雨音止まぬ「夏」は、大河の流れにその身を濡らす。 3
……目を開けると、そこは電子的な空間だった。
【見た目を設定してください
現実世界での姿を利用するならば、スキップしてください】
見た目……
あたしは胸を見る。
「……こ、こういうゲームの時くらい……」
あたしはアバターの見た目を変えた。ついでに、髪型も。
【名前を入力してください】
「名前……」
そのままナツキ……いや、ダメだ。
このゲーム、お兄ちゃんも欲しがっていた。
もしこれであたしが見つかったら……お兄ちゃんは絶対に怒るだろう。
では、どうしようか?
夏……サマー……だと単純すぎるし、
でも、夏って言葉は入れたい。
……あ、そうだ。この間図書室で興味本位で読んだ本に書いてあったロシア語……
「リエータ」
リエータはロシア語で『夏』という意味。
うん。これならお兄ちゃんにも気付かれないはず。
「ようこそ!VRMMORPG、ワールドオーダーオンラインへ!」
目の前に青色のキツネが飛んでくる。
「か、かわいい」
「ワールドオーダーシリーズは初めてですか?」
「あ、はい。お兄ちゃんがやってるんですけど」
「では、ワールドオーダーシリーズについて、簡単にご説明します!」
キツネから、簡単に説明を受ける。
「とまあ、ここまでが説明ですが、もう大丈夫ですか?」
「う、うん」
本当はさっぱりわからなかった。
「わかりました。では、得意な属性と武器を選んでください」
属性と武器……まず属性は炎かな。
なんというか、あたしに似合ってる……気がしたから。
次は武器……お兄ちゃん、確か槍を使ってるって言ってたよね。
「えっと、得意属性は炎、得意武器は槍で」
「わかりました。では、リエータさん、あなたの能力は、こうなっています!」
リエータ レベル1
HP:65
SP:50
腕力:16 知力:1 器用さ:1 素早さ:21 体力:11 精神:6
「……う~ん」
このパラメータが、正しいかどうかもわからない。
でも現実のあたしの運動能力などを加味すると、これが正しい……らしい。
「これでよろしいでしょうか?」
「……はい」
あたしはとりあえず、この能力で行くことを決めた。
「では、こちらをどうぞ。銅の槍。槍使いの初期装備。そして……
旅人の服。ごく普通の装備です。槍装備なので、盾は装備できない点はご注意ください。
それでは、準備はいいですね?」
「はい」
「扉を開けた先が、ワールドオーダーの世界です。さぁ、行ってらっしゃい!」
あたしは槍を手にした。
……結構重いな。RPGで出る人って、こんなものを背負ってるのかな?
とりあえず、あたしは扉を開けた。
その先は、町になっていた。
あちこちに武器を背負った人たちがいる。
今日サービスが始まったばかりなので、同じような姿の人が多い。
「さてと……どうしようかな?」
右も左もわからない。とりあえずまずは、道具屋だ。
HPを回復するアイテムくらいないと、困るもんね。
一通り回復アイテムを買ったあたしは、とりあえず戦闘をしてみることにした。
町からでると、そこに……
「ピー!」
ウサギ型の敵がいた。
「か……かわいい~~~!」
あたしは年甲斐もなく、目を輝かせてしまった。
「……って、いけない。戦闘……だもんね。よし」
槍を構える。
「ピー!ピー!」
「……」
だが……
「ダメ……あたしには倒せない……!」
かわいいものに目がないあたしの性格が、仇となってしまった。
「ダメ~~~!」
「ピ?」
あたしは全速力で、トビウサギから逃走した。
気が付くと、雪が降り積もるような場所に来ていた。
「あ、あれ?」
夢中になって走っていたのか……町に戻る道を忘れてしまった。
「ここ……どこ!?」
辺りをキョロキョロと探し回っている時だ。
「グルルルルルル……」
「!?」
見るからに恐ろしい見た目の、ゴリラのような、そんな大きさのモンスターが2匹。
【スノーエイプ レベル35】
「ひ……!」
恐怖で足がすくむ。
でも、怖がってばかりじゃいられない。
「オオオォォォ!」
スノーエイプが腕を振りかざす。
「これくらい……!」
正直運動神経には自信があった。……だが……
「オオオォォォ!」
1匹の攻撃はよけられても、もう1匹の攻撃を避けられず……
「きゃあ!」
殴り飛ばされ……
シュ~~~ン……
撃沈。
気が付くとあたしは、町に戻ってきていた。
「……う~ん……」
うまくいかないな。あたしはそう思った。
でも……ウサギを倒すよりはマシだ。
あたしはもう一度、雪山に向かった。
そして再びスノーエイプが現れる。
今度は1匹。
「よしっ……負けないんだから!」
「ガオオオォォォ!」
腕を振りかざす。今度は余裕をもって回避。
「え~い!」
そして槍をスノーエイプの腕に突き刺す。
「……って、えぇ!?」
しかしあまり効いていない……
「ギイイイ!」
「うわぁ!」
スノーエイプのドロップキック。何とか回避するが、大きくバランスを崩してしまう。
続いてスノーエイプのパンチ。足を突き出し、衝撃を抑える。
……しかし、おびただしいダメージ。……だが……
「あれ?」
HPが1だけで残っている。
「痛いけど……まだ、いける……!」
あたしは立ち上がる。
「かわいくないお猿さんなんかに、負けないんだから!」
「ガアアアァァァ!」
正直痛みで意識を失いそうだったが、まだ動ける。
あまり効かないからなんだ。
あまり効かない。つまり効いているから、何度も攻撃していれば……!
