闇に沈む「椿」の花は、希望の光に焦がれて。 5
―――――――――――――――――――――――――――
【WOO】ツバキ被害者の会スレ 2【鬼畜】
145 名無しの冒険者
まだツバキ捕まってねぇのかよ
運営無能過ぎんだろ、ちゃんと働け
146 名無しの冒険者
さっき寸前のところでタイガと、意味わからんドラゴンに邪魔されたわ
クソが
147 名無しの冒険者
は?意味わからんドラゴンってなんだよ
148 名無しの冒険者
多分、リエータだと思う
あいつの武器か防具のスキルじゃね?リエータっぽい髪頭についてたし
149 名無しの冒険者
やっぱそうだったんじゃねぇか。タイガもリエータもクロ。
ツバキと共犯だろ
150 ナナシドラゴン
今運営にタイガ、ポラリス、リエータのBAN要請しといた
明日までだよ、みんな
151 名無しの冒険者
さすが有能
152 名無しの冒険者
ざまあああああああああああああ
―――――――――――――――――――――――――――
「そう、明日までだ……」
その掲示板に書き込んでいた『女』が、端末を見ながら言う。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「……」
端末を見て、怒りに震えるディアナ。
「どうしたんだよ」
「ナナシドラゴン……!ウチらを裏切ったの……!?」
俺ものぞき込むと、俺とツバキ、そしてリエータがBAN要請をされたことが載っていた。
「ど、どういうことだよ、おい」
「改造者に加担したから、じゃないのかな」
冷静にポラリスが言う。
「ポラっちゃん!腹立たない!?こんなこと書かれてんだよ!?」
更に端末を動かすと……
278 ナナシドラゴン
見ておくといい
これが一時の感情に身を任せた人たちの末路だ
「ポラっちゃんはナナシドラゴンとBFじゃなかったの!?」
「いや、そこまで……」
(実はこの{いや、そこまで……}はほぼ事実)
「あぁ~もう!」
なおも何かをつぶやいているディアナ。
「……ポラリス」
「うん」
ポラリスは、この書き込みの真意がわかっている様子だ。
おそらくこの『ナナシドラゴン』はダークリゾルブ側に敵対しているのだろう。
だからこそここでBAN要請を行ったと書き込みをすることで、
ダークリゾルブ側が何らかのボロを出さないか、様子を見ている……はず。
「いずれにせよ、このBAN要請が本物になる可能性だってある。急ぐ必要がありそうだね」
「あぁ。そろそろ戻るころだが……」
その時、ギルドホームの入り口のドアが開け放たれる。
「も、戻りました……」
エルとアレンだ。
「どうだった?」
「ダメです。ディグさんの武具屋にも、タイガさんやツバキさんなどに協力していたと、
人が殺到していて、とても入れない状況でした」
「ま、町もそうです。あちらこちらで、タイガさんやツバキさんを武器を持ちながら、
探し回っている人が多くて……何だか……怖かったです……」
「そうか……」
やはり、町の施設は使えないようだ。
「まぁ、覚悟はしてたけどね」
リエータとツバキも戻ってくる。
「どうだ?ツバキ」
「はい……残念ながら兄さんにステータスを操作されたらしくて……
素早さが元に戻って、足の速さは前に戻っています」
リエータには、ツバキを連れ適当に2、3回戦闘をしてくれと言っていた。
その結果、ツバキは元のパラメータに戻っている。
派手にステータスを操作するのではなく、地味に、気付かれない程度に操作する。
そして証拠はしっかり消す。……悔しいが、レックスは頭は切れるようだ。
だが、同時にそこが付け入る隙でもある。
「北の洞窟は地上1階、地下2階まであります。兄さんは、1階層以外をすべて改造し、
自らのギルドにリノベーションしてしまっています。
もし潜入できたとしても、タイガさんたちだとバレてしまえば、
