一方そのころ、ポラリスたちは。 後編
「じゃ、行くよ!」
ディアナが大剣を構える。
それにつられ、エルとアレンも武器をパズズの方向へ向ける。
「……」
ボクも、弓を構える。
「ガオオオォォォ!」
パズズは大きく咆哮すると……
「な、何?」
ものすごい勢いで砂嵐が吹き荒れてきた。
そしてパズズの姿は、目の前から消えていた。
「……!?」
「消えた……」
そして地面を何かが掘り進む様な音が聞こえて……
「!?」
地面からパズズが飛び出した。抜群の素早さでそれをよけるアレン。
「{天地一閃}!」
ディアナが大剣を振りかざす。
しかしパズズにはかすりもしない。
「グオオオォォォ!」
さらに風を巻き起こす。これは……
「ディアナ!{ホーリー」
「{パワーシールド}!」
ディアナの裂帛に、竜巻が二つに分かれる。ラセンウインドだ。
「あっぶな……こんなのウチが食らったらぜってぇべぇじゃん……!」
冷や汗をかくディアナ。
さらにパズズは、上を向いた状態で……
「ガオオオォォォ!」
宙に舞い、高速で回転し始める。
すると巨大な砂の竜巻が、パズズを覆い隠した。
「なっ……!?」
砂の竜巻は、ごうごうとうねりを上げてこちらに迫ってくる。
しかも、真空刃を飛ばしながら。
「くっ……{スパローキラー}!」
ボクは竜巻に向かって弓を射る。しかし突風にあおられ、矢は地面に落ちる。
「{ミルキーウェイ}!{アローストライク}!{アローシャワー}!」
「ちょっポラっちゃん……!?」
……めちゃくちゃ?そんなの、ボクがわかってる。
対応策もなく、スキルばかり闇雲に使うことなんて、間違ってる。
それぐらい……間違ってるってわかってる。
ことごとく、ことごとく矢が落ちていく。
「もう……ポラっちゃん!なんというか全然だめだよ!
マジホワイトキックしちゃうんだけど!」
「……ご、ごめん」
ディアナが何を言っているのかわからなかったが、怒っていることくらいわかる。
……あれ?ボク、本当に何をしているんだろう?
「クソっこのままじゃ近付くことも出来ねぇ……!おい!ボクっ娘!ギャル子!
どうすりゃいいんだよ!」
「ギャル子!?それウチのこと!?」
「オメェしかいねぇだろ!」
目の前ではアレンが、パズズが飛ばす真空刃をひたすら避けている。
「アレっちゃん!避けてから、何とかできそう!?」
「そ、それは……こんな大規模な竜巻がある以上、近付くことすら難しいので……」
なおも避けるアレン。しかし徐々に真空刃に追いつかれつつある。
「……」
なら、どうする?ボクに……出来ることは……?
ホーリーシールド?そもそも風属性を跳ね返しても、オーバーソウルには効果がない。
矢の技は効果がないということがさっき明らかになった。
アップトリップ?使ってどうする?
砂嵐の中にいる敵の元へ、近付けるとは思えない。
「……」
こんな時、タイガなら……タイガならどうするだろう?
そう、考えているうちに……
「ちょっポラっちゃん!危ない!」
「え……!?」
突然、砂の竜巻の中からパズズが飛んできた。
「グガアアアアア!」
「!?」
その光景が、ボクにはスローモーションに見えた。
「……」
避けられる……はずがない。この速度じゃ、ホーリーシールドだって間に合わない。
ボクはパズズに引き裂かれる覚悟を、あっさりと決めた。
……決めて、しまった。
「……」
あれ、痛く……ない?
「ざっけんな……!」
「!?エル!?」
ボクの目の前にエルがいて、パズズの攻撃は、不動の構えでディアナが受け流している。
「ど、どうして」
「どうして?……それはこっちのセリフだ!」
エルが血相を変えた。
「オメェが何迷ってんのか知れねぇが、オレにゃどうでもいいんだよ!
{このギルドにいる意味があるのか}って?んなもん、オメェが決める事じゃねぇだろ!