「うりゃ!」「とりゃあ!」「えいっ!」「はぁっ!」「やぁっ!」
キラ~ン……
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
約5分ほどの大立ち回りの末に、ようやくスノーエイプ撃破。
するとレベルが8まで一気に上がり……
スキル【不屈の闘志】を取得しました
スキル【立ち向かう心】を取得しました
スキル【バーニングソウル】を取得しました
「おぉ~!何だかたくさん覚えた!」
あたしはとても嬉しい気分になった。
しかし、ゲームオーバーになればこれもすべて台無し。
あたしはポーションを飲むと、雪山から町へ猛ダッシュした。
その様子を……とあるプレイヤーに見られていたんだけど、気にもかけなかった。
同じような行動を、何度も繰り返しているうちに……
レベルは18まで上がり、
スキル【立ち向かう心】のレベルがMAXになりました
スキル【ハイテンション】を取得しました
腕力を40まで上げているので、立ち向かう心が発動すれば腕力は80になる。
それに知力も立ち向かう心が発動すれば40増えるため、魔法を使うのもありか?
……まぁ、ここまで来るまでに、覚えているだけで20回はやられたんだけど。
そして気になったのは、戦闘中に崖の上に見えた洞窟だ。
RPGと言えば洞窟。今度はあそこに行ってみようかな。
そう思いつつ、あたしはログアウトした。
・・・
現実の世界に戻ると、17時を少し過ぎたあたりだ。
何とか晩御飯までには間に合いそう。あたしは急いで1階に降りた。
そして翌日。
洞窟に行ってみようと言っても、崖の上、どうやって行けばいいんだろう?
「すいませ~ん」
あたしはとある人物に聞いてみることにした。
「……僕か?」
長剣を持った中性的な女の人……アキラちゃんだ。
「あの、雪山地帯の崖の上の洞窟に行きたいんですけど、どう行けばいいんですかね?」
「……雪山地帯の崖の上……?」
アキラちゃんは、まだ知らないようだった。
「……そんな場所に行って、どうするつもりだい?」
「探検したいんです!」
あまりにも簡単な理由に、アキラちゃんはたまらず噴き出していた。
「雪山地帯でもあれほど強い敵が多いんだ。
そこにある洞窟……敵の強さは想像もたやすい。それでも挑むのかい?」
「はい。敵が強いほど燃えてくるって奴ですよね!」
「……」
アキラちゃんは、それを聞いて……
「なるほど。驚くほど単純だな」
「でも、ゲームってそういうものですから!」
あたしは握りこぶしを作った。
「僕はアキラ。君は?」
「あたしはリエータ。これからもよろしくね」
「……」
そして、敵から逃げ回りながら、山頂まで登ってきたんだけれど……
「うぅ……」
――崖の上にあるから、高いところから降りれば入れるんじゃないか?
――もっとも、行ったところで見返りに合わないかもしれないけど
――忠告はしたよ。あとは君の思うとおりに
アキラちゃんに言われたけど……さすがに高すぎて怖い。
「……」
意を決して、あたしは洞窟がある場所へ向かって飛び込み……
「とっ……!」
着地。
そして洞窟の前に立ってからわかる。
「……」
強い敵の気配がする。と。
その予感は、見事に当たった。
一発食らえばやられる。
不屈の闘志はあるけど、出来ればもっと手ごわい相手にとっておきたいため装備していない。
そのため、ここでもあたしはゲームオーバーと撃破を繰り返した。
基本的に敵が2体現れたらやられる。
だが、1体なら何とかなる。
レベル45のドラゴン。食らえばやられるが、動きはやや遅め。
自分で言うのもなんだが、元々運動神経はいい方なので、攻撃を避けては反撃。
攻撃を避けては反撃を繰り返す。
尻尾を振りかざすドラゴン。軽く後ろに跳んで避ける。
次に炎を吐く。横に流れるように避ける。
「え~い!」
そして槍を突き刺す。
武器そのものの威力は低いが、立ち向かう心が発動し、攻撃力が上がっている。
またしても10分程時間がかかったものの、撃破。
「はぁっはぁっ……や、やっぱ……疲れるね……」
約3時間後……
ひたすら町に戻り、洞窟に行きを繰り返し、
気が付くと、レベルは30まで上がっていた。
さらに洞窟の宝箱の中から、
『山紫水明の指輪』と『星屑のパレオ』を入手できた。
「う~ん、でもアクセサリか……」
本当はまとまった装備が欲しい。
まぁ、とりあえず装備はするんだけど……旅人の服にパレオ。
動きにくくなりそうだ……素早さは上がるんだけど。
そう思っていた矢先……
【この先に強力な敵の気配あり。先に進みますか?】
強力な敵……RPGで言う『ボス』だろうか?
あたしはとりあえずスキル、不屈の闘志を装備し……
「どんな感じの敵かな」
恐怖や不安より、好奇心の方が勝り、あたしは『はい』を選んだ。
そこに待っていたのは……
『ココニ名モ知レヌ者ガ来ルトハナ……』
「!?」
声が聞こえる。そして、声がした方を振り向くと……
『ソノ無垢ナル魂ヲ以テ、我ガ力ノ礎トナルガイイ!!』
そこにいたのは、銀色の三つ首龍。
真ん中の頭だけが、非常に大きな頭となっている。
「オオオオォォォ!!」
【トリグラフ レベル55】
ナツキのレベルを上げる方法はゴリ押しもいいとこですね……(笑
もう少しだけナツキの独白は続きます。