おそらく、大量のギルドメンバー全員が、大挙して押し寄せるはず……
そうなれば、私たちには打つ手がありません……」
「まぁ、確か300人ほどのギルドだもんね。加えてボクらは7人。
まるで象に挑む蟻だよ」
ポラリスのその言葉に緊張が走る。だが……
「でもまぁ、蟻のあけた穴から、堤防だって崩れるよね」
「そういうことだ。だからこそ……」
俺は極めて冷静に言い放った。
「真正面から突っ込んで、真正面から打ち破る」
………………………………
「気でも狂った!?タイちゃん!?」
「さ、さすがに無理すぎなのでは……」
「あの、最後まで話聞いてくれませんか」
何故か俺まで敬語になる。
「むろん、真正面から突っ込むのは俺と、ツバキだけだ」
「私も……ですか?」
「これはお前の家族での問題なんだろ?だから……」
俺は青い装具を取り出した。
「お前が終わらせないと、意味がないんだ」
「……それは……!?」
「やっと、渡せるな」
ディグが、ツバキに渡すよう言っていた装具だ。
大海の装具
【大海原の荒れるさまを体現したとされる、青い装具。
腕力、体力が10あがり、水属性耐性が20%アップ】
「……」
「な、わかったろ?ツバキ。味方は俺たちだけじゃない」
「……」
――諦めるでない
ディグの言葉が、ツバキの頭の中で広がった。
「……はいっ!」
そして装具を身に着ける。
「防具はどうするの?ディグさんとこのを考えると、もうできなくない?」
「それが問題だな……フロッグローブは売ってしまったしな……」
「……」
するとツバキは……
「いえ、大丈夫です」
と、なかなかに無茶を言った。
「大丈夫って……さすがに防具がないと厳しくありませんか!?」
「全身鎧だと説得力増すねアレン……」
首を横に振るツバキ。
「その方が……私もいいんです」
その爛々とした目に押され、俺は……
「……わかった。それで行こう」
と、うなずいた。
「わかるよ。タイガ君。ツバキちゃんを……信じてるからだよね」
「あぁ。信じようとしてる奴の前に……俺がそいつを信じなきゃ、嘘だろ?」
「……」
リエータが、俺の方をまっすぐ見る。
「……な、なんだ?」
「ふふ、何も」
そして北の洞窟……
「ん?お、おい!?」
黒いローブを着た男が、声を上げる。
「あれ……なんだ!?」
そこに突っ込む……
『そこを……どけぇ~~~!』
「ぐおわああああああ!」「ぎゃああああああ!」
赤いリエータドラゴン。
見張りに立っていた複数人の男たちは、いっせいに吹っ飛んだ。
「……し、しかし、本当に人間やめてるよなお前……」
背中に乗った俺とツバキが、地上に降り立つ。
『ごちゃごちゃ言わない!早く行くんでしょ!?』
「あぁ、行くぞ、ツバキ!」
「はい!」
俺とツバキは駆け出す。
そこへ、フレンドワープで……
「まさか、本当にうまくいくとはね!」
「タイちゃん、考えがリアルに鬼だわ!」
ポラリスと、ディアナが合流。
「外道には鬼で対抗だ。ポラリス、ディアナ、いけるか?」
「うん。仮にも前回イベント5位。簡単には負けてあげないよ」
「ふっふっふ~!ポラっちゃんとウチの力、見くびったらゆるさんてぃーだかんね!」
奥から複数人のダークリゾルブ。
「レックス様のところへ行かせるなぁ!」
「ぶっ倒せぇ~!」
とりわけ、ツバキに多く駆け寄ってくるが……
「ぬわぁ!」
それより前に、ポラリスのアローストライク。
「ごはっ!」
そしてディアナの天地一閃。
「ボクはプレイヤーキルって、苦手なんだ。
なんというか、本当に互いを傷つけあってる感覚が……
それに、ボクは人の心や考えを読めるけど、疲れるからね」
「な、何を……!?でも今オレたちをボコボコに、うわぁ!?」
更に弓を射る。
「……」
ポラリスは、怒りに満ちた顔を前方に向けた。
