かくて光へ伸びた「椿」は、大きく花開く。 後編
この小説の累計文字数が、20万字を突破しました。
この小説、文字が多すぎる気がしないでもないです(滝汗)
とりあえず今回で、ツバキ関連の長編は完結です。
サブタイトルを変更しました。
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「キミのおかげで、本当に助かったよ。感謝してる。
今日は、あたしのおごりでいいからさ。じゃんじゃんサイダー飲んで?」
リエータが、酒場でアキラと会っている。
「何が……僕はただ、弱者が虐げられるのが耐えられなかっただけだ」
そう言いつつ、サイダーをグイっと飲み干すアキラ。
「でもびっくりしたよ。まさかアキラほどの真面目な人が、掲示板に出没してるなんて」
「君のところのポラリスや、ディアナもそうだろう?」
「あ~、まぁ、そう思われるのも無理はないかな」
オレンジジュースを飲み干す。カラカラと、氷が擦れあう音が聞こえる。
酒場の中は、殺気ではなく、穏やかな空気に戻っている。
「それにしても、君たちのギルドには驚かされた。まさか……
最大規模のギルドを、1日と持たせずに壊滅に追い込むとはね」
「ん~、君たち君たちっていうけど、あたしはまだ入るなんて言ってないよ?」
アキラの瞳が光る。
「……あれ?もしかして、バレてる?」
「バレてるも何も……君は言っていたじゃないか。
気になるんだろう?君の{お兄ちゃん}の事が」
指と指を絡ませ、顔の前で組む。
「何度も言うが、君の事も、君の兄の事も、僕は言う気はない。
それだけは、安心してくれ」
「ありがと」
リエータは、サイダーの代金になる分のマナを置き、酒場を出た。
「……」
酒場に取り残されたアキラは、端末を操作する。
「もつ煮込み……この名前だけが残念だな」
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翌日……
――立花ホールディングス社長の男を逮捕
――両親殺し 改造行為 他、余罪多数
――提携企業撤退相次ぐ 立花ホールディングス存続の危機
朝刊もワイドショーも、この話で持ち切りだ。
夏休みの宿題を軽く進めた俺は、昼前に父さんからかかってきた電話に出ていた。
「てことは、シドウは全面的に容疑を認めてるのか」
1階に降りながら、俺は父さんに電話している。
「あぁ。両親の殺し、妹をはじめとした数多くのキャラクターの改造。
さらに余罪も多数って、調べで分かった。
あいつ自身が大筋で認めてるから、多分立件に向かって滞りなく進むと思うぜ」
「新聞に載ってたな……こういうことは早いんだよな。マスコミも」
「にしても……たまたま同じゲームやってたやつがそんな犯罪に手を染めてたって、
想像しただけで恐ろしいなぁ。本当に」
父さんのその言葉に、俺は改めて震撼した。
本当に……止められてよかった。
「シドウの妹にも一応事情聴取はした。でも同じように逮捕した容疑者曰く……
彼女は抵抗できないまま、改造をさせられた、いわゆる被害者だ。
一応厳重注意しておいたが、逮捕や立件はされることはないだろう」
その言葉を聞いて、深く安堵する。
「それで……お前、いい奴は見つかったのかよ」
「は!?」
いい奴!?つまり恋人!?
「な、な、な、な、何言ってんだよ!?」
「いや、ワールドオーダーオンライン調べてみたんだが、アバター使ってやるゲームだろ?
そんな中でカワイ子ちゃん、見つかってないのか?って話」
「い、いねぇよ!とりあえずまた仕事がんばってくれ!なんかわかったら連絡頼む!」
俺は逃げるように電話を切った。
……本当は現を抜かしているなんて、恥ずかしくて言えない。
恥ずかしすぎて、言えない。
い、いやいや、VRMMOだし、アバターの設定も最初に設定できる。
冴えないおっさんが、女の子に設定してプレイしていることだってありえる。
……ツバキに至ってはさすがにそれはないはずだ。写真にも載っていたし、
逮捕されたのは兄のシドウだし。
でもほかの奴は……
……リエータ、実は怪しいかも知れない……
台所に入ると、香ばしいにおいが鼻をくすぐった。
「お兄ちゃん!今出来たとこだよ!」
ナツキがソース焼きそばを作っていた。上には半熟の目玉焼き。
「お、うまそうだな。早速食わせてもらうぞ」
「うん!いっただっきま~す!」
目玉焼きをくずし、焼きそばと絡めるナツキ。
……そうだ。これが本来のナツキだよな。
何があったかは知らないが、また元通りのナツキに戻ってよかった。
「お兄ちゃん?」
「……あぁ。何も」
ズルズルと焼きそばを口に運んで、
「……何かいいこと、あったんでしょ?」
動きを止める。
「……なんでそう思う?」
「だってお兄ちゃん、何だか今日テンション高めだし」
見透かされているんだろうか。
しかしナツキ、妙に勘が鋭い時がある……
「そういやお兄ちゃん、お兄ちゃんのやってたゲームに、レックスって改造プレイヤーがいたって」
「あぁ。まぁ、もう運営に通報したし、ワイドショーでやってた通り……」
ん?
