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雨音止まぬ「夏」は、大河の流れにその身を濡らす。 7

「リエータさん……」

ツバキが、一つだけ空いた席を見てつぶやく。

「や、やはり、昨日の事が……」

昨日の本当の行動は、リエータがログアウトした後全員に伝えた。

「ごめん、タイガ。ボクが変なこと言ったから……」

「ポラリスのせいじゃない。お前はお前なりに空気を読んでくれたからな」

「……」

ポラリスは、泣きそうな顔をしていた。

俺だってそうだ。

もし俺がリエータの……ナツキ自身の負担になっていたんなら、どうして謝れない?

それほどまでに俺は……プライドが高いのか?

それとも、リーダーだから?

そんな理由で、

そんなくだらない理由で、俺はナツキに向き合うことをおざなりにしてたのか?

「そう言えば、ディアナさんは?」

アレンの声で気付く。

「あぁ、ディアナなら今日は火急の仕事だって」

「そうなんですか……お仕事って大変ですね……」

「う、うん……」

なんだ?今のポラリスのリアクション……

いや、今はそんなこと気にしていられない。

「明日には参加してくれるのか?」

「……多分ね」

多分じゃ困るんだが……

「とりあえず今日は、素材も集まったし残る素材はエーテル鉱脈石だけだね。

 場所は覚えてる?タイガ」

「あぁ。一応昨日リエータに案内してもらったしな」

しかし、今のメンバーは俺を含めて5人しかいない。

リエータでも苦戦するような敵が多い洞窟だ。

俺たちだけで、何とか出来るだろうか……?

「……」

すると、ツバキが手を挙げた。

「あの、30分ほど待ってもらえませんか?」

「え?」

その提案に、ポラリスは面食らうが……

「まぁ、素材を集めるだけだし、昼食の後でもいいね。いいよ。

 ……て、ごめん、ボクばかりが仕切っちゃってるね」

「いや、別に構わないぞ」




その後、解散となった後で俺はツバキに呼び出された。

「なんだよ、話って」

ギルドホームの近くの路地に、俺は来ていた。

……かつてツバキを見つけた場所だ。

「……」

ツバキは、黒い口当てを外し、

「タイガさん……お願いがあるんです」

「……お願い?」

するとツバキから、驚きの言葉が飛び出した。


「……!?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「……」

ぼんやりと、窓の外を見る。

まだ雨が降っていた。

今日で……3日連続か。

何やってるんだろうね。あたし。

「……」

キットを見る。

……ダメ。

今戻ったら……またお兄ちゃんに迷惑をかけちゃうから。

「……」

じゃあ、あたしはどうすればいいの?

また、お兄ちゃんにご飯を作ってあげる……だけでいいの?

お兄ちゃんは、それを望んだの?

…………

あたしがいなくてもお兄ちゃんは……大丈夫。きっと。

「……」

あたしはベッドに横たわる。

「……お兄ちゃん……」




「……呼んだか?」

「!?」

扉がいつの間にか開いていて、そこにお兄ちゃんがいた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


30分前。

「タイガさん、単刀直入に言いますけど……」

「どうした?」

ツバキが踏み込んで、こう聞いてきた。

「リエータさんを、助けてあげてください」

「助ける……?でもあいつ、ログインしてないからどうしようも」

「違います!」

その大声に、俺はビクンと肩を怒らせた。

「{こちらの世界のリエータさん}ではなく{タイガさんの妹のリエータさん}をです!」

「……!?」

俺は絶句した。

どうして、ツバキがリエータの正体を知っている……?

「な、何を言って……」

「……」

無言でこちらをじっと見てくる。

「……」

この目は、確信を持っている目……だろう。

「……なんで俺が、リエータの兄であると思った?」

「違うん……ですか?」

その問いに、俺は即答できなかった。

違う、なんて言えない。正解なんだから。

「タイガさんとリエータさん、いつも一緒にいるみたいですし……

 それに何より、なんというか……暖かさを感じるんです」

「暖かさ……か」

はい。とうなずくツバキ。

「私……タイガさんにもリエータさんにも、本当によく助けられてきたんです。

 だから、タイガさんとリエータさんの間にわだかまりがあるなら……」

わだかまり……か。

「でも、どうすりゃいいかわかんねぇ。

 ……もうあいつに、何の言葉も届かねぇかも知れないし」

「……」

ツバキは、右の手のひらを開いて……

「えっ?」

俺の左の頬に、そっと手を添えた。

「いい加減にしてください、タイガさん。自分の気持ちに、正直になったらどうですか?」

「……!?」


――いい加減にしてよ、ツバキちゃん。自分の気持ちに、正直になったら!?


