ふざけてるように見える奴ほど、強いって相場で決まってる。
「行くで、抜かるなよシルビア!」
シルビアは髪留めを使い、後ろにひとまとめのシニヨンのようなヘアにした。
……本気……と言うことだろうか。
「ワシはタイガの力量を図りたい。シルビア、お前はポラリスを頼むわ」
「坊ちゃまのご命令とあらば……{スターライド}!」
高速で近場の森に移動するシルビア。
「{アップトリップ}!」
それを追いかけるポラリス。
「……さて、二人きりやな」
「あぁ、そうだな」
しばらく波の音が聞こえたかと思うと、
「行くでっ!」
ビュンと言う効果音が聞こえるほどの超高速で、カインが突っ込んでくる。
「!?」
槍を何とかしのぎ、
「「{シャドウレーザー}!」」
二人で同時にシャドウレーザーを撃つ。
シャドウレーザーは俺とカインの目の前でぶつかり合い、砂ぼこりに変わった。
「お前も闇属性か」
「はっ!んなもん、男やったらロマンを取るやろ!」
俺はブーメランに持ち替える。
「……同感だ!」
そして前方に投げ飛ばす。
「んなもん、当たらんて!」
そのままカインは跳びあがり……
「{スティンガー}!」
突貫してくる。
「{パワースラッシュ}!」
何とか前方にパワースラッシュを振って妨害するが、カインの動きについていけない。
「遅いわ!{ラピッド」
流れるような連続突きを放とうとするが……
「!?」
背後からくる攻撃に、慌てて横に動く。
「ブーメランっちゅうのを忘れとったわ。危ないのう」
「うまくだませてると思ったんだがな」
「はっ、食えんやっちゃの!」
再び突っ込んでくる。
そして突っ込んできた時に武器を装具に変える。
「{デビルブリング}か!」
「食らえっ!」
ストレートパンチを盾で防ぐが、何分皮の盾なので衝撃まで防ぎきれない。
「そんな盾で、ワシの攻撃は防がれへんぞ!」
「かも、知れないな!」
「何っ?」
俺は盾を投げ捨てると、
「{グラビティアップ}!」
強い重力を得た盾は、砂浜に落ちて砂ぼこりを発生させる。
「目潰しか!?なめんな!」
槍に持ち替えて振り回し、砂ぼこりを払うカイン。
「はぁっ!」
すかさず俺は槍を伸ばす。
「……なるほどのう。頭ええな。噂通り」
カインは槍をすぐさま装具に持ち替え、足で防いでいた。
そのまま俺の槍を蹴り上げ、少し離れた位置に跳ぶ。
「じゃあこれはどないや?{イビルスクリュー}!」
するとランスを後ろ手で高速で回し出し……
「!?」
黒い渦が起こり始めた。
「食らいさらせぇ!」
そのまま渦はこちらに向かってきて……
激しい砂ぼこりと共に、黒い竜巻は消滅した。
「はっ!大したことない奴やのう」
俺はその場に倒れ込んでいた。
全身を引き裂かれるような痛みが……
「……!?」
走っていない。
俺は鎧に付いた砂を軽く払った。
「……あ~、これはなかなかのチートスキルだな……」
「なっなんや……?!何をしたんや……!?」
「あ~、これか?{冥府神の加護}って言ってな。
まれにダメージを無効化してくれるんだよ」
それを聞くと、カインは恐怖していた。
「おっそろしいスキル持っとるな……!?」
「これでもタナトスっていう、頭おかしいくらいの強い敵倒してんだよ俺は」
そして俺はメガネの位置を少し整えた後、
「じゃ、続けようぜ」
長剣を構える。
「はっ、やったら何べんでも倒したるわい!」
カインは俺に向かって駆け出した。
……しかし、さすがに不安定要素に頼りすぎだな。
俺は少し反省した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「坊ちゃまのご命令なので、手は抜きかねますが、よろしいですね?」
一方こちらはポラリスとシルビア。
「構わないよ。ボクだって手を抜く気はないし」
ポラリスは軽く肩甲骨を回した。
「では……参ります」
左手を掲げると、大きな光が集まりだす。
「{スターゲイザー}!」
ポラリスの足元から光が噴き出す。
「?」
しかしポラリスは、アップトリップですでにシルビアの頭上に移動していた。
「{ホーリーシールド}!」
「{スターゲイザー}!」
ポラリスがスターゲイザーを放つが、跳ね返される。
「ぐっ……!」
「(何故ここでスターゲイザーを……?){セインフラッシュ}!」
「{ダウントリップ}!」
すぐさま地面に降りる。
「{スターライド}!」
それを見てシルビアは高速で接近。
「ふっ!」
そして杖から装具に持ち替え、ポラリスを1発殴る。
2発、3発、4発。
「ぐっ……!」
「やはり近付かれると、弓使いは弱いようですね。
そしてあなたのステータスならざっくばらんながら存じ上げております。
世に言う……」
杖に持ち替え、スマッシュを放つ。
「固定砲台というものだとっ!」
「がっ……!」
そして殴り飛ばした瞬間、シルビアは違和感に気付く。
「……(固定砲台と言えど、ここまで殴られることを許すでしょうか……?)
