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闇に沈む「椿」の花は、希望の光に焦がれて。 3

ツバキの過去。

ツバキの独白と言う形なので、ツバキの1人称「私」で進みます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


私は、昔から弱い人間だった。


「それに引き換え、あんたの娘のツバキはどうなんだ!

 経営戦略の一つや二つ、身に着けていられるのが普通だろ!?」

「そうだそうだ!立花ホールディングスの跡取りとして、あまりにも、あまりにも弱い!

 少しはシドウ様を見習ってはどうだ!彼は何でもできるぞ!」


何もできない私と、なんでもできる兄さんのシドウ……

私はそんな中で、孤独を深めてきた。


「父さん!母さん!これ、見てください!私、今日テストで100点を」

「今大事な話の途中だ」

「そんなテスト、どこかに捨てておきなさい。ただ一度の100点など褒めるに値しません」

目の前の扉が閉められ、廊下が真っ暗になる。

そのままそれは、私の心を表していた。

「……ツバキ、どうした?」

「兄さん……」

「おっお前今回のテストで100点取れたのか!えらいぞ!」

頭をなでる兄さん。

「で、でも、父さんや母さんは、私の事をほめようともしないで……」

「二人とも、今は忙しいだけなんだよきっと。心の中で褒めてくれてるって」

「兄さん……」

私の心の支えは、次第に兄さんだけになっていた。


兄さんは、私の憧れの人でもあって、私の大好きな人でもあった。

よくテレビゲームで対戦をしていたり、よくゲームを一緒に喋りながらした。

ワールドオーダーも、その中の一つだった。

そのゲームを、兄さんと一緒にしている時だけが、私の憩いだった。


「ツバキは悪くありません!」

「何を言うかシドウ!いつまでこの出来損ないをかばうつもりか!」

父さんに、兄さんが反抗する。

「こいつは何のとりえもない、立花家きっての{失敗作}だ!

 お前はそんなこともわかっていないのか!?」

「わかりたくもありません。ツバキは、オレの妹です。

 家族の事を道具扱いするあなたこそ、何もわかっていない!」

「なんだと!?貴様!親に向かってその言い分はなんだ!?」

「なら言おう!あなたは親でも何でもない!」

今にも互いに、殴りそうな空気だ……!

