闇に沈む「椿」の花は、希望の光に焦がれて。 6
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……作戦はこうだ。
まず、リエータが竜神降臨を使って、俺とツバキが町から脱出する。
次に、フレンドワープを使って、ポラリスとディアナが移動。
入り口はおそらく、俺たちの潜入がばれればダークリゾルブが集まり、激戦となるだろう。
何故ダークリゾルブが集まってくるか?と言うと、エル、アレンの言っていた町の様子だ。
いくら掲示板で色々話題になったからと言って、これほどすぐに……
とりわけ、ディグの武具屋に人が殺到するとは考えにくい。
おそらく各地でダークリゾルブが複数人に分かれ、扇動している。
そう考えたからだ。
リエータは竜神降臨の効果が切れると弱体化してしまう。
だからそこに、切れるタイミングでエルとアレンがフレンドワープする。
俺たちが向かってから、10分後に向かうよう伝えておく。
入り口は高火力の二人に任せておけば大丈夫だろう。
そして俺とツバキが最深部、レックスの部屋を目指す。
ポラリス、ディアナは俺たちを追撃して来ないよう、ここも戦闘の要だ。
それに……
「多分、洞窟の中に何らかの改造の証拠が残ってるはず」
「……どうしてそう思う?」
「う~ん……ダークリゾルブが洞窟の内部まで封鎖していることから、かな。
ここまで厳重だと、何だかにおうんだよね。で、もし証拠を見つけられたら……」
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「……」
ポラリスとディアナは、すでに40人ほどの敵を撃破している。
「息切れ一つしてないとか……ポラっちゃんゲロ体力あるじゃん」
「まぁ、タイガと比べてもある方……とは思ってる」
恐慌するダークリゾルブ。
「お、お、おのれ……!なぜだ……なぜ突破できない……!?」
「なんでだろうね?キミたちにはわからないと思うな」
「わかってても教えてあげないよ。この陰キャ!」
と、そこへ……
「やれやれ、役立たずはやはり何の道具にも使えませんか」
「!?」
ダークリゾルブたちの背後から、男が現れた。
結晶鳥の巣で倒したことのある男だ……
「フッフッフ……ついにあなたをギッタギタに出来る。
ワタシの顔、忘れたとは言わせませんよ……」
「……」
首をかしげるポラリス。と、ディアナ。
「……」
すると男は、ある魔法を自らに使った。
「{ネクロウイスプ}……!?」
赤黒い球体が、男の体の中に入り込む……
「覚えていようと、覚えていなかろうと、どうでもいいですよ……!
レックス様はワタシ……」
そのまま、男の体から赤黒いオーラがほとばしる……
「俺様に、力を分け与えてくれたんだ……お前らの様なクソを掃除できる力をなァ……!」
「……改造……」
「間違いないね」
そのオーラは、あたりの空気を一変させるほどだった。
息苦しいほどの殺気が、周辺に充満する。
「!?{パワーシー」
「死ネェ!!」
ディアナが大剣を突き刺すより早く、男はディアナに走り寄った。
「!?」
そのまま首を掴み上げる。
「ディアナ!?」
駆け寄ろうと、足に力を込める。
「行くぞお前らぁ!シェイド様につづけぇ!」
男たちが一斉に駆け寄ってきて、進路を妨害する。
「くっ……{アローシャワー}!」
周囲に矢の雨を降らせようと、弓を構えるが……
「ヒャアッハッハァ~~~!」
「!?」
シェイドと呼ばれた男が、これ見よがしにディアナを見せつける。
「ぐっ……ポラっちゃん……!」
まるで、ポラリスに動くなと言っているようだ。
「……」
「ア~ッハッハッハッハァ~~~!!」
そしてシェイドが、ディアナの腹に一発。
「がっ……!」
二発、三発、四発。
「ハ~ッハッハッハッハッハァ~~~!ハ~ッハッハッハッハッハァ~~~!!」
シェイドはけたたましいほどの笑い声を上げながら、ディアナを闇雲に殴り続ける。
「ディアナ……!」
「やっちまえ~~~!」
別の男たちがポラリスに群がる。
「くっ……!」
同時刻、北の洞窟入り口。
「ふぅ~、あらかた片付いたってとこか?」
戻ってきてはエルかリエータにやられ、戻ってきてはエルかリエータにやられ。
現実に起きているなら、死屍累々。と言う所だ。
「ふぅ……さすがにきつかったわ」
「でしょうね……リエータさんだけでどれくらい倒してましたか……?」
「いや、違うわよ。竜神降臨のクールタイムを狙われたら危なかったわ。
エルちゃんやアレン君がいたから、だよ」
褒められると、エルは少し顔を赤くした。
「照れてる」
「う、うっせぇ兄貴!」
3人で洞窟の方向に向き直る。
と、その時だ。
キラン!
