何も見ていない。
俺の周りには、他のプレイヤーは誰もいない。
どうやらツバキも、リエータも、ディアナも消し飛んでしまったようだ。
では俺は……冥府神の加護か。そう思い、武器を構えなおす。
「……?」
……いや、違う。
俺からダメージエフェクトが出ている。
つまりダメージは……受けている。
だとするなら……
「……」
だがこのまま食らい続けるわけにもいかない。
俺はブーメランを投げ、ゼウスの顔に攻撃しようとした瞬間……
「がっ……!」
尻尾による1撃を受ける。
……やられた。
今度こそ、やられて……
……ない?
HPを見ると、先ほどのダメージは50程度。
そこへ……
「タイガ君!」「タイちゃん!」「タイガさん!」
3人が戻ってくる。
「大丈夫かみんな!」
「大丈夫!めちゃくちゃ痛かったけど!」
と、そこで疑問。
「……タイガさん、どうして無事だったんです……?」
「いやいや、冥府神の加護っしょ、安定の」
「いえ、冥府神の加護が発動した割にはダメージを受けてますし……」
「それはデストレイル使ったからっしょ?ゼウスの攻撃全部即死級の攻撃力って、
運営がTKB出してたし、発動してないのに耐えられるわけないもん」
その言葉に……
「!?」
俺ははっとした。
「……そういう……ことだったのか」
「へ?どゆこと?」
俺はブーメランを構えると、
「オラ!」
「きゃあ!」「ちょっ」「いだっ!」
3人に向かって投げつけた。
「オオオオオォォォ!!」
その直後に、ゼウスが光のブレスを吐き出してきた。
「!?」
目の前が白く染まっていく。目が焼かれ、視力が徐々に消えていく。
……そして元に戻ると……
「やっぱり……か……!」
「……あ、あれ?」
弱点である俺は瀕死になるダメージを受けるが……
ツバキ、リエータ、ディアナの3人はそれほどダメージを受けていない。
「ど、どういうこと?」
体中をキョロキョロ見渡すリエータだが、ダメージエフェクトが少し出る程度で、
ほとんど傷付いていない。
「……ピンと来たんだよ。ディアナの言葉で」
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一方その頃、噴水広場。
「な!?味方傷付けおったであいつ!?ヤケ起こしたんか!?
……ほら言わんこっちゃないやんけ!終わったな!
……えぇ~!?なんで生きとんの!?意味わからへん!」
「坊ちゃま、座ってください。耳障りの目障りの耳障りです」
「に、2回言わんでええわい!謝るけど!」
大騒ぎの『黒き悪魔たち』と、
「……」
その様子を静かに見る『鋼の心』。
「すげぇな……気付いたのかよ、タイガ」
「あっぱれでござるな。この状況判断力。だが、援護班が気付けなければ、結果回復は」
「気付いてるよ」
サザンの言葉に、振り返るヴァルガとホムラ。
「きっとこの状況に気付いてる。ポラリスならね」
「ほう……確かにポラリス殿は聡明そうな見た目をされておるが、
サザン殿、何故そう思われるのでござるか?」
「なんとなく?」
その3人の会話もどこ吹く風なアキラ。
「なんにせよ、あのギルドにとってのこのイベントは、もう終わったも同然だ」
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残り10分になり、再びあの技を放つゼウス。
俺たちはHPを全快ギリギリで留め……
その技を肉体ひとつで受けた。
黒い星が落ちると同時に、大きな砂塵が発生する。
花が開くかのように、闇のエネルギーが開く。
……だが、俺たちのHPは残り4分の1程度でとどまった。
「ぐうぅ……やられないけど、痛いことに変わりはないなぁ」
「でも、タイガさんの言う通りでしたね……」
立ち上がるリエータとツバキ。直後に援護班から、エクスポーションが運ばれてくる。
それにより回復をした後……
「せいっ!」
今度はディアナが攻撃し、俺たちのHPを減らす。
