闇に沈む「椿」の花は、希望の光に焦がれて。 1
サブタイトルを変更しました。
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「はぁっはぁっはぁっはぁっ」
町の中を、必死で逃げ回るツバキ。
「あそこにいたぞ!」
「待て!」
「貴様!八つ裂きにしても足りんぞ!」
それを追い回す、複数人のプレイヤー。
「きゃあ!」
足がもつれ、転んでしまう。
「ふふふ、追い詰めたぞ」
「アンタ……あんなことしていいと思ってんの?」
「言うな。思ってるから、やったんだろうしな」
一斉に武器を振り上げる……
「やめなさい!」
それを制止するリエータ。
「寄ってたかって1人の子を……あなたたち、恥ずかしくないの!?」
「あぁ恥ずかしくないね!」
「むしろ、私たちは{被害者の}レックスさんを助けてあげようとしてるのよ?
こんなやつにかける慈悲なんか、あると思う!?」
武器を構えるリエータ。しかし背後からも……
「あそこだ!」
「おい!いたぞ!リエータまでいる!」
「構わねぇ!囲んでリエータともどもぶっ倒してやろうぜ!」
プレイヤーたちは、一斉にリエータに対して武器を構えた。
「っ……!」
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翌朝。
「おはよう」
と、キッチンに降りてくると……
「あ、お兄ちゃん……」
ナツキと、父さんがいた。
「おぉ、おはようタイガ。すまんな、すぐ片付ける」
「あ~、いいよ別に。仕事なんだろ?」
「おう、実は、5年前の事故をもう一度洗いなおすよう先輩に言われてな」
そこに書いていた内容はこうだった。
「……車に乗っていた男女二人が、突然左側から直進してきた車に追突され死亡。
資産家グループ、立花ホールディングスの社長、立花元治と、その妻立花桜……
どちらもほぼ即死であると思われる……」
と、その時だ。
「!?」
俺は思い出した。この被害者の二人……
多少年齢が進んではいるが、リエータに渡された写真の二人にそっくりだ。
「立花ホールディングスには、二人の子供がいてなぁ。
金では両親の愛情は買えんから、かわいそうだよなぁ」
「そうだな……で、なんで今更洗い直しを?」
俺が聞くと、
「いや、それが……最近その二人の息子と娘に、
とあるオンラインゲームで改造を行っているって噂が立ってな……
それの延長線上にあるこの事件の再調査をもう一度やることになったんだ」
「!?」
オンラインゲームで改造……?
いや、まさか……な。しかし、次の写真を見て……
「!?」
俺は確信した。
そこに載っていたのは、亡くなった二人の親の娘。
名前は載っていないが、ツバキに、顔立ちも髪型もそっくりだ……
そしてもう一人の男、この男がレックスだ。
「こら、あんまり深入りしないでくれよ」
「あっご、ごめん」
そこへ、ナツキが食事を運んでくる。
「お、悪いなナツキ」
出来立てのだし巻き卵の香りが、俺の鼻腔をくすぐる。
「……いただきます」
「……?」
何だかナツキの様子がおかしい。
「お前、どうした?」
「え?」
「なんか今日、元気がないみたいだけど」
「い、いや、そんなことないよ」
あるだろ……
「ナツキのだし巻き卵はうまいなぁ!」
「……うん」
いや、絶対ある。いつもならここで
――いやぁそれほどでもあるよ~!嬉しいな~!(俺、渾身の裏声
って、言うはずだし。
「ナツキ」
「……どうしたの?」
「お前、体調悪かったら俺が家事代わってやろうか?」
「……いや、大丈夫」
……ナツキが不安だが、大丈夫と言っているのなら、気にしないほうがいいのだろうか?
キラ~~~ン……
とりあえずログインした。
しかしなぜか、町は殺気立っている……!?
「な、なんだ?」
あちらこちらで怒号が飛び交い、武器を構えたままうろつくプレイヤーもいる。
ピロリン!
メッセージだ。
「ギルドメッセージ?」
ポラリス(Hokkyokusei):ログインした人から、すぐにギルドホームに来て欲しい
ギルドホームにやってくると、すでにほかの4人は集まっていた。
「ごめんねタイガ。ボクがリーダーみたいになっちゃった」
「構わねぇ。で、何があったんだ?」
「うん。まずはこれを見てほしいんだ」
端末を取り出す。
「……皆様、この度は僕の動画を見ていただいて、ありがとうございます」
映っているのは、ロングヘアの男。
「レックスじゃん!?思ってたより陰キャっぽい!」
「ディアナ、少し黙っててくれるかな」
映像に釘付けになる。
「……本日は、僕が今まで受けてきた被害……そのすべてを明かそうと思います。
僕は、改造に手を染めてしまいました。
もちろん、僕は最初は拒んでいました。ですが、彼女に……
僕の妹に……ツバキに脅されて、僕はついに手を染めてしまったんです!
ツバキは……僕を自らが理想的な兄とするために……
僕に対し、データを違法に操作しました。
異常なほどの攻撃力、異常なほどの素早さ、異常なほどのスコア……
第二回イベントの圧倒的な好記録も、すべてそれが原因です!