「ごはっ!」
「!?」
ダークリゾルブの1人が、突然現れた。
「な、何だ!?まだ残党がいたのかよ!」
杖を構えるエル。しかし、リエータは……
「待って」
と、制止。
「……アレン君」
「……わかりました」
アレンがライフドロップを使う。
「なっ!?どうして回復させん……」
人差し指を自分の唇に添えるリエータ。
「……ま、まぁ、リエータさんがいいなら……」
「う、ぐうう……」
男が目を覚ます。
「大丈夫?」
「……アンタは……リエータ!?なんでこんな場所に!?」
「さ、なんでかな」
慌てて長剣を構えようとする男。しかし……
「がっ……!」
右腕を押さえる。
「やめて。無駄に命を奪うことはしたくないから」
「……ぐっ……」
うずくまる男。
「……頼まれてくれる?」
「……はい」
リエータは槍を納刀する。
「お、おい……この男、どうすりゃいいんだ?」
「エルちゃん。お願いがあるの」
耳打ち。
「……あ~、わかった。やってみる」
「頼むわね」
そしてリエータは、洞窟の中へと走りだした。
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地下二階に降りた俺とツバキ。
「こ……この奥が……」
「えぇ。兄さんのいる部屋……」
巨大な扉が目の前に見える。……見えるのに……
「ぜぇ……ぜぇ……」
リエータでもないのに、肩で息。
「だ、大丈夫ですか……?」
「あ~……1分くれ……」
こんな状況でも体力がないとは。やれやれ、情けない……
「……」
ツバキは、扉に手を添えていた。
「……怖いか?」
「……怖さは、不思議とありません。ただ……」
「ただ?」
「……」
やはり、まだ迷いがあるのだろうか。
これほどひどい目に遭ってきたとしても、兄妹と、思えるんだろうか。
ツバキは……やさしすぎるんだ。
迷いを自ら晴らすように、首を横に小さく振る。
「では……開けます」
「あぁ」
扉をゆっくりと開ける。すると……
「……」「……」「……」
「!?」
3人の、かつてのツバキの装備を装備している人物が立っている。
「こ、こいつら……!?」
「ようこそ、タイガ。オレの部屋へ」
奥からレックスが歩いてくる。
黒いローブに、黒いロングヘア。そして手には、長剣を持っている。
「行け」
その号令と同時に、ツバキの装備をした奴らは俺たち……
「!?」
の、間をすり抜け、部屋から出ていった。
「どうだ?オレは優秀な道具を持っているだろ?」
「道具……だと……?……何をさせに行ったんだ」
「お前たちの大切な仲間を、消しに行ったんだよ?」
ニヤニヤと笑いながら言う。
「何を考えているかはわからないけど、オレに勝つつもりでここに来たんだろうね?
無駄だ。オレの道具は大量にあるんだ。せっかくだし、ひとつひとつ言ってやろうか?」
道具……悪びれる様子もなくそうつぶやくレックスに、全身の血液が熱くなってくる。
「まずひとつ。オレはお前たちの噂を流すために町に大量の奴らを放ってる。
そして暴徒化した奴らが……お前らをぶっ潰そうと、もうすぐここにやってくる。
ふたつ。この洞窟の中にはオレが改造した奴らが大量にいる。
例えばネクロウイスプを使って暴走する奴や……ブラックソウルを無限にかかるように……」
「そしてそいつらは全部終わったら、元にデータを戻すってことか?」
「無論だ。そしてオレが改造したという証拠は消える。仮に、万が一、いや、億が一、
オレが追い詰められても……それはオレのせいにならない。罪を被る{道具}があるからな。
お前の様な虫けらがいくら喚いたところで、それは届かないんだよ」
そう言いながら、高笑いをした。
狂っている。完全に狂っている。
もし俺たちが『虫けら』だとしたら……こいつは……なんだ?