「……!」
飛ばされながら、ポラリスは弓を構えた。
「!?」
「{ミルキーウェイ}!」
「くっ……!」
さすがに吹っ飛ばされながらだからか、命中したのは数発にとどまる。
それでも多少のダメージにはなったはずだ。
木に激突して止まった後、
「……{アップトリップ}!」
体勢を整え、再びシルビアの頭上に跳ぶ。
「こうなれば……やむを得ません」
巨大な魔法陣が、シルビアの前に現れる。
「{ライトニング」
と、そこで自らの過ちに気付く。
「……!?(いや、彼も光属性……そしてわたくしと違い、使ってから時間が経って……!)」
慌てて魔法の詠唱を止める。
「あ~、言うの忘れてたよ。ボクはね……」
しかし、ポラリスは魔法ではなく、弓を構えた。
「!?」
魔法の詠唱をやめたシルビアに、その光景が映る。
ホーリーシールドで光属性の魔法、『ライトニングソル』を跳ね返す……
そう考えていたシルビアは、完全に裏をかかれてしまった。
「{アローストライク}!」
そしてシルビアを、一条の矢が穿つ。
「うぐっ……!」
「好きなんだ。人の心を読むのが」
ひざまずくシルビア。
「まさに……トリックスター……!」
「まぁ、星好きだしね。ボク。そういうシルビアは{バトルシスター}だよね」
「{スターライド}!」
距離を取ろうとするシルビア。
「……!?」
その右肩に、光の矢を刺しながら。
「{スターゲイザー}!」
まずスターゲイザーと呼応して爆発し、そして……
「{スパローキラー}!」
バランスを崩したシルビアに、スパローキラーを撃ち放つ。
確実に命中。シルビアは、瀕死の状態になった。
「ま、まさか……あそこでアローストライクを撃たれたのも……!?」
「全部キミの考えを読んで、だよ。これほど急に流れるように攻撃したら、
逃げたくなるのも無理はない。と思ってね。
だからその後の、スターゲイザーまでの流れがスムーズに行えた」
「最初から最後まで、あなたの手の上だったのですね……」
「もう一度言うよ。ボクは人の心や考えを読むのが好きなんだ」
それを聞くと、シルビアは観念した様子で、
「くっ……!不覚です……坊ちゃま……申し訳ありません……!」
と、うなだれた。
「……」
(まぁ、だからプレイヤーキルはあまり好きじゃないんだけどね)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「{ラピッドファング}!」
非常に速い連続突きを、俺は防ぎきれずに受けてしまう。
「ぐ……!」
「{スティンガー}!」
しかしそのスティンガーが迫る前に……
「!?」
ダークネスビットが攻撃。
「ぐ……さっきから厄介なスキルばっかりや!」
「仮に俺が頭が良くても、結局力がないと勝てはしない。
だから俺は徹底するさ」
「なるほどなぁ。うまい事考えよるわ!」
再びスティンガー。
「だから、そういうことだ!」
俺は剣を納刀し、
「{グラビティダウン}!」
盾の重力を軽くして、その場に浮かせた。
「な、なんやて!?盾を……」
その直後にカインのスティンガーが、俺の盾を穿つ。
……まぁ、のちに修理できるし、イベントはもう少しで終わりだから構わない。
そしてそのまま俺は驚いたカインに駆け寄り……
「{デストレイル}!」
「!?」
「ぐっ……うぅ……!」
いつ使っても、デストレイルの被ダメ―ジには慣れない。
「む……無茶苦茶やな……お前……!」
「結構言われる……」
互いに何とか立ち上がる。
「割と嫌いやないけどな……そういうの」
「お褒めに預かり光栄だ」
そしてしばらくキョロキョロと左右を見た後、
「……ところで、気付いてるか?タイガ」
唐突的にそう語るカイン。
「……あぁ」
「正直、上位同士のプレイヤー対戦やから、誰も近付いてけぇへんと思ったんやけどな。
ワシもそれ目的でやっとったし」
「消耗してるとこを狙って、俺たちからポイントを奪う。そんなとこだろうな」
静かに背後を見ると、そこには……
