雨音止まぬ「夏」は、大河の流れにその身を濡らす。 1
終盤を少し加筆しました。
さらに、中盤のVRMMOの場面を加筆修正しました。
体温計が鳴る。
「38.5度……お前、調子悪いなら言ってくれりゃよかっただろ」
ベッドにナツキを寝かせ、冷却シートを額に張り、マスクをかけさせる。
もちろん、俺もマスクを付ける。
「うう……ごめん、お兄ちゃん……お昼ごはん……作ったあたりから……
急に……しんどくなってきて……げほっげほっ!」
「無理すんな。……くそ、もう病院もやってねぇな……」
とりあえずナツキに聞いてみる。
「咳や熱以外に何か悪いとこはないか?」
「頭……ちょっと痛いかな……あと、喉も……げほっげほっ」
その話をメモした後、俺は外に飛び出した。
確か、近くに薬局があったはず。
走って5分くらいのところに……あった。星宮薬局。
「ぜぇっ……ぜぇっ……」
しかし夕方になっても、暑い。
マスクをしながら出てしまったためか、より一層熱い。
店に入ろうとした時だ。
「あ、すいません」
「?」
「今日、棚卸しの予定で、ついさっき閉めちゃったんですよ」
フード付きのパーカーを着た中性的な顔をした男の人が、申し訳なさそうに手を広げた。
「マジか……」
よく見ると、『本日棚卸しのため、17:30までの営業となります』
……と張り紙が張ってある。
「……緊急ですか?」
「あ、はい。妹が熱を出して、咳も出て、頭と喉が痛いと……」
男の人は、少し考えた後……
「……わかりました」
「え?」
すると男の人が誰かに連絡して……
直後に自動ドアが開いた。
「どうしたんじゃ?ホクト?」
店内に、中性的な顔立ちをした女の人と、白髪交じりの男の人がいた。
この店員の人は、ホクトという名前らしい。
「この人、妹さんが風邪をひいちゃって、薬が欲しいんだって」
慣れているように話している。……親子だろうか?
「なるほど……症状を聞かせてください」
俺はナツキの症状を話した。
「では、この薬でどうです?」
男の人が薬を持ってきた。
値段はそれなりに張るが……背に腹は代えられない。
「ありがとうございます」
「それと、これも」
さらに女の人が、紙コップに入ったスポーツドリンクを持ってくる。
「そんな、悪いですよ」
「悪くないです。熱中症で倒れちゃ余計に大変だと思うんで」
正直全速力でここまで走ってきて、汗だくだったのでこの気遣いはありがたかった。
俺は深々と頭を下げると、星宮薬局を出た。
…………
……しかし、あのホクトと呼ばれた男の人、どこかで見たような気が……?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「……」
その後店の外に出ようとするホクト。
「こらホクト、ミナミに頼んだんじゃからありがとうと言わなきゃダメじゃろ」
「……」
そそくさとホクトはフードを被ると、
「別に……ありがたいとも思ってないし」
そのまま店の外に出てしまった。
「……」
ミナミと呼ばれた少女は、悲しげな顔をした。
「アタシ、そこまで嫌われちゃってるんだな……」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日……
タイガ(Tiger):悪い。妹が体調悪いから、今日は行けそうにない
イベント前の忙しい時で申し訳ないけど、各自で調整やっといてくれ
イベントまでには復帰できると思うから
「……大丈夫かな」
心配するのはポラリス。
「リエっちゃんも今日インしてないみたいだし、どうしたんだろうね?」
「と、とりあえず……エーテル結晶を作りに行きましょうか……?」
「そのほうがいいな。タイガさんもリエータさんも、それを作ろうとしてましたし」
それにうなずく一行。
「タイガさん……リエータさん……」
不安そうな表情を浮かべるツバキ。
「心配はいらないよ」
それに対し、ポラリスは声をかけた。
「え?」
「タイガは、ボクたちを裏切らない。キミの時もそうだったよね?」
その言葉を聞くと、ツバキは少しだけ落ち着きを取り戻した。
「ありがとうございます。ポラリスさん」
「まぁ、大丈夫かなって言ったのは、ボクなんだけどね」
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その日の昼下がり。
ナツキの部屋のドアに手をかけ、静かに開ける。
ナツキは静かに寝息を立てている。
額に体温計をあてる。……………………36.6度。
どうやら薬がよく効いているようだ。
「……」
この調子なら、明日には元気になっているだろう。俺は少し安堵した。
……部屋を見渡す。
今どきの女の子らしい部屋だ。
「ん?」
と、俺はテレビの横に置いてあるノートが気になった。
「……なんでこんなとこに……直しとくか」
そしてそのノートを興味本位で開いた。
……開いて、しまった。
「……!?」
そのノートの内容に、俺は驚愕した。
「な、なんだよ……これ……?!」
・・・
今の能力(7月21日)
レベル46
HP:260
SP:250
腕力:85+30 知力:55+30 器用さ:30+20
素早さ:55+30 体力:61 精神:34+20
装備
武器:竜槍スヴァローグ
防具:ベロボーグメイル
アクセサリ1:山紫水明の指輪
アクセサリ2:星屑のパレオ
レベルが1上がって 知力に5振った
そしてお兄ちゃんにようやく出会えた
お兄ちゃんはボロボロになってた
でもしょうがないよね レベル低いのにオーバーソウルに襲われたから……
明日はメンテナンス またいろいろ考えないと
それとお兄ちゃんには 絶対バレないようにしなきゃ
もしあたしがこのゲームをすでにやってるって知ったら……
絶対お兄ちゃんに怒られるもん……
今の能力(7月23日)
レベル47
HP:290
SP:260
腕力:85+30(+20) 知力:55+30 器用さ:30+20
素早さ:60+30 体力:61(+20) 精神:34+20(+20)
装備
武器:竜槍スヴァローグ
防具:ベロボーグメイル
アクセサリ1:山紫水明の指輪
アクセサリ2:星屑のパレオ
職業は悩んだけどドラゴンライダーにした
だって 暴れるドラゴンを乗りこなすってかっこよさそうな気がしたから
さらにレベルアップで素早さに5振った
今日お兄ちゃんにバレそうになった……気がしたけど
お兄ちゃんは聞こえてなかったみたいでよかった……
それにツバキちゃん……どうしてあたしの話を聞いてくれないんだろう?