「やめてください!」

私は思い切って、二人の間に割って入った。

「ツバキ!元はと言えばお前が」

「そうです、私が、しっかりしないから……」

胸に手を添えながら話す。二人を刺激しないように、落ち着いて。と。

「わかっているじゃないか。ならばこの家を出ていくがいい。

 我が立花ホールディングスに失敗作など不要だ。今すぐ!」

「父さん!」


バキッ


兄さんの拳が、ついに飛んだ。

……でも、父さんには当たらない。……間に入った、私の右頬を……正確に抉った。

「がっ……!」

「ツバキ……!?なんでオレを止めた!?」

痛い。痛い。痛い。

口の中を、鉄の味が支配していく。

兄さんは昔から格闘技を習っていたから、腕や足が凶器になる。

「ぐ……げほっ……!」

「ツバキ……!」

父さんは、血を吐いている私を見て……

「もういい、二人とも下がれ」

「お父様!」

「下がれ!」

二人とも、部屋から追い出されてしまった。


「……ごめんなさい、兄さん……私……私……」

兄さんに背負われながら、自分の部屋へ向かう。

「構いはしないさ。妹を守るのは兄の仕事だからな」

「……兄さん……」

私は、自分の無力に心の底から憎しみを持った。

私にもっと力があれば、機転が利けば、兄さんは父さんを殴ろうとも考えなかった。

そして……私自身が殴られることも無かった。

「……なぁ、ツバキ」

「ん?」

兄さんが振り向く。

「強くなろうか。一緒に」


その後、私はあらゆる格闘技を、兄から教えられた。

体を鍛えて、体を強くして……

父さんや母さんを見返そう。なんて考えも少しだけあった。

でも、一番は『兄さんの役に立ちたい』それだけだった。

そんな私を、父さんや母さんは……


「ねぇ、本当に無視していていいの?」

ある深夜、ふと目が覚めてしまった私は、軽く外を走って来ようと家を出ようとして、

父さんや母さんの声で立ち止まる。

「構わん。あいつのやりたいようにやらせておけばいい」

「でも、本当に……?本当にあの子をいつか追い出すつもりなの……?」

母さんの声に、私の心臓が高鳴って。

「その方が、ためになるだろう?」

「……!!」

倒れそうになった。

私は……やはり父さんや母さんから……

「……あいつには、悪いことをするがな……だが、それが最善だ。我々のためにも、

 そして……あいつのためにも、な……」


そんな不安を抱えた日々は、突然に終わりを迎える。


「父さん!母さん!なんでだよ!なんで二人とも……オレとツバキを置いて……

 なんでそんな勝手に……死んじゃうんだよ!」

「……」

父さんと母さんが死んだ事故。

……跡取りには息子の兄さんが選ばれた。

私は何もできないから、何も……力がないから。

「……」

しかし、その日から私の日々は……


地獄となった。

「兄さん、おかえ……」

「うるさいぞ」

外から帰ってくる兄さんは、まるで私を虫を見るかのように冷たい眼光を放つ。

「あの、兄さん」

「黙れ。無能が」

「えっ……?」

「しゃべるな。お前の顔を見ていると腹が立って仕方ないんだよ。

 それともなんだ?ここで、{あの時}みたいに殴られたいか?」

右腕をこれ見よがしに見せてくる。……まるで、サーカスに使われる象のように、

私は兄に逆らえなくなっていった。


兄は、更に毒牙を私に向けた。

「申し訳ありません。すべて、ツバキが命令したことです」

「!?」

自分に不手際があれば、自分の失策を私のせいにして、

私に不手際があれば、そのまま私のせいにする。

私は次第に、兄の『手駒』となっていった。

でも、ちゃんと動かなければ、私は兄にまた殴られる。

あの日の事が、私には頭からこびりついて離れない。

だから……どんなことがあっても、私は我慢した。

いつか、兄と私はまた分かり合える。……そう信じていたから。


……妄信、していたから。


そんな折、ワールドオーダーオンラインのサービスが始まった。

だが、そこにも兄が牙を突き立てる。


「いいか、お前はオレの引き立て役だ。お前がオレを引き立てて、オレが1位を取る。

 そしてオレの名前を、この世界中に轟かせる。いいな?」


「大丈夫だ。お前が戦いやすいよう、すでにハッカーたちに働かせてある。

 お前はオレのおかげで強くなれるんだ。嬉しいだろ?」


……もしかすると兄は、こういったVRMMOのゲームで、私を利用するために……

私に格闘技を覚えさせたんだろうか……?

いや、考えすぎ……かも、知れない。

考えすぎ……で、あってほしい。


そしてビギニングイベント。

「はぁっ!」

「ぬおわ!」

私の一撃で、プレイヤーは一瞬で消し飛んだ。

それにしても……すごい一撃……!

端末を見ると、兄さんが1位。3位に私。

2位は……リエータさんだ。

「ビエ~~~イ!」

鳥のようなモンスターが炎を吐いてくる。

「せい!」

風属性が得意なはずなのに、私はまともに受けてもあまり傷を負うことはない。

それどころか……

「……」

蹴りの一撃で、私はその鳥を一撃で消滅させてしまった。

「……」

体中をチリチリと、炎がくすぶる。

熱い。……でも、痛くない。

でも……これは改造で得た強さ。

だからこそ、誰にも知られるわけにはいかない。

そう、考えていた時だった。

「ふぅん。すごいね。キミ」

「!?」

背後から槍を持った女性が近付いてくる。

「風属性が得意なのに、炎属性相手にほぼ無傷なんて、相当な手練れじゃない?」

「あなたは……?」

「あたしはリエータ。今、2位なんだ。ねぇ、あんまり時間はないけど……

 どう?あたしと一戦、交えてみない?」

確か、リエータさんは炎属性得意だったはず。

でも、今まで通り戦えれば、勝てる。

「……行きますよ」

「うん。来て」

「……はぁっ!」

一瞬の静寂のあと、私は右腕を突き出す。

「えっ……?」

しかしリエータさんは、私の攻撃を軽やかな身のこなしでかわすと、

「{ファイアランス}!」

「!?」

私は焦った。……もし、ここで改造で弱点がないことを気付かれたら、兄さんが……

「っ!」

必死になって避けるが、バランスを崩してしまった。

「{ランスエッジ}!」

そして、体勢を立て直す暇もなく……

「あぐっ……!」

1撃。

……強い。

まるで行動に隙が無い。必要最低限の動きで、私を追い詰めている……!?

