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雨音止まぬ「夏」は、大河の流れにその身を濡らす。 9

20ブックマーク、そして70評価点突破、ありがとうございます!

今回でリエータ長編完結です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


目の前のお兄ちゃんは、まっすぐにあたしを見つめている。

そして、長剣を振りかざしたり、盾で防いだり、

たまにシャドウレーザーを撃ったりして、あたしに迫る。

あたしもそれにつられるように、槍を振ったり、たまに銃を撃ったり、

そして……プロミネンス。

お兄ちゃんの動き、軽く見てもわかる。

まるで無駄がない、と。

それほどまでにこのゲームに夢中になってるんだ。

それほどまでに……あたしとの対戦を楽しんでるんだ。

それほどまでに……あたしに向き合ってくれてるんだ。

長剣と槍が擦れあって、ビカビカと火花が散る。

「ひとつだけ教えてくれ」

「?」

「お前はなんで、あんなノート付けてたんだ?」

そう聞かれると、あたしはニコッと笑って、

「だってお兄ちゃん、槍を使ってたんでしょ?だからもしかしたら、

 あたしにもアドバイスとか、出来るかなって思って。

 まぁ、最近はあたしのために、普通に能力値の確認で使ってるんだけどね!」

「そっか、本当お前の行動原理は俺だったんだな」

「だって、お兄ちゃんだもん!」

さらに火花の散り方が激しさを増していく。

火花の向こうにいるお兄ちゃんは、まっすぐにこちらを見る。

あたしも負けじと、お兄ちゃんを見つめ返す。

そのまま二人で、武器を擦り合わせる。つばぜり合いの状態だ。

刃の部分が激しくこすれ合い、赤く熱を持ち始める。


ガキィン……!


先に武器を弾いたのは……


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


俺の背後に、長剣が飛んでいった。

まるで墓標のように、雪に深く突き刺さる。

「……はぁ、やっぱ長剣じゃ厳しいか」

「……」

「でも……」

「!?うぐっ!」

リエータの背後から、ブーメランが飛んできて、リエータの背中を切り裂く。

油断していたのか、それを避けることは出来ず、まともに受ける。

「お前、どういうことだ?」

「……ん?何が?」

「気付いてたはずだろ。俺がブーメランを投げてたことくらい」

可能な限りリエータに気付かれないようにブーメランを投げたつもりだった。

長剣が飛ばされたあとで、リエータに命中するように計算。

そのために俺はリエータをまっすぐに見つめた。

リエータもそうだった。

急に長剣が弾かれて、それでも俺を見つめていた。

だが、さすがに直前に投げていたブーメランには気づいているはずだ。

「……さぁ、どうしてかな?」

「お前も俺に似てきたな」

二人で武器を構える。

「じゃ、そろそろ終わりにしようぜ、{リエータ}!」

「うん、わかったよ。{タイガ君}!」

俺の長剣が黒い霧を放出し、リエータの槍が炎を噴き出す。

「……行くぞ!」

「いざっ!」

リエータが駆け寄ってくる。

それを俺は、剣を低く構えて待ち構えて……


「{デストレイル}!」

「{ドラゴリベリオン}!」


ズドオオオォォォン!!




……気が付くと、その場に二人で大の字に倒れていた。

「「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」」

リエータのHPは不屈の闘志で1で踏みとどまり、

俺のHPは冥府神の加護でデストレイルの分しか減っていない。

「負け。あたしの負けだよ。お兄ちゃん」

起き上がるリエータ。

それに対して俺は……

「お兄ちゃん……?」

「は~っ……は~っ……は~っ……」

「お、お兄ちゃ~~~ん!」

もう何度目かの、青息吐息。

「もう、どれだけ無茶してたの……」

「悪いな……で、今回の勝負だが……」

俺はリエータに手を引かれて起き上がった後、

「お前の勝ちだ。ナツキ」

「え?なんで!?不屈の闘志がなかったら、あたしが負けてたんだよ!?