ディアナのHPは、俺がブーメランを投げて減らす。
「ギ……!?」
「悪いなゼウス。もうお前の攻撃は効かねぇよ!」
そして俺たちは、ゼウスに向かって一斉に走り出した。
・
・
・
「デストロイヤー!?」
「あぁ、間違いない。あいつはデストロイヤーっぽいスキルで低い火力を補ってるんだ」
俺がそう言っても、3人は信じていない様子だった。
「{黒き悪魔たち}のエミリーがやられなかったこと、
それで、デストレイルを使った俺{だけが}あのスキルを生き延びたこと。
そして運営が{攻撃が全部即死級のダメージ}と言っていたことでな」
攻撃が全部即死級。
そう聞けばプレイヤーはすべて、回避を試みるだろう。
それこそがゼウスの……このイベントの罠だった。
だからこそ、HPを減らしながら戦うという考えには至らないプレイヤーも多い。
故に、ゼウスのデストロイヤーの効果によって、即死するプレイヤーも多い。
逆に言えば、デストロイヤーさえ何とか出来れば、ただの大きなモンスターとなる。
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そしてそれは、ポラリスもわかっていた。
「つ、つまり、わざと回復させずに攻撃を?」
「あぁ、それで間違いないはずだ。さっきの隕石を落とす攻撃の時だけ、
エクスポーションを支給するようにしてくれるかな?」
「わかりました……やってみます!」
ぐっとファイティングポーズをとるエル。
「アレン。キミは引き続いて大砲とアンカーをお願い。
もうスキルを中断させる意味もあまりないから、どのタイミングで撃っても構わないよ」
「了解!」
飛行船内はあわただしくなってきた。
(まったく、本当に頼りになりますね。タイガさん)
・
・
・
アキラが思っていた通り、その後『虹色の万華鏡』は一度もやられなかった。
最終的に無敵剤を散布し、一息に攻めることでスコアをさらに稼ぐことができた。
そして空に向かって飛んでいくゼウス。
『鋼の心』には及ばなかったものの、それでも2位は揺るがないだろう。
「……」
その様子を、じっと見据えるアキラ。
(『虹色の万華鏡』……これは強力なライバルとなるだろうな)
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「……やった……の?」
「あぁ……みたいだな……」
その場に座り込む俺。
「やった~!」
「タイガさぁん!」
「タイちゃん!」
3人とも、俺に向かって飛び込んでくる。
「お、おい!お前ら……!」
特にリエータとツバキに至っては、涙を流していた。
「よかった!今回のイベントでも、お……タイガ君を助けられて……よかった……!」
「これがイベントを勝ち抜くって……嬉しさなんですね……!
ありがとうございます……!タイガさん……!」
……でも、それが俺にはたまらなく嬉しかった。
「……」
……接岸した飛行船から、ポラリスたちが降りてくるまでは。
「……あ、いや、ポラリス、これは……」
少しだけ考えるそぶりを見せた後……
「……飛行船に戻るね」
「空気読まんでいい!」
――その後すべてのギルドの挑戦が終わり、表彰式へ。
「見事今回も1位を達成された、ギルド{鋼の心}の面々でぇす。
皆様ぁ、盛大な拍手をお願いしまぁす」
拍手とともに、素材が手渡される。
「2位は前回5位のタイガさんのギルド{虹色の万華鏡}でぇす。
こちらにも盛大な拍手をお願いしまぁす」
俺たちに拍手が向けられる。
「おめっとさん!」「祝着至極です」
「おめでとうございます」「おめでとうございます!」
3位の『黒き悪魔たち』も俺たちに拍手を……と?
「……え!?先生!?」
「!?」
クロウが声を上げると、ディアナは少し飛んだ。
先生……?ディアナが!?
「まぁた締め切りを無視してこんなゲームに参加して!
このままだと次のイベントに用意するの間に合いませんよ!