あの時のリエータの言葉だ。

「……私はタイガさんとも、リエータさんとも他人ですから……

 今回の件に踏み込む資格も何もないかも知れないです。

 ですが……私に対する家族の問題は、あなたが解決してくれました。

 今度は私の番です。あなたが悩んでいるなら、私は……

 それに、手遅れなんかじゃない、ですよね。仲間がいますから」

笑顔で言い終えるツバキのその言葉に、俺は泣き出しそうになった。

ここまで俺の事を……俺の家族の事を考えていてくれたのか……

「……なぁ、ツバキ。リエータが俺の妹ってことは……」

「もちろん、内密にします」

「……」


俺は洗いざらい、ツバキに話してみた。

リエータは、俺のために無茶をしてくれていたこと。

そんなリエータを俺は、遠ざけてしまったこと。

そのことでリエータは、かなり追い込まれてしまったこと。

「……」

そのことを聞いたツバキは……

「タイガさんは、本当はどうしたいんですか?」

「えっ……?」

「この問題……私が意見するのは悪いと思うんですけど……

 タイガさんはきっと、自分が本当にやりたいことを出来ていないから、

 だからリエータさんを追い詰めてしまったんだと思うんです」

やりたいこと。

俺がやりたいことは……いや、このゲームのはずだ。

だから俺はその願いを叶えて……

……叶えて?

俺が『やりたかったこと』は……

こんな独りよがりなことだったのだろうか?

相手がどれほど追い詰められたのかを知らずに、自分の意見だけを通す。

そんな事がやりたかったんだろうか……?

「……」

俺の顔を、冷や汗が伝った。

その冷や汗を隠すようにうつむく。

俺は……なんてバカなことを……

「……ツバキ」

「……はい」

「ごめん。ちょっと昼から、遅れるかもしれない」

何も言わずに、俺はその路地から出た。

「吉報を、お待ちしています」

ツバキのその言葉を、最後に聞いて。


「お兄ちゃん……どうして。ログインしてたんじゃ……なかったの?」

「お前に話があるんだ」

「話……ダメだよ。あたしはもう戻る気は」

何か言葉を紡ごうとした瞬間に、俺は……

「すまん!ナツキ!」

「!?」

「お前がどれだけ俺のためにがんばってきたのか、お前がどれだけ俺の事を思ってたのか、

 何もわからないまま、お前を追い込みに追い込みぬいちまった俺のせいだ!

 お前の思いも、何も察せない俺の……何が兄貴だって話だよ!」

その言葉を聞くと、ナツキは……

「違うよ……全部あたしが悪いんだよ……お兄ちゃんの言うことを聞かなかった」

「俺は昔から強情で、お前を傷付けてばっかりで……

 お前がどれだけ俺のためにやってるのかなんて何も考えてなかった……

 お前が色々やっても、どこかで{当然だ}って思ってたんだ」

「……」

ナツキの目に涙が溜まってきた。

「……で、でも、あたしだって……そうだもん……!」

「え?」

そしてまた涙を流しながら……こう言葉が続く。

「あたしだってそうだもん……!どんなことがあっても、お兄ちゃんが守ってくれる……

 そう思ってたから、お兄ちゃんばっかりに迷惑をかけて……

 今度こそ迷惑をかけたくないって思ったから、このゲームでも頑張って……

 でも、それはお兄ちゃんのためにならなかった……!

 結局ここでもお兄ちゃんの足を引っ張ってばっかりで……!

 謝るべきはあたしなんだもん……!

 それにお兄ちゃんがこうやって謝っちゃったから……あたしは!」

「それは本心からの{やりたいこと}なのか!?」

「!?そ、そうだよ!あたしはお兄ちゃんに迷惑をかけたくないから!」

ナツキのその言葉を聞いた俺は、ナツキに近付いて……


パンッ!


「わっ!?」

ねこだまし。

「ただ1回の失敗……いや、失敗にもなってないことが何なんだよ。

 あんまり自分を責めんな!

 だって……ゲームってそういうものなんだろ?ナツキ」

「!?その……言葉って……」

「俺が落ち込んでる時に、お前そう言ってくれたよな」

ナツキに溜まっていた涙が、ついに頬を伝い、落ちた。

「お兄ちゃん……でも……!でも……!」

それでもまだ、二の足を踏むナツキに……

「……ナツキ」

俺は、握りこぶしを作ってこう言った。

「じゃあ、俺と勝負だ」

「え……?」

少し短めですが、キリがいいのでここまで。

タイガが言う、リエータとの『勝負』とは?

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