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雨音止まぬ「夏」は、大河の流れにその身を濡らす。 4

『行クゾ!』


トリグラフが光を体中に溜める。

「!?」

そして口から光のブレスを放出した。

「ふっ……!」

勢いよく跳躍する。


『何!?』


「とりゃ~~~!」

槍を構え、突貫。スキル『ランスエッジ』だ。

こいつがいわゆるボスキャラなら、スキルの出し惜しみはしていられない。

しかしトリグラフのHPが高く、あまり効いていない。

長期戦になればなるほど不利になるのは、HPの低いこちらの方だ。

「{ファイアランス}!」

先手必勝で、スキルを矢継ぎ早に使っていく。

さすがにHPは多いようで、あまり減らない。

それでも尻尾の動き、翼の羽ばたき、

そして光の魔法に気を付けつつ……

「てやっ!」

槍を振るう。

まだダメージは受けていない。

……いける。

そう思っていた、矢先の出来事だった。


『小癪ナ!』


トリグラフが口を大きく開く。

まるでブラックホールのように、その口の中には暗い闇が続いていた。

「!?」

不意に来る大きな口を前に、あたしはよけることもままならず……


バクン




「……あれ?」

真っ暗だ。

前後左右がわからなくなる。

「こ、ここは……?確かさっきのドラゴンに食べられて……」

自分のHPを見ると……

「……!?」

徐々にHPが減っている……!?

「な、何!?」

いや、こういう時こそ冷静にならなきゃ。ファイアランスを唱えてみると……

「!?」

一瞬、何かが見えた。

近付いて触ってみると……何やら硬い感触がある。

球体のようだが……

「……何これ?」

思い切って槍で一突き。


『グワアアアアアア!!』


「……?」

何故かトリグラフの悲鳴。

「えいっえいっえいっ」


『ヤメッ……ヤメヌカアァ!!』


効いてるのだろうか?そう思っているうちに……

「え……?うわぁ!」

体の中から吐き出された。

何とか受け身をとり、トリグラフのHPを見る。

……何故か、半分以上減っている。

となるとさっき、あたしが攻撃したのは……?

「……」

勝てる。

瞬時にそう思ったあたしは、もう一度口の中に入りたいと思った。


『モウ許サヌ!骨ノカケラモ残サヌゾ!』


トリグラフの攻撃が激しさを増す。

もはや見境なく光魔法や、光のブレスを放ってきたり、

さらに尻尾を振り回したりと、暴走し始めている。

「ちょっ危ないって!」


『ヤカマシイ!モトハト言エバ貴様ノセイデアロウ!?』


ごもっともだ。

だが、まずい。

避けてはいるが、このままではジリ貧だ。

「ど、どうしよう……!」


『死ネ!』


ブレスを吐こうと口を開く。

「!?」

ここだ。

このタイミングで、口に飛び込もう。

だが、タイミングを少しでも間違えればブレスで木っ端微塵だ。

「……」

なら、どうする?

いや、どうするというか……方法はひとつだけだ。

うなる尻尾、そして噛み砕こうとする口を避ける。

違う、このタイミングじゃない。

なら……あたしは思い切り跳んだ。

そしてトリグラフの背中を踏んで、さらに高く跳ぶ。


『上ニ逃ゲルダト?無駄ダ!』


そして上空で無防備なあたしにブレスを吐こうと、口を大きく開く……

「ここだっ!」

あたしは天井を蹴飛ばし、口の中に入った。


『何トッ!?』


そしてそのまま、再び飲み込まれて着地した場所にたどり着き……

「これで決める……!」

槍を構え、球体を連続して突き刺す。


『グワッ……!……サセヌワッ!』


トリグラフは息を大きく吐き出し、あたしを外へ吹き飛ばそうとする。

「だったら……こうだ!」

あたしは球体にしがみついて……


ポンッ


「えっ!?」『エッ!?』


そのまま、剥がれたと思われる球体ごと吐き出されてしまった。

これはトリグラフも想定外だったはずだ。

明るい場所で見ると、球体は赤黒い色をしていて、ドクンドクンと脈打っている。

……まさかこれは、心臓?

「なるほど……そういう事だね」


『ヤ、ヤメロ!』


「ふんっ!」

心臓と思われる球体に、思い切り槍を突き穿つ。

その瞬間、球体は砕け散り……トリグラフも、周りの風景と一体化した。

「……あれ?倒したの?」

周りに敵の気配はなく、宝箱だけがある。

そこに入っていたのは……

「うわぁ~~~……!」

銀色の薙刀のような槍、『竜槍スヴァローグ』

白色のビキニアーマー、『ベロボーグメイル』が入っていた。

「これであたしもそれっぽい感じの装備になるね!やった!」

早速身に着けてみる……

「……」

が、露出度が高く、さすがに恥ずかしい……

特にお尻なんてほぼ丸見えだ。スクール水着しか着たことがないから余計に恥ずかしい。

そこで、あたしはパレオで無理矢理隠す。

うん。旅人の服と合わせたなら動きにくいが、これなら見た目もカバーできるし、

何より恥ずかしさも隠せる。

……それにしても、どうして食べられても無事だったんだろうか?