「お前、なんでシドウのやってたアバターの名前知ってんだ?」
「!?」
ナツキは一瞬だけ動きを止めてから、
「ね、ね、ネットに載ってたの!うん!」
ネットに載ってたと言うことは、ポラリスやディアナの書き込みだろうか?
……今思えば、リエータのあの発言も少し気になった。
――今の言葉、全部録音させてもらったからね。今更後悔したところで遅いよ?
録音して……誰に聞かせるんだ?運営者に通達しても仕方ないだろうし……
もしかして、父さんに匿名で通報したのは俺だけじゃないのか?
「ほ、ほら、お兄ちゃん。早く食べないと冷めちゃうよ!」
「お、おう、そうだな。悪い」
焼きそばを頬張る。
……うまいな。
本当、ナツキが作る料理はなんだってうまい。
後は頭さえよければなぁ。
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管理者室……
「……」
ログインした後、ツバキはここに飛ばされた。
目の前に、管理者のサファイア、シルバー、ルビー、パールがいる。
「何故キミがここに呼ばれたか、わかるね?」
シルバーが静かに言う。
「わかっています。このワールドオーダーオンラインにおいて、改造を働いていた……
レックスの罪を、黙認していた罪です」
「レックスの罪を止められなかったのはやむを得ないことでしたが、
止められるのも、あなたに出来たことですねぇ。それなりの罰は、覚悟してもらいますよぉ」
「……兄を止められただけで、私は満足です。どうか、ご存分に」
頭を深々と下げるツバキ。
「……いいのかよ。それで」
「え?」
パールの言葉に、顔を上げたあと、軽く顔を下げ、うつむく。
「……はい」
「では、キミの望む通り罰を与えよう。少しまぶしいからね。目を閉じていたまえ」
何かにハンコを押すシルバー。すると、ツバキの体は青く光った。
……そして、その光は消え、ツバキの体だけが残った。
「うむッ、と言うことでキミへの罰は、レベル1からやり直しッ!」
「え?そ、そんな!?そんな罰でいいんですか!?」
「あなたが被害者と言うことは、運営に寄せられたメールなどで把握しています。
それに、あなたのステータスも、レックスに決められていた、と言うことも。
よって、あなたを操っていたレックスと同じ罪にする。
果たしてそれはいい事なのか?となりました」
ツバキはなおも、戸惑いを隠せない。
「他でもない管理者のオレらがいいって言ったんだ。これからは自分で考えて、
自分で能力値振って、自分で成長すりゃいいんだよ」
「新しい出発を、私は応援しますよ」
「それを見守るのも、僕の役目ですしねぇ」
「キミに言いたいことはひとつだ」
前足でメガネをクイと上げ、シルバーはこう言った。
「キミは、キミを信じた人の絆を{裏切る}つもりかね?」
……その瞬間、ツバキの目に光が宿った。
そうだ。最初から、自分に欲しかったのは……
確かに見えているけど、目には見えないもの。
「……ありがとう……ございます……!」
「ハッハッハッハッ!礼を言われる筋合いはないよッ!
さぁ。早くステータスを割り振って、キミを待つ仲間の元へ、急ぎたまえッ!」
「はいっ!」
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「てことは、カイとイズミ、警察に出頭したのか」
ギルドホームの中に、俺、ディアナ、エル、アレンがいる。
「ま~、罪を償いたいって動画で言ってたしね。安定の手段だったんじゃない?」
カイはともかく、イズミはレックスに従順だったと聞く。
とはいえレックスの命令で改造を受けていた。と言うことだ。重い罪にはならないだろう。
「しかしまぁ、なんだ」
俺は端末を操作しながら言う。
「なんか……俺らへの評価、半ばおかしくなってねぇか……?」
掲示板には、俺たちのギルドをたたえる声や、俺たちのギルドの強さを示す声。
「仕方がないですよ。最大の巨悪ギルドのダークリゾルブを、1日経たず壊滅させた……
そのことは紛れもない事実ですしね」
「わ、わたしの名前まで載っています……!{極振りの破壊者、エル}……
わ、わたし、有名人……ですか?」
一応調べてみる。
「漆黒の魔剣士タイガ、烈光の大天使ポラリス、ショッキング大剣ディアナ、
極振りの破壊者エル、残影の鎧騎士アレン、紅蓮の竜騎士リエータ……
……いやいや、なんだよこの何かの手配書みたいな通り名」
このゲームでトッププレイヤーを目指している身だが、こんな名前はノーサンキュー。
自分で『漆黒の魔剣士タイガ』と名乗るとか、さすがに寒さが過ぎるだろ。
え?『ならタイガーズの件はどうした』って?やかましい!