「人を……道具としか思っていないんですか……!?」
「そしてさっきこの部屋から出た奴らが、お前のギルドメンバーにトドメをさしていくのさ。
オレに感謝してくれ。お前は仲間が傷付く姿を見ずに済むんだぞ?嬉しいだろ?」
「兄さん……答えて!兄さんはどうして」
「もっとも、お前は今から死より恐ろしい事を経験するんだがな!」
……ダメだ。こいつはツバキの言うことに答える気はない。
「お前……聞こえてないのかよ。仮にも血のつながってる家族だろ!?」
「あはははははははは……!」
必死になって耐えているツバキ。
「あはははははははは……!ははははははははは……!」
下卑た笑い声が、部屋の中にこだまする。
「{シャドウレーザー}!」
そして光線を撃つ。レックスには命中しなかったが、その力で後ろの壁が崩落。
「……どういうことだ貴様」
血相を変える。
「オレはこの世界の王になる男だぞ……?そのオレにゴミに等しいお前が……
歯向かっていいと思ってるのか!」
「そんな理由だけに、ツバキをあそこまで利用したのか」
「ツバキ?なんだそれは」
「!?お前と血の繋がった家族の名前だろう!」
俺は反射的に声を荒らげる。
「お前がどんだけ無理難題を言おうと、お前がどんだけ追い詰めようと、
ツバキはお前を{兄さん}と呼び続けたんだ!
お前は実の妹ですら、忘れ去ろうって言うのか!?お前は自分に従わないって理由だけで……
家族の絆ですら、捨てられるのか!?
目の前にいる、俺たちに助けを求めて来たツバキを見て……
お前は何とも思わねぇのかよ!?お前はツバキに対して、何も感じねぇのかよ!?」
「タイガ……さん……」
……しかし、こいつには何を言っても無駄と言うことが分かった。何故なら……
「ふわあ~あ」
それを聞いて、大きなあくびをしてみせたからだ。
「説教はやめてくれ。眠くなる。お前と違ってオレは無駄にエネルギー使いたくないからな。
それに……」
「お前はゴミを捨てる時、そのひとつひとつに名前を付けるのか?
それとも、目に見えない空気にまで名前を付けるのか?
っははははははは……気持ち悪い奴」
「……」
ツバキから、力が抜けた。
この瞬間、はっきりした。
こいつは……勝たないといけない奴だ。
「……」
顔を伏せ落ちこむツバキに、俺は手を差し出す。
「……よかったじゃねぇか。ツバキ」
「えっ……?」
「たった今、こいつに手を抜ける理由が何一つなくなった。お前は心の底から冷酷になれるんだ」
そう言っても、レックスは首を鳴らしながら、
「{空気ちゃん}とのおままごとならよそでやってくれないか?
そんな寒いごっこ遊びに、このオレを巻き込まないでくれ」
と、嘲笑。
「……」
立ち上がるツバキ。
「兄さん……」
首を横に振って、ギリギリと握りこぶしを握る力を強めていく。
「あなたを……ここで、倒します!」
そしてキッと、力ある瞳でレックスを見つめた。
「あ~、なんか雑音が聞こえるな。めんどくさいし、さっさと消すとするか」
長剣を高く掲げる。足元に、影が集まりだす。
「!?」
そのまま影が、レックスを覆いつくすと……
「{カオスウィズイン}」
レックスを覆った影が、地面の中に入っていく。
「こいつ……ネクロマンサーか……!」
その影のから、ボキボキと何かが変形する音、ブシュブシュと、血のような液体が噴き出す音。
それが鳴りやんだと思うと……
ドシン!
と、地響き。そして手が生えてきて……
「!?」
目の前にいたのは、地面から這い出た上半身。
背中には6枚の羽、そして全身が赤黒く変色し、
頭に牛の様な角を生やした、悪魔の様な姿の……巨大なレックスだった。
『さぁ、始めようか。オレに対するその腐りきった性根、きつくしつけてやろう。
感謝しろ。オレは面倒にも関わらず、お前を誠心誠意、懇切丁寧に叩きのめしてやるんだ』
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カオスウィズイン 闇 消費SP:150
【ネクロマンサー専用スキル。悪魔の力を呼び出し、一体化する。
HPが2000、腕力、知力、50上がる代わりに素早さが1まで下がり、
時間と共にHPが徐々に減る。クールタイム:8分】
レックスが我ながらひどいキャラになっています……!
果たしてタイガ、ツバキの運命は!?