あたしならツバキちゃんを助けられる そう思うのに
今の能力(7月24日)
レベル48
HP:290
SP:265
腕力:85+30(+20) 知力:60+30 器用さ:30+20
素早さ:60+40 体力:61(+20) 精神:34+20(+20)
装備
武器:竜槍スヴァローグ
防具:ベロボーグメイル
アクセサリ1:山紫水明の指輪
アクセサリ2:星屑のパレオ
レベルアップで知力に5振って
さらにスヴァローグが超覚醒出来た
必要な素材、手に入るまで結構しんどかったけどね
落とし穴に落ちまくっちゃってお尻が痛い……
でも超覚醒できたけど、このスキルどうやって使えばいいの?
使いどころが正直、あんまりわからないな……
範囲攻撃ならレッドドラグーンでいいし、そもそも食らわないように立ち回りたいしね
今の能力(7月25日)
レベル49
HP:290
SP:270
腕力:85+30(+20) 知力:65+30 器用さ:30+20
素早さ:60+40 体力:61(+20) 精神:34+20(+20)
装備
武器:竜槍スヴァローグ
サブ武器:魔導銃ホルス
防具:ベロボーグメイル
アクセサリ1:山紫水明の指輪
アクセサリ2:星屑のパレオ
イベント3位!前回より落ちてしまったけど、トップ3には入れてよかった!
そしてレベルアップして知力に5振った。
新しく知力依存の武器を手に入れたけど、よほどのことがない限りは
レッドドラグーンやドラグーンバイトでいいね
そのよほどなことが、早速アキラちゃんとの勝負で起っちゃったんだけど……
にしてもツバキちゃん、どこに行ったんだろう……?
・・・
俺はその日記に釘付けになっていた。
竜槍スヴァローグ、ベロボーグメイル、ドラゴンライダー、
そう言った特徴と合致する人物は1人しかいない。
……ナツキが、リエータだったんだ。
だがナツキとリエータでは身長から違う。
最初の初期設定で、自分自身をアバターにしなかったんだろうな。
だから気付くのに時間がかかった。
でも……どうして俺に隠していたんだ?
――結構しっかり考えてるんだね、お兄ちゃん
――当たり前だ。一応ゲーマーなんだからよ
――で?何かわかったのか?今のを見て
――全然!
この時も。
――リエータ。お前ってさ……俺と会ったこと、ある?その……ゲーム以外で
――いや?
この時も……
わざわざ嘘をついてまで、俺に正体を隠す意味はあったのだろうか?
俺が手に入れることが出来なかったから?……そんなことないだろう。
現に俺は、別にナツキがゲームをやることにつべこべ言う筋合いも、意味もない。
しばらく品薄状態が続いていたとはいえ、それはナツキだけのせいじゃないだろう。
さらに部屋の中を確認すると……
「……」
あった。
ワールドオーダーオンラインのソフトと、VR機器が。
つまりナツキは、俺より先にこのVRMMOにデビューしていた。
そして、ビギニングイベントで優勝した。
そして昨日は、体調が悪い中リエータとしてオンラインに入り、
俺たちに気付かれないように素材を集めて……
なんとかしてログアウト。
俺に正体を悟られるわけにいかないから、VR機器だけを直して……
そこで、力尽きた。
そういうことだろう。
だとしたら、あの言葉も納得がいく。
ーーだって、VRMMOって……ゲームってそういうものだもん
ーーね?雨宮大河君
俺の本名を知っていて、当たり前だ。家族なんだし。
だからあのように言えたのだろう。
「……お兄ちゃん……!?」
……背後からの声で、俺はVR機器を落としそうになった。
というわけで今回からナツキ(リエータ)長編です。
ツバキ長編より少し長くなる可能性が無きにしもあらずです。