今日から3日連続で徹夜するくらいじゃないと!」
「あっ……あっの……」
するとディアナ。
「あ。チュパカブラ」
「「え?どこどこ!?」」
目を輝かせるクロウとリエータ。なんでお前まで反応すんだよ!
「って、騙されませんよ先生~~~!待ちなさ~い!」
「ぬあああああああああああ!!」
そのまま表彰式の会場を、二人とも出て行ってしまった。
「……なんだったんだろ、あれ」
「さぁ……」
無事に表彰式も終わり、俺たちはギルドホームに戻ってきた。
神竜の逆鱗
【伝説の天神竜に挑み、生き残った証。
持っているだけで、ギルドメンバー全員のHPが50上がる】
神竜の破天角
【伝説の天神竜に挑み、かつ多大なる傷を負わせた証。
持っているだけで、ギルドメンバー全員の全ステータスが10上がる】
「おぉ~……」
追加効果を見て、リエータは思わず声を上げた。
「ステータス10アップはすごいですね」
「あぁ、頑張った甲斐があったってもんだ」
そしてギルドホームを見ると、やっぱりディアナがいない。
「ディアナさん……」
「本当は全員で喜びを分かち合いたかったがな……まぁいいか。
今度ディアナが揃ったら、改めてジュースで乾杯しよう」
「わ、わたし……牛乳がいいです……」
ピロリン!
何か通知が来た。
~大規模アップデート実施のお知らせ~
【8月5日午前0時より、アップデートを開始します。
新エリアの拡張、一部スキルの見直し、新スキル、新素材の実装など、
今回のアップデートは前回のアップデートより、お時間をいただく場合があります。
終了時間は8月7日午前8時を予定しております。
なお、アップデート内容は終了前に公式サイトで告知いたします。
今後とも『ワールドオーダーオンライン』をよろしくお願いいたします。
ワールドオーダーオンライン 管理局スタッフ一同】
「つまり、丸2日はログインできないんですね」
ツバキの言うとおりだ。
初めてからここまで長くログインできない時はなかった。
「ちょうどいいや、溜まってた宿題、済ませておくか」
顔を真っ青にするリエータ。
「どうしたの?リエータ」
「宿題……まったく、やってない……」
ギルドホーム中が、どっと笑いに包まれた。
「というか、リエータさん学生さんだったんですね。僕と同じです」
「げ、現実世界でお会いできたら、お勉強を教わりたいです……」
「無理無理!あたしお兄ちゃんじゃないんだから、人に宿題なんて教えられないよ~!」
これはまた、俺に助け舟を求めてくるパターンだな……
俺は翌日からの修羅場に備えることにした。
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「無事第三回イベントも終わったようだねッ!」
一方こちらは管理者室。
「今回も優勝は{鋼の心}でしたね。やはりトッププレイヤーの集まりは違います!」
「実際バランス、やばぁいですからねぇ。それより気になるのはぁ」
「{虹色の万華鏡}か?」
ルビーがこくりとうなずく。
「特にタイガさん。今回のイベントの罠に気付くとは……さすがというほかありませぇん。
あの頭の良さ。今後も注目すべきではぁ?」
「{黒き悪魔たち}に気付かれかけた時も、正直{やっべ}と思ったけどな」
「うむッ。とりあえず今から地獄のアプデ作業だねッ!」
4人同時に溜息。
「まぁた眠気をモンスタードリンクで無理矢理覚ます日々かよ……
オレもぶっ倒れる可能性が微レ存だから、お前ら頼むな!」
「何の宣言なんですか!パールさんも頑張ってもらわないと困ります!」
「あぁ~、ここんとこ肩凝ってるから、久々に息子と温泉旅行でもと思ったのになぁ」
「でも、プレイヤーの皆様の笑顔が僕たちの活力でぇす。がんばりましょう~」
4人は力なく、腕や前足を上げた。
全員仲良くトッププレイヤーの仲間入りを果たした『虹色の万華鏡』
アップデート後の活躍は?
その前に、少しだけ別の話が入ります。