「ショッキング大剣ディアナかぁ。せめて{やばたんな大剣使いディアナ}
にしてほしかったなぁ、微妙に語呂悪さんだし」
「ショッキング(衝撃)ってことで、雷が落ちる様子と合わせてるんだろ?知らねぇけど」
しかし、噂が広がるというのは、早いものだな……リエータは元から……
ん?ちょっと待て。
残影の鎧騎士アレン、紅蓮の竜騎士リエータ。
……
残影の鎧騎士アレン、紅蓮の竜騎士リエータ。
「リエータまで入ってるじゃねぇかこのギルメンの中に!?」
「いや、気付くの亀速!?」
そこへ……
「まぁ、でもリエータは……満更でもないみたいだよ?」
入り口の扉を開けた先に、ポラリスとリエータ。
「紅蓮の竜騎士って、なんだかかっこよくない?タイガ君」
「……てか、お前は俺たちのギルドに入ってることに文句はねぇのかよ」
「う~ん。ダークリゾルブ壊滅に付き合っちゃったしね。そもそも
{強すぎるから頼りにしたくない}とか{お前を倒すためにギルド組んだんだ}とか、
よく言われるし……タイガ君さえよければあたし、ずっとここにいようかなって」
リエータは柔らかな笑みを見せる。
「それに、ツバキちゃんも」
ツバキはギルドホームの中に入ってきた。
動きやすそうな服に、椿の花のような赤いロングコート。
そして腕と足には、青い装具。
ツバキ レベル1
得意武器:装具 得意属性:風 サブ属性:雷
職業:武闘家(1/10)
HP:70
SP:60
腕力:16+10 知力:11 器用さ:1 素早さ:26 体力:1+10 精神:1
武器:大海の装具
【大海原の荒れるさまを体現したとされる、青い装具。
腕力、体力が10あがり、水属性耐性が20%アップ】
防具:シラヌイコート
【真っ赤に燃える炎のように赤いコート。素早さが10上がり、
火属性の被ダメージを20%落とす代わりに、水属性の被ダメージを20%アップ】
腕:(装備不可)
アクセサリ1:なし
アクセサリ2:なし
「一応必要最低限の装備は揃えておいたよ。下手にスタイルを変えるより……
そのままのスタイルで戦った方がやりやすいかなって思って」
「何から何まで……ありがとうございます。ポラリスさん、リエータさん。
それに……みなさんも」
ツバキのその言葉に、安堵の表情を浮かべる俺たち。
「特に……」
俺の方へ歩み寄る。
「タイガさんには、なんとお礼を言えばいいのか……
もしあの時、タイガさんが私を追って来ていなければ……私は……」
「まぁ、俺としてもこのまま終わるってのは、気持ちが悪かっただけだしな」
「で、ですから……」
ツバキは急に、ドギマギしだす。
「口では言い切れないので、お礼……させてくれませんか?」
「お礼?何言ってんだよ。これは俺だけの力じゃない。俺たちのギルドの力だ。
だから俺がお礼をされる筋合いなんて……」
……突然ツバキが、俺を抱き寄せて、
「なんに……も……」
ちゅっ
俺の左頬に、その柔らかな唇が触れた。
「「「「「!!!!!?????」」」」」
目を白目にし、あんぐりと口を開けるポラリスとリエータとディアナ。
表情はわからないが、おそらく同じ状態のアレン。
そしてなぜかガッツポーズを前で取るエル。
ツバキは照れながら、半歩下がる。
「こ、これが、精いっぱいの、お礼です」
……そして俺は……頭から湯気の様なものを噴き出し(た、ような感じになっ)て……
仰向けに倒れ、暗転。
「うわああああ!タイガ!しっかり~~~!」
「タイガ君!冷たい飲み物いる!?」
「タイちゃん!バキっちゃんのどんな味だった!?リア充になれた感想は!?」
「仰ぎましょう!うちわか何か……!」
「タイガさん……ロマンチックです!ロマンチックすぎます!うらやましいです!!」
一斉に俺を心配する声が聞こえた。
……彼女いない歴=年齢の俺に、刺激は強かった。
嬉しいかって?当たり前だろう!?
……後で聞くと、ツバキはこの時、非常に心穏やかな笑みを浮かべていたという。
それはまるで、大輪の花が咲いたようだっただろう。
もう、ツバキに不安はない。迷いもない。そして……
これからは、共に戦ってくれる。
これからは、のびのびとこのゲームを遊んでくれる。
それだけで、俺には十分だ。