そんな意味なんざ、今見つからねぇならこれから見つけりゃいいんだよ!
その{自分探しゲーム}なんざ、いくらでも付き合ってやっから、
いつまでもジメジメなよなよするのはやめやがれ!
オレの目標の、お前自身の価値を下げんじゃねぇよ!」
「!?」
――目的が見つからないなら、探せばいいんだ
――ゲームだって、そうだろ?
――探すのが難しくても、探す努力はした方がいい。
――そのほうが、楽しいだろ?
「……」
お兄ちゃんの顔が、目の前に見えた気がした。
同じゲーマーとして、目標にしていたお兄ちゃん。
……今はもう、この世にいないお兄ちゃん。
そして……今はボクが、お兄ちゃんと同じ『目標』になっている。
エル、アレン、そして……タイガの。
「どうすりゃいいか教えろボクっ娘!」
「……」
ボクはにこりと口を動かし、弓を構えた。
「さっきから何回も何回も……ボクは男だって!」
弓を構えたボクに対し、『何度やっても同じだ』と言わんばかりに……
「また回転してる……!?」
パズズが高速で回転し、竜巻を生み出す。
「……エル、アレン」
「おっ、何か考えたのかよ」
「お聞きします」
ボクは二人に耳打ちした。
「ディアナ」
「……ポラっちゃん。ピッカン来た?」
「もちろん」
……多少、主にボクが痛い目を見る気がする。
でも……やってみる価値はある。
「{バーニングソウル}!」
まず、ボクがバーニングソウルを、エルにかける。
「{アップトリップ}!」
すかさずワープ。
「ぐっ……!」
竜巻の衝撃で、体がピュンピュンと切れる。
引き裂かれそうになるが、何とかこらえて……
「{ミルキーウェイ}!」
一気に弓で攻撃。
パズズは驚いたのか、大きくバランスを崩し、地面に落下する。
その直後に竜巻は消滅し、広大な砂海が再び広がる。
「グルルルル……ガオォ!」
「{ホーリーシールド}!」
ひっかきをホーリーシールドで跳ね返し……
「……{サンライトキュア}!」
そしてサンライトキュアを……
「グル!?」
パズズにかけた。
あまりの不意の出来事に、パズズは動かなくなる。
「どうだ?ボクっ娘の回復は、結構効くだろ?」
アレンに背負われながら、アクアソリッドを自分の杖にかけるエル。
バーニングソウルと掛け合って、エルの杖の先からは湯気が出ている。
HPが全回復しているパズズ。つまり…
「{スマッシュ}!」
デストロイヤーを乗せた強烈な杖の打撃。パズズのHPは激減し、早くも虫の息だ。
「マジエルちゃんパないほど無慈悲!」
そしてディアナが、大剣を構えて……
「{秘剣・オオイカズチ}!」
渾身のオオイカズチ。それを受けたパズズは……
……消滅した。
「おっしゃあ~!」
「どうにかなりましたね!」
喜ぶエルとアレン。そしてボクは……
「……うっ」
思っていた以上に、竜巻の中に飛び込んだことでダメージを負い、その場にひざまずいた。
「ポラっちゃん!」
「うぅ……結構無茶しちゃったかも……大丈夫。サンライトキュア自分で」
その前に、エルがライフドロップ。
「……エル」
「……」
回復を終えた後……
「言っとくけど、まだまだ返し足りてねぇからな。……あの時のお礼」
エルは、豹変しているとは思えないくらい、柔らかな笑みを浮かべていた。
「……だね。エル。……それにしても……よく、竜巻の中に突っ込むなんてできましたね」
「タイガなら、どうしたかなって考えたんだ。タイガなら、多少は無茶するかなって。
だからボクもそのマネをしてみた。それだけだよ」
今までは合理性だけで戦ってきたけど……
仲間がいるなら、これくらいの大胆なことだってやってのけられる。
ボクも、タイガに似てきたかも知れないね。
「あ、そうだ。お宝……」
そう言ったディアナの視線の先に宝箱。
「……開けていいか?」
「もちろんだよ」
そこに入っていたのは、一振りの青い斧、そしてスキルの巻物が2個。
海神斧ポセイドン
【海の神の怒りを込めた、巨大な斧。腕力と精神が15増加し、