第二回イベントの前に北の洞窟付近で発生したエキドナも、彼女が原因なのです!
彼女が初心者を妨害するために、配置したものなのです!
すべて白状します!皆さん、どうか、僕とツバキを裁いてください!
ツバキの蛮行を止めることが出来るのなら、僕は……僕の身はどうなってもいい!」
「……なんだよ、これ……!?」
俺は見ていて背筋が凍った。
「昨日の夜、突然レックスが動画サイトで出した動画だ。
この動画を見るに、レックスは自分を被害者として、ツバキを告発している」
動画を止めると、次にポラリスはSNSを開いた。
SNSはもちろん、このゲームの掲示板でも大きな反響になっている。
「つ、ツバキさんが改造……!?」
「今言う意味は……あるんですか?」
「あるんじゃない?陰キャが考えそうなことだし」
口々にいろいろな感想が出てくる。
「タイガ」
「あぁ」
ポラリスに促され、俺は話し出した。
「なぁみんな、落ち着いて聞いてくれ」
……俺はツバキに関する話と、イベント中にリエータから聞かされた話をした。
ツバキは、兄であるレックスから、改造を施されていること。
ツバキは、それを黙認していること。
イベントに登場した『ツバキ』は、まったく別人であること。
ダークリゾルブから、ツバキは袋叩きにあっていること。
そして……
ダークリゾルブが、全力を持ってツバキを排除しようとしていること。
「そ、それじゃあ、嘘をついているのは、レックスさんの方……?」
「ま、タイちゃんの話がマジだとそうなるね。やっぱ陰キャだわ」
「で、では、僕たちがイベントでやられたツバキさんも……」
「偽物ってことだな」
端末を操作しているポラリス。
「でも残念ながら……これを見て」
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【WOO】ツバキ被害者の会スレ 1【鬼畜】
782 名無しの冒険者
てかあいつはどうなんだよ。タイガ
783 名無しの冒険者
あいつも同罪だろ
あいつもツバキとフレンドなんだから
絶対あいつも余計なことをやったに決まってる
784 名無しの冒険者
そもそもぽっと出の奴が上位食い込めるとかありえんしな
どうせあいつも改造の一つや二つやってるだろ
785 名無しの冒険者
だろうな。リエータはどうよ
786 名無しの冒険者
あいつツバキかばってたぞ
俺のフレンドがツバキ捕えようとして、リエータにやられたって言ってた
787 名無しの冒険者
しょせんその程度かよあいつも
萎えるわ
788 名無しの冒険者
ツバキの手で改造されてたレックスより上のスコア出してる時点で
真っ黒だしな
もっと早く気付くべきだったわ
789 名無しの冒険者(元リエータ教信者)
あ~あ、あいつのために色々応援してきたのがバカバカしい
790 名無しの冒険者
で、なんでアーチャー…てか、ポラリスは何も言わねぇの?
791 名無しの冒険者
あいつも共犯だからだろ?
ツバキのフレンドのタイガのフレンド、つまりそういうことだ
あんだけ饒舌に喋っといていざ追い込まれたらだんまり作戦
よくできた名も無きアーチャーさんだなwww
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「ツバキを信じているのは本当の事を知っているボクたちだけみたいだ。
掲示板を見るに、ツバキに対する怒りはものすごくなってる。
……それと、過去ログを遡ったんだろうね。
ツバキとフレンドだっていうタイガ、ボク、
そしてリエータに対する批判もものすごく高まってる。
このままだと、暴動の一つでも起きかねない」
「お、おいちょっと待てよ!あいつとフレンドだった俺はいいとして、
なんで無関係なポラリスやリエータまで!?」
「タイガとフレンドだっていうボクも、ツバキに与する{仲間}。
……多分そう言いたいんじゃないかな。
リエータはツバキを守るために暴徒に立ち向かってたから、かな」
ポラリスはため息交じりにそう言った。
「でも、どうするの?タイちゃんポラっちゃん、いわゆるSTでしょ?
これじゃあ動くことも出来ないんじゃない?」
「ST、指名手配ね。まぁ確かに。騒ぎが収まるまでは何も出来なさそうだ」
「……」
俺はあの時ポラリスが言っていた言葉を、ようやく理解するに至った。
――あればやってると思う。そこまで無能……とは信じたくないよ?あるいは……
――すでにこの世界自体が、ダークリゾルブに侵食されつつある
この世界自体が、ダークリゾルブに侵食されつつある。
ダークリゾルブではなく、レックスに。
そしてこのまま、ダークリゾルブの力を持ってして、ツバキは……
この世界から永遠に葬り去られるだろう。
と、その時……
「!?」
窓の外に何かを見つけ、俺は慌てて外に出た。
「ちょっ、タイガ!?」
ポラリスの声も聞こえないほど、俺は慌てていた。
俺は建物と建物の間の路地に入った。
間違いない、あの影は……
「……よう」
「……」
ツバキだ……
今回からツバキにスポットを当てた長編です。
果たしてタイガたちは、ツバキを助けられるのか!?