「ふっふっふ、見つかってしまったなら仕方ありませんね」
多くの弓使いが、一斉に弓を構えた。
……黒いローブ……ダークリゾルブの面々だ。
「こいつら……!」
「知ってるのか?」
「知ってるも何も……シルビアを前のイベントで寄ってたかってボコボコにした奴らや」
カインがにらみつける。
「ほうほう、シルビア……思い出しましたよ。前のイベントで……
ワタシたちにボコボコにされてベソかいてましたねぇ確か」
「口を閉じんかい」
「ほう?事実を正確に、せ・い・か・く・に、伝えただけですが?」
「閉じんかい!」
猛スピードで走りだすカイン。
「お、おい!」
仕方ない、また巻き込まれるか……
俺はブラックソウルを使うと、カインを追いかけた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「……」
そしてポラリスとシルビア。
「……どうしたのですか……早くトドメをさしてください」
「ボクはキミに勝った。だから、キミはボクの命令を聞いてくれるかな?」
「命令……?」
弓を構えると、シルビア……
「ごはっ!」
の、背後にいた男に弓を射る。
「!?」
シルビアは驚いた様子で、その男を見た。
「さしずめボクたちが戦って、互いに消耗したところを狙う。
そして{レックスさま}の圧倒的スコア数を確かなものとして優勝させる。
……そういうとこかな」
「あ、あの……」
戸惑うシルビアに、ポラリスはサンライトキュアを使う。
「!?……どういう、ことですか?」
「言ったでしょ?命令を聞いてもらうって」
「で、でも、あなたはわたくしを倒せるはず!
なのに回復魔法でわたくしを助けるなんて……どういう……?」
ポラリスは振り返る。
すると、黒いローブを着た男たちが無数に武器を構えていた。
「確かに倒せる。だけど、ボクとしてはここでキミを倒すより……
汚い手を使ってボクたちや、キミを傷つけようとしている奴らの方が腹が立つよ。
だから、キミをここで、みすみす倒したり倒されたりするのは……
ボクとしても、そっちのほうが嫌かな」
「……!?」
(補正済なかっこいい声で)
――だけど、ボクとしてはここでキミを倒すより……
――汚い手を使ってボクたちや、キミを傷つけようとしている奴らの方が腹が立つよ
――だから……キミをここで、みすみす倒したり倒されたりするのは……
――ボクとしても、そっちのほうが嫌かな
――それに、ボクとしてもかわいいキミをこれ以上傷付けたくないしね
(言ってない)
「……」
何故か頬を真っ赤にしているシルビア。
「さて、やろう。シルビア。多分、この様子だと、カインやタイガも危ない」
「……はいっ!」
「……?」
急にテンションが上がっている様子のシルビアに、ポラリスは少し違和感。
しかし、これでシルビアも戦ってくれるはず。ポラリスは弓を構えた。
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デビルブリング
【槍と闇得意。サブ武器として、装具を装備できる上級職。
強い槍のスキルを多く覚える】
イビルスクリュー 槍(闇) 消費SP:55
【デビルブリング専用スキル。槍を高速で回転させ、闇を纏わせて敵に放出する。
威力が高く、命中率も高いが、接近していないと当たらない。クールタイム:2分】
ラビッドファング 槍 消費SP:40
【連続して相手を突き刺す、槍の上位スキル。
一発一発は弱めで、全段当てることで真価を発揮する。クールタイム:1分】
バトルシスター
【杖と光得意。サブ武器として、装具を装備できる上級職。
接近戦と遠距離戦に特化したスキルを覚える】
ライトニングソル 光 消費SP:70
【バトルシスター専用スキル。光を集め、巨大な光線として発射する。
詠唱に時間がかかるが、威力は絶大。クールタイム:3分】
ラストのシルビアは言うまでもなく妄想。
軽いネタバレですが、ポラリスに惚れているわけではありません。




