ワンパン、それは男のロマン。…エルは女だが。
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洞窟を進んでいくと、セーフティーエリアに入った。
「お?いわゆるセーブポイントって奴かぁ?」
「ま、まぁ……そんなもんだ。少し、休むか……?」
すでにぜぇぜぇ言っている俺……
「それはこっちのセリフだタイガ」
武器は自動的に納刀され、椅子に座る。
こういうエリアは初めてだ。北の洞窟にもあったんだろうが、
レックスに改造され、消滅していたんだろう。
「ふぅ……」
疲れた様子のエル。……豹変してると疲れ知らずなのか。
「大丈夫か?エル」
「うん、ありがとう。お兄ちゃん」
帽子を脱ぐ。
「アレン、お前は兜を脱がないのか?」
メガネを拭きながら聞くと、アレンは……
「嫌です……!」
「?」
嫌です?
「あ、いや……つ、常に臨戦態勢でいたいんで……」
「……そうか」
まぁあまり追求しても仕方ないだろう。
「……」
入ってきた道と別の入り口から先を見る。どうも、まだ先があるようだ。
「……そろそろいいか?」
「はい」
「わ、わたしも、がんばります……!」
水辺にいるような敵から、徐々に敵がかわっていく。
【ファイアゴースト レベル32】
【ダークバット レベル30】
……まぁ、敵が変わろうが……
「オラァ~!」
この人の破壊力は相変わらず……なんだが。
かなり体力が高そうな……
「ゴオオオォォォ!」
【ストーンゴーレム レベル37】
「{アクアソリッド}!{スマッシュ}!」
奴でも1撃で倒せる。そう、腕力特化ならね。
「あ、何か落ちましたよ」
Get!【ストーンゴーレムの核】
「レア素材じゃねぇか!……多分」
「いや、レア素材だ。ストーンゴーレムの普通の素材は石片だ」
「お、やっぱそうか!やったぜ!」
レベルが上がる。そしてダークナイトがレベル5になり……
スキル『グラビティドーム』を取得しました
グラビティドーム 闇 消費SP:30
【ダークナイト専用スキル。相手を重力波の結界の中に閉じ込め、動きを止める。
重力変化が効かない敵には無効。クールタイム:2分】
相手の動きを止める技か……
出来ればそろそろ長剣か闇スキルが欲しいが、まぁいいだろう。
グラビティアップ、ダウンより使いやすそうだし。
「お、オレもスキル覚えたぜ」
スキル『瞑想』を入手しました
瞑想 自動スキル
【一定時間攻撃せずにじっとしていると、その後一定時間スキルの攻撃力が上がる。
戦闘中以外には効果がない。レベルアップで効果発動までの時間が短縮。
スキル発動回数が一定以上でレベルアップ】
これまた、エルのためのスキルと言って過言ではないスキルだ……
一定時間、攻撃をせずにエルを守った上で、攻撃力が上がったエルに、
デストロイヤー効果を乗せた攻撃をぶっ放してもらう。
……今、俺の中でゲームバランスが崩壊していく音が聞こえた。
「僕も職業レベルが3に上がりましたね。そして新しいスキルを覚えました」
アレンが端末を見せる。
大海原 自動スキル
【水属性攻撃を受けると、素早さが大幅に上がる。雷属性攻撃を受けると大幅に下がる。
水属性攻撃を受けた回数が一定以上でレベルアップ。効果時間が増加】
「これは……ダメだな」
つい、声に出てしまった。
「え?どうしてですか?」
「考えてもみろ。水属性を受ける前提だぞ?もしオーバーソウルとかで使ってみろ。
例えばこの間のコロンゾンみたいに。
ダメージを受ける、すなわち回復とかの手間になるし、そもそもお前回避盾だろ」
「言われてみれば……確かに……」
そう言えば、この二人のスキルは今どうなっているんだろうか?