 お兄ちゃんの勝ちだよ!きっと!」

「それは俺も一緒だ。俺も冥府神の加護がなかったら、ボロ負けだったさ。

 やっぱ強いな、トッププレイヤーのリエータは……」

するとリエータは、ふふっと笑った後、

「じゃあ……引き分け」

「あぁ、それでいい」

笑顔でうなずき合った後……再び二人で大の字に寝転がる。

「お兄ちゃんとこうやって、寝転がることなんてなかったね」

「あぁ、そうだな」

空を見ると、はらはらと雪が静かに降る。

VRだから、寒さは感じない。

「で?お前がもし勝ったら、どうするつもりだったんだ?」

「……」

するとリエータは、またいたずらっぽく笑い。

「先にお兄ちゃんから教えて?恥ずかしいから」

「な、なんでだよ。俺こそ恥ずかしいだろ」

期待の目を送ってくる……

「俺は……」

目を閉じてしばらく待った後、

「やっぱりお前と別れるのは嫌だから、無理矢理でも連れ戻そうとした……かな」

「そう、なんだ……」

安心したような顔をするリエータ。

「お前は?」

「……」

少し考えた後、リエータは……ナツキは、こう続けた。

「お兄ちゃん……あたしがめいっぱい迷惑かけちゃったから……

 もし、嫌いになってたらどうしようって……

 だからもし勝ったら……お兄ちゃんに許してもらおうかなって思ってたんだ。

 でも、お兄ちゃん許してくれないよね。今回も、あんなに本気を」

声を遮るように、俺は大きな声で笑った。

「ちょっお兄ちゃん!?あたしこれでも真剣に」

「嫌うわけねぇだろ?」

2人して起き上がった後、頭にポンっと手を乗せる。

「家族なんだぜ?血の繋がった、大切な。

 それに……あの時の約束、ずっと覚えてるからな」

「……」


――心配するな!


――お前がもし悲しんだって、俺が何回でも助けてやる!だから、大丈夫だ!


――もし何か挫折するようなことがあっても、俺が助けてやるから!


――いつでも俺が、助けてやるからな!


「ナツキ!!」

「……」

俺のその言葉を聞いた瞬間……

「う……うぅ……!」

「え、ナツ」

「うわあああぁぁぁ!!」

ナツキは俺に飛びついてきた。

「いででででで……!やめろナツ……リエータ!」

「よかっだぁ!よがっだよぉ~~~!