「……ごめんね」

そしてリエータさんの槍は、もう一度、私を刺し穿った……


結果、私はそのキルによるポイントの減少が響き、9位まで落ちた。

そして兄さんは、リエータさんに抜かれ、2位に後退した。

表彰台の上で、両腕を上げ、喜ぶリエータさん。

……なんだろう。

私になくて、リエータさんにあるものが、はっきりわかった気がした。


「どういうつもりだ」

表彰式が終わって、兄さんに詰め寄られる。

「……り、リエータさんが、強くて……」


バチン!


私の左頬を平手打ち。

「次は、殴るぞ?」

「……」

「いいか、お前はオレの駒だ。駒は駒なりに、ちゃんと動け?

 それともお前は、不良品か?ふ・りょ・う・ひ・ん・な・の・か?」

……それでも、私は耐えた。

兄さんは……またあの時のやさしい兄さんに戻ってくれる。

言うことを聞いていれば、きっと。……きっと……


その後も、私は兄さんの言動に疑問こそ持ったものの……

兄さんのため、と言う行動力と言う名の呪いに、付き従っていた。

兄さんのために、初心者から上級者まで、

数多くのプレイヤーに襲っては、そのプレイヤーをキルして……

そのプレイヤーの素材を、すべて没収させた。

「はっ!」「せやっ!」「たぁっ!」

……でも、それでも……その行為は楽しいと、まったく思えなかった。

何度も、何度も、プレイヤーを襲っているうちに……

掲示板には、私をはじめとした、兄さんのギルド、

ダークリゾルブに対して批判する書き込み。

道行く人からは私を避けるような動き。

そして……かつてのフレンドの人とも別れ、私は1人になる。

「……」

しかしそれでも、私は妄信していた。

……妄信?いや、違う。これは……

ただの独りよがり。ただの……自己満足。




……そんな私に声をかけて来たのが……タイガさんだった。

私は、初めて会った戦闘の意思がない人には、普段通り過ごそうかと思った。

どうせこれで会わなくなる。この人も、私の本質をそのうち知って……

他のプレイヤーには、そう接してきた。今までも、そして、これからも。

そう、思っていた。


でも、なんだかタイガさんは違った。


雰囲気が、リエータさんに似ていた。

どうして……だろう。

闇属性得意なはずなのに、なんというか……光が見えた。

私はずっと……


……そんな目に見えない『光』が、欲しかったのかも知れない。


だからこそ、私はタイガさんを、助けたかった。

でも、それは同時に、兄さんを怒らせることにもなってしまった。

そして兄さんは……ついに実力行使に出た。

「そんな!?エキドナを!?」

「あぁ、そうだ。どうせあいつは皮の鎧や盾を作りに、北の洞窟付近に来る。

 そこに改造で移動させたエキドナを暴れさせる。

 そしてそこで絶望を知るんだ。面白い試みだろ?」

「で、でも……でも、そんなことをしたら、タイガさんが……」

胸倉をつかまれる。

「……!」

「おかしいなぁ。この駒、オレに口答えするぞぉ?ゴミなら捨てないといけないんだけどなぁ」

更に兄さんは……

「じゃあ、これ、な~んだ?」

「!?」

私の家族写真が、知らない男の手に持たれている。

そして私の見ている目の前で、写真に写る私の顔が、木っ端微塵となる。

「……これはこのゲーム用に作ったレプリカだけどさぁ。現実もこうしちゃうよぉ?」

そのまま、私を投げ飛ばす……

「わかったなら逆らうな。{ゴ・ミ}」

「……」

……『闇』だ。兄さんは、正真正銘の、『闇』……

ここでようやく私は、兄さんのやりたいことに気付いた。

……気付いて、しまったんだ……


―――――――――――――――――――――――――――


ランスエッジ 槍 消費スキル:10

【槍の基本スキル。レベル3で{スティンガー}に強化。

 レベルMAXで{キルファング}を編み出し可能。クールタイム:30秒】

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