後に確認しておこう。一応俺がギルドリーダーだし。
さらに奥に進む。
道中にいる敵の数が多く、なるべくSPを温存したいところと考えていたが、
「オラオラオラウォラァ~!」
安定のエルの破壊力。
「……タイガさん、少し思うんですが」
「言うな、自分で自分の存在意義なくすことねぇだろ」
だがそのエルの圧倒的攻撃力によるワンパンもあり、
さらに俺は1、エルが3、アレンが2レベルが上がった。
「調子いいなぁオレ!惚れ惚れしちまうぜ!」
うん、まったくもってその通りだと思う。
行き止まりのような場所にたどり着いた。
だがここまで一本道だったので、ここが最深部……のはず。
「?」
そこに巨大な石の扉が。
その石の扉には、石板が掛けられていた。
【二ツノ青キ息吹 二ツノ黒キ息吹 双方ヲココニ注ガバ 道ハ開カル】
「につの青き息吹……?」
「多分{ふたつの}だと思うんだけど」
エルに対するアレンのツッコミが早い。
でも、青き息吹と黒き息吹……
「……魔法の事か?」
「お、それじゃんぜってー!さすがメガネは伊達じゃねぇな!」
「メガネ関係あんのかよ」
試しにエルとアレンが、そろってウォーターボールを撃つ。
……甲高い音と共に、扉全体が青い色に染まって、
その後、石板に収束していって……
「……」「……」「……」
……………………終了。
「……なんだこれ」
「さぁ……」
だが、これでわかった。
魔法に対して反応する。つまり、黒き息吹は……闇属性だ。
このギルドで闇属性は、まず俺。
……以上。
詰んでるんじゃないか……これ……
「……ど、どうする?」
「どうするって言われても……」
途方に暮れていた、その時だ。
パン パン パン
「?」
突然3回手を打つ音が聞こえたと思うと、背後に燕尾服姿の人物が立っていた。
「いやはや、こんな場所までたどり着くなんて、やっぱキミたちすごい!」
「なんだオメェ、待ち伏せしてやがったのか!」
杖を構えるエル。
「おっと~?自分、そこまで強くないし、ここで戦いたくはないかな~」
「じゃあ……何の用だよ」
なおも杖を向けるエルに対し、
「いやいや~、杖構えたままの人には話せないよ~。
キミ結婚の報告を相手のご両親にする時、
{息子さんを私にくださ~い!}って言いながら剣構えてる~?
お話する時は、相手の目を見ながら、警戒心解きながらやるものだよ~?」
と、身振り手振りを交えながら言う。
「……ち、イラつくが、しゃあねぇ」
エルは杖を納刀した。
「男のくせに、なよなよした奴だな」
俺がそう言うと……
突然『女』は矢を射かけてきた。
「っぶな!?」
ギリギリでよける。いや、女が『意図的に外した』のだろうか。
「性別を間違えるのが、一番失礼なんだよ~?次からは間違えないでねっと!」
自分、そこまで強くないし、ここで戦いたくない?
嘘をつけ。
今の弓を射かける速さと、意図的に外すコントロールの良さ。
これは相当な手練れだ……
「アタシの名前はサザン。列記とした、ピッチピチの女の子だよ!」
どや顔を決めながらそう言ってくるサザンに対し、
「わ、わたし……あまり得意じゃないです……」
エル、明確な拒否反応。
「むう、ひどいなぁエルちゃん」
「正直、僕もあまり」
「俺もだ」
我ながらひどい集中砲火だと思う。
「うわ~、泣くわ~、泣くわこれ~。前回初登場なのにひどいことするね」
「何言ってんだよお前」
「そう言うこと言ってると、後々ひどい目見るかもしれないよっ!」
そう言ったサザンは、いきなり闇の球体を投げつけてくる。
俺が間一髪でよけると、そのままサザンがこちらの背後に回り込む。
……ん?背後?