水属性技のクールタイムが20%減少する。超覚醒可能】
クリティカル 自動スキル
【相手への攻撃が、たまに{クリティカルヒット}となり、威力が増加する。
発生確率は器用さ、精神に依存する。
発動回数が一定以上でレベルアップ。発動確立が増加】
死神の呼び声 自動スキル
【HPが半分以下の相手を攻撃した際、たまに相手に追加で大ダメージを与える。
発生確率は知力、器用さに依存する。
発動回数が一定以上でレベルアップ。発動確立が増加】
まず、ポセイドンは……
「これは兄貴だな」
と、エルが即答。
「……いいのかい?」
「もちろん。斧を使うのはリエータやエルもそうだけど、
メインにしてるのはアレンだけだからね」
「ありがとうございます!では、早速……!」
アレンはポセイドンを持ち上げると、そのまま背中に納刀した。
死神の呼び声は、正直強いかどうかはわからない。
でも、活かせるのはタイガやリエータだろう。
クリティカルは……
「これ、ポラっちゃんじゃない?」
「え?」
「オレも賛成だ。一番器用さたけぇのボクっ娘だしな」
「そもそも僕は器用さも精神も足りませんし」
……それにしてもエルは、いつまで杖を持っているんだろう。
「ありがとう、みんな!」
今回のイベントに、ボクの強化は関係ないはず。
でも、これからに役に立つはずだ。
ボクは早速、クリティカルのスキルを付けた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「にしても一番の問題は……」
時を戻してギルドホーム。
「このギルドの名前だな」
「か、変えるんですか?やっと慣れてきたのに……」
「いや、エル、イベント上位ギルド、もつ煮込みとか結構あれだぞ」
するとリエータが手を挙げた。
「でも、タイガ君。一回しか名前変えられないよ?」
「だとしたら、慎重に考えた方がいいですね」
そう言えば、リエータとツバキには候補を聞いていない。
「お前らは何がいいと思う?」
「「う~~~ん……」」
「ごった煮チーム」(リエータ)「タイガ王国」(ツバキ)
同レベル……いや、それ以下だった……
「な、なんで土下座してるの?タイガ君……」
「土下座じゃねぇわ!落ち込んでんだよ!」
その時、声を上げたのは……
「じゃあさ、ボクが考えたギルドの名前があるんだけど……」
「ボクら団以外でですか?」
「黒歴史を蒸し返さないでくれアレン」
その名前をポラリスが見せると……俺たちはいっせいに声を上げた。
「いいんじゃないか!?これ。ちょっと洒落てるし」
「めっちゃエモいんだけど!本当エモいんだけど!」
「か、かっこいいです……!」
「僕もこれがいいと思います。絶対に!」
「確かに、テンションも上がるね、これ!」
「ポラリスさんすごい……!私なんて思いつきません!」
全員好感触だ。
「お兄ちゃんが、子供のころボクに作ってくれたんだ。
覗き込めば込むほど、違った見え方ができる。他の人も、ボクたちも。
だからピッタリだと思ったんだ」
「おっし、これでもう、決まりでいいよな」
全員異議がないようだ。
「……タイガ」
「ん?」
その名前に沸く中、ポラリスが俺に話しかけてきた。
「どうした?ポラリス」
「今までボクと一緒にいてくれて、ありがとう。これからもよろしくね」
「……?」
俺、感謝されるようなことしただろうか?
と、聞こうとしたが、ポラリスは俺からの言葉を聞かずに、みんなの元へ歩いていった。
「……俺こそだよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「……」
管理者室。シルバーが画面を眺める。
タイガたちから届いたギルドの新しい名前、それは……
【虹色の万華鏡】
「ふっふっふ、{しょーにん}!」
その名前に、大きなハンコが押された。
もつ煮込み改め、レインボースコープ結成です。
ちなみにポラリスは、もっと彼の家族に迫る長編を構想中です。