 あだし!お兄ぢゃんにぎらわれたら、

 嫌われだらどうじようがなっで思っでで……!ホンドよがっだよぉ~!」

「わ、わかったから、離れてくれよ!」

「うあああぁぁぁぁ!」

なおも、俺の鎧を濡らすリエータ。

「……まったく」

リエータはずっと泣いていた。

ずっとずっと、泣いていた。

それは今までの、後悔の涙ではなく……


これからの未来に向かう、希望の涙だった。


―――――――――――――――――――――――――――


ドラゴリベリオン 槍(炎) 消費SP:40

【ドラゴンライダー専用スキル。レッドドラグーン用の炎を槍に封じ込め、

 突くと同時に大爆発を起こす。威力は絶大だが、

 使用までに時間がかかり、突きが当たらないと爆発もしない。クールタイム:3分】


―――――――――――――――――――――――――――


ギルドホームに戻ってくると、すでに他の仲間が集まっていた。

「お帰り。リエータ」

「お、お帰りなさい。リエータさん!」

「お帰りなさい。リエータさん」

「リエータさん、お帰りなさい!」

口々にリエータを迎え入れる。

「……みんな」

するとリエータは、深々と頭を下げる。

「ごめん!」

ギルドホームの空気が、一気にピンと張り詰める。

「あたし、こんな感じで、無茶したがりだから、これからも迷惑かけると思うし、

 これからも、みんなの足を引っ張るかも知れない。

 こんな独りよがりなあたしを、みんなは許してくれる……?」

「……」

するとポラリスはこう言った。

「何の話かな?」

「……え?」

それにつられるように……

「わ、わたしも、リエータさんが何を言ってるかわかりません」

「僕も、リエータさんに助けられたことはあっても、迷惑をかけられたことなんて何も」

「私も、何があったかなんて、すっかり忘れちゃいました」

と、周りも声を上げる。

最後にポラリスが……

「ただの一回の失敗。だよね。リエータ。

 気にしちゃダメだよ。今はこうやって、仲間もいるんだから」

「…………うん!」

リエータは、力強くうなずいた。

「……ところで、ディアナちゃんは……?」

「あ~、残念だけど今日1日ログインできないみたい。

 まぁ、明日イベントがあるまでに伝えておくよ」

「ありがとう、ポラリス君」

その光景を横で見ていた俺。

リエータは、憑き物が取れたような……吹っ切れた顔をしている。

本当に……早く気付けてよかった。


―――――――――――――――――――――――――――


リエータは先にログアウト。

そして俺はそれから1時間半ほどしてログアウトした後、1階に降りていった。

すると……

「おう、ただいま。タイガ」

「ただいま。タイガ」

父さんと母さんも、そこにいた。

「父さん!?母さん!?なんで?」

「それが、今日たまたま仕事が母さんともども早く終わってな。

 せっかくだし、今日は家で食おうかなと」

「ごめんねナツキ。急に連絡しちゃって」

だから早くログアウトしていたんだろうか。

「うんうん?大丈夫!」

そしてナツキは、料理を運んできた。

「……」


~本日の雨宮家、夕食の献立~


ローストチキン、麻婆豆腐、天ぷらの盛り合わせ、トンカツ、

クリームシチュー、エビチリ、アジの煮付け、そして……


俺だけこんもり盛られた白飯。


「さ、じゃんじゃん食べてね!」

「こ、これ、全部ナツキが用意したのか……?!」

唖然とする父さん。そりゃそうだ。

「うん!張り切っちゃった!」

「まぁ、嬉しいわ!よく作ってくれたわね!ナツキ!」

ナツキの頭を撫でる母さん。……ダメだって!

「お兄ちゃんも!」

ほらこんな風に振ってくるから~!

「あの~……ナツキさん?」

「え?足りない?ならおそばも作ろっか?ちょうどそば用の麺余ってるし!」

「足りてるわ!足りすぎてるくらい足りてるわ!

 どこかの麦わら帽子被った海賊じゃねぇんだぞ俺は!?」

と、言われつつナツキは目をキラキラさせていた。

いや、これは純粋な目ではない。


……褒められることを期待している目だ。


「……あぁ、もう、食いますよ!ありがとうナツキ!」

「えへへ、ほら、お父さん!お母さんも!」

この日は久々に、一家団欒で夕食を食べることが出来た。

腹は苦しいか?……聞くまでもないだろ?

あいつよりにもよっておかわりにもめちゃくちゃ盛ってきたんだぞ……

……まぁ、うまかったからよかった。


夕食中、リビングから窓の外を見ると、雨はすっかり止み、柔らかな西日が差し込んでいた。

雨に濡れた外のアスファルトが、キラキラと輝いている。

それはまるで、星の河のようにも見えた。

「お兄ちゃん?」

「……なんでもない」

俺はナツキの声で我に返ると、再びおかずに手を伸ばした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


今の能力(8月3日)


レベル51


HP:325

SP:270


腕力:85+30(+20) 知力:65+30 器用さ:30+20

素早さ:65+40 体力:65+20(+20) 精神:35+20(+20)


武器:竜槍スヴァローグ(超覚醒済)

サブ武器1:守人の斧

サブ武器2:魔導銃ホルス

防具:ベロボーグメイル

アクセサリ1:山紫水明の指輪

アクセサリ2:星屑のパレオ


お兄ちゃんと、一騎討ちで勝負した

お兄ちゃん、スキルもあるけど、ビックリするほど強かったなぁ

やっぱり、ゲーマーとしての意地?なのかな?

でも、お兄ちゃんに嫌われてなくて、本当によかった!

これからも お兄ちゃんと一緒に、色んな所へ行きたい!




お兄ちゃん、大好き!

世話焼きな妹ナツキ。世話焼きなプレイヤーリエータ。

どちらの顔も、タイガにとっては大切な顔。

リエータはこれからも、タイガと共に戦います。


次回、第三回イベント開始です。

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