「やる気ってことか……{シャドウレーザー}!」
そして俺が背後に向かってシャドウレーザーを撃つと……
「!?」
突然唸りを上げて、巨大な扉が上側に引き上げられる。
「な、なんだ……?」
「あれ?さっきの人は?」
アレンの言葉で辺りを見渡すと、サザンの姿は跡形もなく消えていた。
俺が倒した?そんなはずはない。
そもそもシャドウレーザー一発で倒せるとは思っていない。
ステータスを見ていればよかった。少しだけ後悔した。
「……とりあえず、今のも闇の魔法……だから開いたんだろうな。
先に進もう。サザンって奴の事も気になるけどな」
石の扉の先に進むと、小さなウサギが眠っていた。
「……ウサギ……?」
エルが近付く。
「気を付けろ、敵かも知れない」
「は、はい……わかってるって」
本当に杖を持った瞬間人が変わるんだな……
「僕たちも一緒に行くよ、エル」
「何が起こるかわからねぇからな」
「二人とも心配性だな本当。でも、ありがとな」
そしてそのウサギに、そっと手を伸ばすと……
『まあ、あなた様がたが、私を封印から呼び覚ましてくれたのですね』
ウサギの声が、頭の中に響く。
「……い、いや、オレ、ほぼなんもしてねぇんだけど」
『過酷な道を経て、ここまで私を助けるためにやってきたあなた方に、
我が満ちた月の加護あらんことを……』
ウサギの目の前に、青白いローブが現れた。
「……」
『いや、過酷な目にあったのはむしろモンスターの方だったんだが』
って言葉は言っちゃいけないと思った。
「お、これもしかして……」
確認してみる。
月輪衣アルテミス
【月の女神の加護が施された衣。知力と素早さが20上がり、
光属性のダメージを一定確率で半減する。超覚醒可能】
「やっぱり、証装備だ!」
「ここにたどり着くだけでもらえるってのは、随分な大盤振る舞いだな。
で、どっちが装備するんだこれ」
アレンはエルの方を向く。
「お、オレ!?」
「あぁ、俺もそれがいいと思う。素早さは少しでも上げておきたいし、
アクアソリッド用にSPも欲しいしな」
そういうことなら、と、エルがアルテミスを着る。
ぴょこん ぴょこん
「「!??」」
「おお!これピッタリ合うじゃねぇか!こういう装備があって嬉しいぜ!」
喜ぶエル。しかし俺たちは、エルの頭から目が離せなくなっている。
「?……なんだよ。頭じゃなくて、オレの服見てくれよ」
「い、いや、エル……頭……」
「あ?」
エルは、頭を触ると……
白い、もふもふしたウサギの耳が生えていた。
ついでに、尻の部分にはウサギの様な尻尾も。
「……!?……な、な……!?」
「なんじゃこりゃあああああああ!!」
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「……て、わけなんだ」
「あ~、あたしついタイガ君が血迷ったのかと思っちゃった」
「血迷うかぁ!一応許可得てからやるわ!」
「許可得れたらやるんですね……」
アレンの冷静なツッコミ。
「でも、その洞窟確か謎解きがあったはずだよ?ウチもそこまでしか行けなかったもん。
どうやって解いたの?」
「あぁ、ちょうどサザンってチャラい闇属性使いがいたから……」
その瞬間、俺ははっとした。
「……どうしたの?タイガ」
サザンとポラリス、髪のくせの感じや、顔立ちがそっくりだ……
「……タイガ?」
「あ、え?いや、何も……」
まさか、偶然だよな?
俺はあえてその疑問を、自分の頭から消した。
偶然だ。きっと。
偶然……なんだよな……?
「あ、それでツバキちゃんなんだけど……」
リエータの声で我に返る。
「今までと同じように、ツムジニンジャに進職させて……ステータス振ってもらったよ」
「はい。これで……大丈夫ですか?」
ツバキのステータスを見る。
「あぁ、いいと思うぞ」
「あ、ついでにわたしのウルフコートも着てください。SPは10減っちゃいますが……」
「ありがとうございます」
最終的にこうなった。
ツバキ レベル20
得意武器:装具 得意属性:風 サブ属性:雷
職業:ツムジニンジャ(1/15)
HP:190
SP:110
腕力:36+20(+10) 知力:21-10 器用さ:1(+10)
素早さ:56(+30) 体力:11+20(+10) 精神:11(+10)
装具使いとして理想的なパラメータだ。
「リエータさんに助けられっぱなしで……本当にありがとうございます」
「ふっふっふ~。もっと頼ってもいいんだよ!」
どや顔を決めながら胸を張るリエータ。
仲がいいんだな。二人とも。と、俺はつくづく思う。
にしても、リエータ……本当に、誰とでも仲良くなれるんだな。
エルが徐々に火力だけ見れば人間をやめだしています。
実際にゲームで攻撃力特化をやる場合はどんな風になるんでしょうか?