そう言う仕様のモンスターなのかな?


……まぁ、のちにこのスキルのおかげ、というのがわかったんだけどね。


めげない精神 自動スキル

【相手からの継続ダメージ系統の技によるダメージを大幅に減らす。

 ゲームオーバー回数が一定以上でレベルアップ。

 ゲームオーバーになった回数が一定以上で覚える】




それから3週間。

この間にお兄ちゃんは来なかった。

こんなに参戦が遅れるなら……やはりあたしが買わなかったらよかったんだろうか?

……そうだ。最初からお兄ちゃんに渡しておけば。

いや、ダメ。

きっと『あたしが頼んだ』なんて知ったらお兄ちゃんは怒るだろうし、

差出人不明の荷物なんて、きっと受け取らない。

それに多分『テストがあるから』と言って、あたしの言葉は聞かないだろう。


……この日は、第一回イベントがあった。

「とりゃ~~~!」

目の前にいるモンスターを、ひたすら蹴散らし続ける。

スヴァローグに変えてからと言うもの、戦闘は快適そのものだ。

目の前にいる敵が、まるで薄紙のごとくたやすく貫かれる。

「ふぅ」

額から流れる汗を拭う。

「んっふっふっふ、モンスターばかり倒して、お山の大将気分かい?」

そこに気障な見た目の男がやってくる。

「その素敵な素肌を涙で濡らすことになるのは忍びないが……

 仕方ないよね、僕に出会ってしまったもの」

「……」

弓使い、なら先手必勝だ。


キラーン!


「狙った獲物は逃がさ」


ドスッ。


「えっ……?」

「あっ、ごめん。そういう口上あったんだね……早とちりしちゃった」

男はそのまま、跡形もなく消滅した。

「ほ、本当にごめんね!」

いや、聞こえていないだろう……多分。

「……」

まだ気配を感じる。あたしは神経を集中させた。

「いるん……だよね?」

視線の方向に槍を向けると、物陰から中性的な見た目の男の子が現れた。

「男の子?」

「えっと……今3位のリエータさん……だよね?」

男の子は、キッとこちらを見つめると、

「ボクと、勝負してくれるかな」

弓を構えた。

「……いいよ」

でも何だろう?

さっきの男とは、まるで違う。

「{ショットアロー}!」

1条の矢が、あたしの横をすり抜けていく。

あたしが避けたんじゃない。いや、彼が外したのでもない。

『あたしの動きを読んで射った』のだろう。

「{ファイアランス}!」

炎を前方に飛ばす。

「{スターライド}!」

素早く横へ移動。

「はぁっ!」

「!?」

槍を薙ぎ払うことで、その動きについていく。

「うぐ……!」

はじき返されながら、男の子は矢を放つ。

「!?」

左の肩を射られた。

ダメージは結構大きいが、耐えられないほどではない。

そのままあたしは、男の子に駆け寄った。

「!?」

射貫かれたのに気にせず押し通るあたしに驚いたのか、

男の子はスターライドの上から大きくバランスを崩し、地面を転がった。

その男の子にゆっくりと近付く。

「す……すごい……」

「え?」

「まさか……ボクが人の心を読めないなんて……」

男の子は、爛々とした目をこちらに向ける。

「あはは、そうだったんだね。でもあたしはただ、普通に戦ってただけだよ」

そして男の子の腹部に槍をあてがう。

「ボクが、敵わないはずだね……」

「{ランスエッジ}!」

そのまま槍で軽く薙ぎ払うと、男の子は消滅した。




「そして今回{WOOビギニング}で、見事優勝を果たしたのは……

 138ポイントを獲得のリエータさんです!皆様、大きな拍手~~~!」

気が付くと、そのイベントで優勝していた。

特に意識はしていなかったんだけど、いつの間にかポイントを稼いでいたらしい。

何にも見てなかったのに……な。

2位にはロンゲの人、3位にはアキラちゃんの姿が見える。

「おめでとう。リエータ」

「あ、ありがとう……」


表彰式が終わった後、

「すごかったね……!」

先ほどの男の子。

「戦況をずっと見てたけど、最後の最後で大逆転。

 本当にすごい!憧れちゃうよ!」

目を煌めかせる男の子。

「あ、あはは……ま、まぁ、実力って奴かな?」

「あの、もしよかったら、フレンド登録……」

フレンド登録……初めて要求された。

でも……ダメだ。

「あ~、ごめんね。フレンド登録はしないようにしてるから……」

もしこれがきっかけになって、お兄ちゃんにあたしの存在がばれたら……

そう思ったら、申し訳ないけど出来ない。

でも、もし、このイベントにお兄ちゃんが参戦していたらどうなっていたのかな。

あたしより……楽しめてたかな。

いや、あたしも楽しかったんだけど……

頭をよぎるのは、そう言った感情ばかりだった。

「そっか。でもいいよ。ボクの名前はポラリス。もしまた会えたらよろしくね」

「うん。よろしく、ポラリス君!」




そして、『その日』がやってきた。

思ったより長引いてしまった……

まだもう少し、ナツキの追憶は続きます。

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