「でも、キミたちはもはやプレイヤーと呼ぶことも出来ない外道だ。
だから容赦も、遠慮もしない」
「以下、同、文!」
大剣を振り回すと、何人かのプレイヤーが宙を舞った。
「ポラリスさん……ディアナさん……」
「……ツバキ。ボクはキミと……タイガを信じてる。だからキミも……
ボクたちを信じてくれ。もう一度」
「負けたとか言ったらOSOKだし!絶対勝ってきなよ!バキっちゃんも、タイちゃんも!」
その言葉を聞いた俺とツバキは、互いに見つめ合い、うなずき合った。
「任せるぞポラリス、ディアナ!」
「もちろんだよ」
ポラリスが右手を掲げると、俺も右手を掲げ、合わせてパチンと音を鳴らした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「それで、まんまと潜入を許したってわけだ」
最深部、レックスが椅子に座り、あきれるような声を上げる。
「も、申し訳ありません!」
「俺たちの不覚です……どうか、どうかお許し……を……」
しかしその言葉より早く、レックスの剣が男を貫いた。
「ぐはっ……!?」
「あ~、悪い。オレは無能語を理解できるほど賢くなくてな。
無能は無能らしく、とっとと消えておけ。生き恥晒しが」
「ぐっ……」
消え入りそうな声を上げながら、男は続ける。
「生き恥……!?じゃあ言わせてもらうが……アンタはどうなんだ……!?
アンタは自分の部下を人間と思わずに……使うだけ使って、そして消す……!
アンタのその生き方の方が……よほど……!」
レックスが勢いよく剣を引き抜くと、男は消滅した。
「あの不良品の次はあいつに罪をなすりつけようか~。今から劇の台本考えないと」
「……!で、ですが、レックス様」
ドスッ!……キラーン……
「オレに口答えするな、無能」
血振りをするかのように何度も長剣を上下に動かした後、納刀した。
「まぁ、いいか。どうせあいつじゃオレは倒せないしな」
レックスは椅子に座り込むと、まるで眠るかのように動かなくなった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
同時刻、北の洞窟入り口。
「ぐわああああ!」
リエータドラゴンが、尻尾を振り回し、爪を振りかざし、敵を蹂躙する。
『ほらほらどうしたの!?もっとかかってきなさい!』
「何をしている!?相手は1匹だ!数にものを言わせてさっさと倒せ!」
その声に弓を構えるダークリゾルブの男たち。
『そんなんじゃ、やられてあげない!』
大きく息を吸い、炎を吐く。
辺り一面を熱気が支配し、黒い煙が立ち上る。
……と、そこで……
シュン……
「はぁっ……はぁっ……効果切れかぁ……」
元のリエータの姿に戻る。
「今だ!一気に攻めつぶせぇ~~~!」
「!?」
号令と同時に、斧や槍を持った黒いローブが、一気にリエータの元に駆け寄る。
そこへ……
「しっかり休んでろよ!リエータさん!」
「僕たちが時間を稼ぎます!」
エルとアレンがフレンドワープ。
「な、なんだ……!?」
「そんなふざけた戦い方で、俺たちに勝てるとでも思ってんのか!」
当然、背負っている姿など、普通はあり得ない。
「手を抜いてやろうか!?はっはっはっは!」
バカにしている男の体を、エルの杖がふっ飛ばす。
「……はっ?」
一撃で消滅。
「悪かったですね!ふざけた戦い方で!」
「でも、そんな{ふざけた戦い方}な奴にオメェたちは負けるんだぜ!?」
杖を構え、ひとりひとりに向けていく。
「エルちゃん、アレン君……」
「言っとくけど、オレは貸しは作りたくねぇ。だから今返してやるよ。
さぁて、一気にやっちまうか、リエータさんよぉ!」
「……」
リエータは槍を頭上で振り回し、ポーズをとった。
「……言われるまでもないけどね!」
ついに戦闘開始。
タイガの作戦内容は次回、紹介します。




